第7話 水蓮流暗闘③

 レイクとリンはイスメラ区にある警察署の一階ロビーにいた。目的はジャドの遺体を見るためだ。遺体に残された傷跡を調べて水蓮流剣術でつけられたものか確かめてほしいとブランから頼まれたのだ。


「ジャドたちは全員一太刀の下に斬り捨てられていたらしい」

「酒に酔っていたとはいえ真正面から刀を抜くこともなく斬られたのですか。死んだ人の悪口を言うのは憚られますが、あまりに情けないですね」

「まったくだよ。油断するなと言い含めていたのにこれだから」


 リンはジャドへの失望を隠さなかった。傲慢だと思っていたが成果を挙げるどころか勝負を始めることすら叶っていない。自信家の末路としては最低だと言わざるを得なかった。


「傷のつき方はラオル・バンザとは違うけど水の魔導剣術で斬られたのは間違いないわ」


 警察署の職員に話を通したブランがやって来てレイクたちを案内した。

 遺体安置所でレイクは三つの遺体を調べ、すぐに結論を下した。


「ああ、確かに水蓮流だ。見事な斬り方だよこれは」

「私も見たことがあります。これは……下から上に刀を振って魔力を放出して切り裂いていますね。“三連飛沫”で斬られたのでしょう」


 リンは傷から犯人の太刀筋がどれほどのものか想像した。才能ある人間がさらに努力を重ねて辿り着くような境地だ。彼女は自分が犯人と相対した光景を思い浮かべ、僅かに身を震わせた。


 ブランはリンの見立てに納得したように頷いた。


「実はラオル・バンザの事件を担当するパイン二等捜査官とマリガン三等捜査官が有力な目撃証言を得たの。昨夜事件が起きた路地から出てきた顔に痣のある男とぶつかったという人物がいたそうよ」

「その人は犯人の顔をはっきり見たんですか?」

「酔っていたからよく憶えてないって。でも、顔に痣があったのは確からしいわ」

「そうですか……おや、レイクさんどうしたんですか?」


 リンは遺体を見下ろしながら腑に落ちないという様子のレイクに気づいた。レイクは話しかけられても反応せず遺体を見下ろしたままだった。




 レイクとリンは次にアランデル道場を訪れた。事件が解決するまで道場は休むことにしたためルカの他には誰もいなかった。ルカは併設された住居の庭で一人佇んでいた。


(ジャドも死んだ。状況からして最初から奴を殺す気だったのは間違いない。ミッジは敵対していた奴を狙って殺している。それなら次は俺の元に来るはずだ)


 木々や池を眺めながら、彼の胸の内ではいずれ来るであろう戦いへの予感で燻っていた。気を静めるために感情を強く発散させたいが、戦意が消え去らないように留めてもおきたいという相反する思考が混在していた。


 そんなルカを見つつレイクは苦笑した。


「気合が入ってるね。いつ敵が来てもいいようにって感じ?」

「まあな、そう遠くない内にここへ来るのは分かり切ってる」

「うん、犯人が次に狙うのは君と見ていいと思う」


 ルカは大きく深呼吸した。


「心が揺らいでるね」

「……本当に俺にミッジを倒せるかどうかずっと考えてた。四年前まで奴に勝てたことは数えるほどしかない。あれから修行を続けて新しい技も編み出して……それでも勝った時の様子を想像することができない」

「だからこそ俺たちが来たんだ。一人で戦う必要なんてないからね」


 レイクがリンの顔を見ると、彼女も同意を示した。


「私たちは貴方を信頼しているから力になりたいんです。その信頼は貴方が自らの行いで勝ち取ったもので誰にも憚ることはありません」


 ルカは顔を背けた。無骨な印象の強いこの男は、帝都有数の美女から面と向かって褒められることに慣れていなかった。

 彼は一度咳払いすると二人の友人を真っ直ぐ見据えた。


「すまない――いや、この言い方は違うな。ありがとう二人とも。改めて俺に手を貸してほしい。ミッジを倒そう」

「勿論」


 レイクは最初に依頼を受けた時のように笑い、それから意味深な言葉を付け加えた。


「尤も――ミッジと戦うことはないけどね」




 部屋の中に一人の男がいた。

 ラオル老人が殺された現場で、ジャドが殺された現場で目撃された男だ。

 彼は嗤っていた。


(今夜すべてが終わる。水蓮流は俺の物になる)


 男は机の上に置いていた一枚の写真を手に取った。ルカ・ガードナーの写真だ。

 彼は写真を宙に放り投げると刀を抜き、写真を細切れにした。

 写真の破片がはらはらと床に落ちる。


(ルカ・ガードナー、今度こそお終いだ。四年前のようにはいかない)


 男は机の上の電灯を消した。




 ジャドの事件から三日目の夜、アランデル道場の稽古場にルカはいた。

 ルカは床に座り、瞑想している。かれこれ二時間ほどこのままだ。彼はこれまでに見せたことのないような静けさを纏っており、それが空間全体に伝播しているようだった。


 その静寂を破ったのは僅かな足音と人の気配だった。


 ルカの目が小さく開かれた。足音はゆっくりと、確実に稽古場の方へと近づいてくる。ルカはそのまま身動き一つすることなく待った。


 やがて、稽古場の扉が軋んだ音を立てて開いた。


 部屋に入ってきた人物がルカの背中に声を投げかけた。


「ルカくん?」


 ルカは振り向くとやって来た男へ微笑んだ。


「ああ、アルジャンさん。どうしたんですかこんな時間に」


 アルジャン・ブロワは頭を掻きながら言った。


「ちょっとこの近くに用事があったからついでに寄ったんだよ。ジャドくんの件もあったから気になってね」

「そうですか。御心配おかけします」


 そう言うとルカは再び背中を向けた。瞑想していた時と同じ姿勢のまま微動だにしない。その背中をアルジャンは黙って見つめていた。


「来ないんですか?」

「――!」


 アルジャンが息を呑んだ。普段は頼りなさそうな顔つきが驚愕に染まった。


「今なら背中を斬ることは簡単でしょう。あるいは、したくてもできないんですか? 背中から斬られていたら俺が犯人に気を許していたと分かりますからね」


 ルカの言葉はアルジャンに対する告発を意味していた。その言葉を合図にして稽古場の隅に置かれた道具の陰に隠れていたレイクとリンが姿を現した。


 二人がアルジャンの元へ歩み寄る。アルジャンは一歩後退った。


「調査報告を聴いた時からずっと引っ掛かっていた。ミッジが単独で行動しているとは考えにくい。でも、ミッジの協力者らしき人物も見つからない。それに現場付近で目撃されているのにそれ以外の場所での目撃証言が一つもない。まったく足取りを追うことができないんだ。だから、考えてみたんだ。そもそもミッジは・・・・・・・・どこにもいないん・・・・・・・・じゃないか・・・・・と」

「現場で目撃された男は“ぼさぼさの髪”で“刀を差していて”一番目立つのが“顔の痣”です。顔をはっきり見た人はいません。それに水蓮流を使う特徴からミッジさんじゃないかと考えられただけです」 

「その程度なら簡単に装えるよね。痣は顔料でメイクして、かつらで髪型を変える。現場を去った後でどこか人気のない所へ行き変装を解いてから家に帰ればいい。それに――」


 レイクは、もう一つと指を一本立てて言葉を足した。


「ミッジがジャドを“三連飛沫”で殺せるわけがない。あれはミッジがいなくなった後で世に出た技だ。ジャドの死体を調べて犯人がミッジでないと確信した」


 アルジャンは冷たい表情のままレイクを睨んだ。親愛の欠片もない冷酷な殺人者の顔だった。


「もし、ルカを斬る機会が訪れなかったらまた・・毒に頼るつもりだったのかな?」


 アルジャンの頬がぴくりと動いた。

 

「四年前の事件で用いられた毒は本来魔力抑制の用途で使われる薬だ。でも、あれって魔力酒を造る材料にもなるんだよね。魔力を酒の内側に留めるために混ぜるんだ。《ブロワ酒店》の過去の取引記録を調べさせてもらったよ。四年前に『山雫』を買う時に、酒蔵に頼み込んで勉強用と称してその素材も買ってたね。それをミッジに渡してルカを殺すよう唆したんだな。ただ、毒を盛った後でラオル爺さんに目撃されてしまったから奴は逃げる必要に駆られた。奴はあんたに匿うか逃亡の手助けをしてほしいって頼んだんだろう。だから、奴の口を封じることにした。今度はミッジにその毒を盛って」


 レイクはホタルが調べ上げた《ブロワ酒店》の取引記録を思い出していた。アルジャンが購入した薬の量からして、ルカに盛られた分の他にもまだ一人分を殺せる量が残っていると思われた。アルジャンは慎重な人間だ。予備の毒を用意していることは容易に想像できた。


「“毒はどんな強者も殺しうる武器”――まさにその通りだ。ミッジがいくら強くても毒には勝てない。奴の遺体は前の店があった土地に埋めたんだろう? 支店を出す計画が潰れたのも地面を掘り起こされたくないからだ」


 アルジャンは肩の力を抜いて首を振った。


「……そこまで分かってるなら、どうして俺が今度の事件を起こしたのかも分かってるのか?」


 それは教師が生徒に問題の答えを訊ねるような口調だった。彼にはもう言い逃れをする意思はなかった。

 レイクは問いに答えた。


「アランデル先生の後継者争いはミッジとジャドの間で激化していて、そこへルカが唐突に参戦した形だ。皆この三人しか目に入っていなかった。だからもう一人後継者の座を狙う四人目の存在に気づいていなかった」

「そうだ。この道場を開いた時からずっとレスターさんと共に水蓮流を支えてきた俺のことは誰も眼中に入れてなかった。だが、一番哀しかったのはレスターさんが俺を後継者の候補にも挙げなかったことだ。どうしてルカを……」

「水蓮流に愛着のあったあんたは耐えられなかった。そこで水蓮流を手にするため外道に堕ちたんだ。ミッジを使ってルカを殺そうと企み、邪魔になったミッジを消した。ルカを殺すのに失敗した後はしばらく大人しくすることにした。だけど、最近になって水蓮流の知名度が上がったのを機に水蓮流を奪うなら今しかないと考え、新たな計画を立てた。一番の障害であるルカ、それにあんたの狂気に薄々勘づいていたラオル爺さんともう一人の邪魔者であるジャドも纏めて消すために」


 ラオルの名前を聞いてアルジャンは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 リンがレイクの推理を引き継いで語りだした。


「ラオルさんは“道場の中でルカさんだけが信頼できる”と言っていたそうです。ベスナー先生は一番頼りになるのはルカさんだけという意味で捉えたのでしょう。アルジャンさんの名前が挙がらなかったことに疑問を抱かなかったみたいです。ただ、私は少し気になってレイクさんに相談したんです」


 リンはラオル老人がアルジャンを嫌っていたかレイクに訊ねた。レイクは老人が自分とルカに目をかけていたことは知っていたが、長年主を助けてきたアルジャンに気を許した場面を一度も見たことがなかったことに気づいた。気難しい偏屈爺さんだからぞんざいな態度をとっているだけだと見過ごしていた事実を再認識した瞬間、レイクの中にアルジャンへの疑惑が持ち上がった。


「ジャドは後継者争いでも邪魔だが、奴が父親を後ろ盾に道場の支援者になるのも怖かったんだろう。水蓮流を金銭面で支えた《ブロワ酒店》の立場が揺らぐからな」

「その通りだよ。後はルカを殺してミッジに全ての罪を着せる。皆はどこにもいないミッジを探して途方に暮れる。俺は水蓮流を手にする。それで終わるはずだったんだ」


 ルカは立ち上がり、もう一度振り返った。悲壮感に溢れた様だ。


「アルジャンさん、もう止めろ。俺もあんたに世話になった口だ。素直に縄についてくれ」

「生憎だが俺は剣に人生を捧げると決めている。ベッドの上で死ぬより剣で死ぬ方が良いんだ」


 アルジャンはラオル老人やジャドを斬り捨てた時と同じ邪悪な笑みを浮かべると、肩を抜いた。青白い水の魔力が刀に纏わりついていく。研鑽を積んだ末に辿り着いた魔力操作の技術が垣間見えた。


 レイクは僅かに視線を落とし、刀を抜く。


「ルカ、やるぞ。もうこの人は止められない」

「……分かった」


 レイクの言葉に応じたルカが刀を抜く。レイクはリンに向けて小さく首を振り、手出し無用であることを伝えた。

 リンは無言で頷き下がった。ここからは水蓮流の使い手たちの戦いだ。彼女の顔に不安の色は一切ない。レイクとルカへの信頼だけがあった。


 二人がアルジャンを見据え、アルジャンもまた二人を視界に収められる位置から見据える。


 最初に動いたのはアルジャンだ。横に刀を振るうと同時に水の魔力が放たれ、高圧の水がレイクとルカへ襲いかかる。二人は水の刃を真っ向から受け止めた。刀ごと貫こうとする水の勢いを容易く押し返し、水の粒が三人の間を舞った。

 レイクが身を屈めて刀を下段から振り上げた。刀の軌跡に合わせて水飛沫が新たな三つの筋を描く。アランデルが遺した“三連飛沫”だ。とうの昔に道場を去ったレイクがこの技を習得していることにアルジャンは少しも驚かなかった。この道楽者の仮面を被った達人ならあり得る話だと思っていたからだ。


 アルジャンは“三連飛沫”を打ち消すべく刀を振るおうとした。純粋な剣術と魔術の力量はどちらもレイクが上だが、魔導剣術はそれらを複合させるため単純な足し算で威力は計れない。アルジャンは緻密な魔力操作なら自分が勝るという自信があった。レイクの技が放つ魔力の量と質は完璧に捉えている。これを的確に相殺することなど訳のない話だった。


 だが、アルジャンは見た。

 レイクの後方で見たことのない形で水属性の魔力を練り上げ、刀を中段に構えている姿を。

 アルジャンの直感が警鐘を鳴らした。あれが何か彼は知らない。だが、絶対に受けてはならないと理解した。身体強化した脚力で一気に距離をとる。


「――」


 ルカが小さく何かを呟いたが、アルジャンには聞き取れなかった。

 代わりに彼の耳に飛び込んできたのは刀を振る音、それに続く己の胴の肉が裂ける音だった。視線を下ろすと衣服が横に切り裂かれ、隙間から血が滝のように流れ落ちている。彼の靴と床に血が滴り落ちた。


 アルジャンは自分の身に何が起きたのか理解できなかった。魔導剣術は剣の動きに合わせて魔術を放ったり、剣そのものに魔術の効果を付与したりする。そのいずれも行使する際に放出される魔力を視認することができ、熟達した者であれば対処することが可能だった。


 だが、今ルカが見せた技にそんな予兆はなかった。魔力は刀に纏わりついたままで、魔術効果が発動した様子はない。ただ刀をその場で振るっただけだった。それにも関わらず遠く離れた位置にいるアルジャンの身体は斬られていた。


「なんだそれは……」


 呆けたような表情をするアルジャンの口から、肺の中の空気を押し出すように息が漏れた。


「“波紋”――」


 ルカは刀を下ろした。


「道場を継いだ後、先生が遺した未完成の技を研究している時に思いついた技だ。知っての通り水の魔力は荒野でもない限りどこにでも存在する。今この場にも」


 魔術を行使する時、術者の肉体やその周囲に魔力が放つ光を見ることができる。それは術者によって魔力が練られ、明確な指向性と形を作られることで視覚化されるという魔力の特性によるものだ。魔力そのものは自然状態で大気中を漂っていることは魔術を基礎として学ぶ。


「魔力を刀に込めて振るうことで放出するのが水蓮流を始め水の魔導剣術の基本だ。だが、これは水の魔力を直接斬撃として放出せず、勢いだけを大気中に存在する水の魔力に伝播させる」

「つまり、水の斬撃が練られる前の不可視の魔力を通じて相手に届く。見えない斬撃・・・・・・ってわけか」


 レイクは友が見出した水蓮流の新たな境地に感服した。戦いを見守っていたリンも目を輝かせている。


「水の魔力はどこにでもあり、使いやすく、応用が利く。いつか披露するつもりで編み出した技だった……こんな形で見せたくなかったよ」


 アルジャンの耳にルカの言葉はもう届いていなかった。

 薄れゆく意識の中で彼の心を占めたのは、水蓮流がさらなる高みへと登る瞬間に立ち会えたことへの歓喜だった。


(“水のように澄んだ心持ちで剣を振るう”――やはり水蓮流の技は美しい)


 水蓮流剣術に人生と魂を捧げた殺人者アルジャン・ブロワは、幸福に包まれた中息絶えた。




 一ヶ月後、アランデルの墓前で事件の顛末を告げるルカの姿があった。


「アランデル先生、ようやく道場も落ち着いてきました。アルジャンさんもジャドもいなくなって資金面をどうするかが悩みでしたが、リンさんがクレファー伯爵の人脈を頼りに新しい支援者を見つけてくれたので何とかなりそうです」

「もうしばらくは俺も手伝うことにするよ。ラオル爺さんがいなくなって道場の管理をする人も寄越さないとね。こっちは俺が探してみる」


 アランデル道場は支援者二人が立て続けにいなくなり、早急に次の支援者を探す必要に迫られた。そこでリンが父親に頼み込んで水蓮流剣術へ関心のある人間を募ったところ、思いのほか早く見つかった。

 名乗りを上げたのはルカが剣術教室の講師として教えていた貴族の少年の叔父だ。少年はルカを尊敬し、彼のことを父親に話した。父親はそれを弟に話し、その弟は水蓮流が晴天流に匹敵する流派という噂を耳にしたことから興味を抱いた。そして、クレファー伯爵が支援者を募っていることを知り、連絡をとったのだ。


「悪いな。何から何まで二人には世話になって」

「何言ってるんですか。新しい支援者はルカさんが剣術の講師として活動していたのを知って興味を抱いた方ですよ。ルカさんの努力が認められた結果です」

「君が地道に活動し続けていたからこそ水蓮流の評判も保たれたんだ。誇っていいよ」


 事件により水蓮流の悪評が立つことも懸念されたが、影響は最小限に留まった。それはルカが根気よく一から帝都民の信頼を勝ち取るために行動したが故だ。

 解決から一月が経つ今ではもう事件について話す人間はいない。事件が収束するまでの時間は早かった。

 帝都警察は《ブロワ酒店》を捜索し、アルジャンが魔力抑制剤の原料を購入した証拠を押収した。旧店舗が建っていた土地も掘り返され、レイクの推理通りミッジ・ロウの白骨化した遺体が発見された。


 レイクはもう一つ気になることがあり、ブランにそれを伝え調べてもらった。

 《ブロワ酒店》の先代はアルジャンが水蓮流に入れ込むことに反対して、彼を店から追い出そうとした。だが、先代が病に倒れたためアルジャンは店を継ぐことになり、彼に反対する人間はいなくなった。その後、先代はそのまま病で死去している。

 レイクは先代店主の墓を掘り返して遺体を調べてもらった。彼の読み通り先代の亡骸からは毒物が検出された。アルジャンは誰であれ邪魔者を赦す気はなかった。


「それにしても“波紋”は素晴らしかった。アランデル先生でも生前思いつかなかった技だ。俺にも是非教授してもらいたいよ。やっぱり先生の目に狂いはなかったってわけだ」


 レイクの心からの称賛に、ルカは恥ずかしそうに笑った。

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