コミュニケーション

 食事と水を与えようと、棺の中で人の口の高さにあたる部分に設けた穴を開けると、

「出せよ!」

 罵声が飛んでくる。実に元気だ、と海藤は思う。

「ご飯だよ」

「いいから出せよ!」

「手作りのカレーなんだけど、口に合うかなぁ」

「出せってば!」

「飲み物はなにがいいかな? とりあえず、水を持ってきたけど、ジュースとかコーヒーがいい?」

「話聞けよ!」

 我ながら軽快な会話だと思いながら、スプーンを伸ばす。しかし、少女の口はギュッと閉じられた。もしかしたら、腹が減っていないのかもしれない、と海藤は考えた。

「お腹が空いたら言ってね」

「誰が食うか! 気持ち悪い」

 吐き捨てるように告げた少女。気持ち悪い、という言葉を耳にして、海藤は心配になる。

「大丈夫? 風邪薬でも持って来ようか?」

「そうじゃねぇよ! お前が気持ち悪いって言ってるんだよ」

 どうやら、自分を心配させないようにと無理をさせてしまっているみたいだ。これは自分が目の前にいるかぎり、意地を張ったままでいるかもしれない。

「ごめん。用事を思い出したから、ちょっといなくなるね」

「おい、ちょっと待てよ!」

 追いすがる声に心を鬼にして背を向ける。気持ち、エアコンの暖房を強めて、少女の言葉を無視して部屋を出た。それに、海藤には実際、他の用事もあったため、ここら辺が切り上げ時でもあった。

 

 

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