8が繋ぐ歌の世界

みっちゃん87

第1話 森の中の秘密のカラオケ店

かつてないほどの好奇心を胸に、エマは森の奥深くへと足を踏み入れた。彼女の心を掴んだのは、冒険への渇望と、日常からの一時的な逃避。それは、学校の課題や友達との些細な争いから心を離れさせる、まさに必要なものだった。


太陽が木々の間を縫うように降り注ぎ、エマは緑の中を進んでいく。すると、思いがけず、その視界に飛び込んできたのは、古めかしい建物の輪郭。一見すると放置されたように見えたその場所は、彼女の足をそこへと導いた。


建物に近づくにつれ、エマは床が軋む音を耳にした。扉を開けると、風が吹き抜ける音が歓迎してくれる。そこは、まるで時間が止まったような古いカラオケ店だった。店内に足を踏み入れると、レトロな装飾が目に飛び込んでくる。壁には8トラックカセットがずらりと並んでいて、それぞれが異なる時代の歌を秘めていた。


「いらっしゃい、珍しいお客さんね」と、優しい声がエマを出迎えた。声の主は、この店のオーナーであるおばあちゃん。彼女はエマを暖かく迎え入れ、古いカラオケマシンの使い方を丁寧に教えてくれた。この機械では、歌を選ぶためには8トラックカセットを挿入する必要がある。それを聞いたエマは、自分が何か特別な体験の一歩手前にいることを感じ取った。


おばあちゃんはエマのために美味しいオムレツを用意してくれた。食べながら、エマは店の中の懐かしく温かな雰囲気に包まれていく。まるで、これまでの人生で感じたことのない安らぎを見つけたようだった。


エマは選曲を決めた。それは、彼女が子供の頃に家族と共に歌っていた、心に残るメロディ。8トラックカセットをカラオケマシンに挿入し、マイクを手に取る。歌い始めると、店内がほんのりと光で満たされ始めた。それは、ただの光ではない。エマの心が開いていくような、不思議な感覚に包まれる。歌い終わる頃、彼女は自分がもう一つの世界へと足を踏み入れたことを知る。


この不思議な体験は、エマにとって新たな始まりの予感をもたらした。歌が彼女を導く冒険が、今、始まろうとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る