KAC20244 ささくれ

戌井てと

奥手なあのひと

 両手をついて炬燵に入る。少し不安な表情をした。


「どうした?」

「たいしたことないのよ。ささくれただけ」


 コップを両手で包み、ひとくち飲んだ。



 テレビを見てるところへ、ハンドクリームが置かれた。


「それ、結構効くらしいぞ」

「あら、買ってきてくれたの? まだあったんだけど」


 そう言った視線を辿ったら、鏡台に同じ色をした缶。


「なんだ、お前も知ってたのか」

「あなたが興味なかっただけでしょ?」


 キャップを緩め、手のひらに、ふにっとクリームを出した。


「まだあるって言ったのに使うのか」

「あなたが買ってきてくれたんだもの」


 普段通りに塗っているところへ、ゴツゴツした手が優しく触れる。


「テレビでな、こうやったほうがいいって、やってたぞ」

「いつ振りかしら、こうして触れるのは」

「急に恥ずかしいこと言うんじゃねぇよ」

「ふふっ、そうね。ありがとう、あったかくなったわ」

「いや、こっちこそ。いつもありがとう」


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