05-10 会いに行きましょう。

「十五年前の誤解はとけたけど……このあとはどうしようか」


 両腕を広げた姿で氷漬けにされているオリーと、そのオリーをねちねちねちねち罵倒し続けているバラハをさかなにブドウ酒をがぶ飲みしながらザルというか枠の域なリカが尋ねる。


「アーロン・ユーバンク男爵に会いに行きましょう」


 答えたのはラレンだ。

 酒に強いわけでも弱いわけでもないけれど、しつの悪い庶民向けのブドウ酒は合わなかったのかもしれない。


「指揮官として前線に立ち、魔族と戦った経験があります。どんな魔族と戦ったのか、話を聞きに行きましょう。それに――」


 額を押さえながらラレンは力のない声で言う。


「アーロン男爵はこの土地の領主でもあります。村人たちの同意なく火を放ち、土地を取り上げたのなら問題です。父に――アルマリア神聖帝国現国王に報告しなければなりません」


 ラレンはリカに向かってそう言ったあと、正体に気が付いて真顔で口から泡をふき始めるアンブリーたち四人に目を向けた。


「キミたちの名前は出さないよ。キミたちを責めるのも許すのも家族や友人、隣人がするべきことだ」


 ちょっと聞くと突き放しているように思えるラレンの言葉にアンブリーたち四人は顔を見合わせて困惑し、付き合いの長いオリーとバラハ、リカはくすりと微笑んだ。

 あいかわらず淡々とした表情をしているけれど心の中ではリカたちと同じように微笑んでいるのだろうジーも含め、仲間たちの視線にラレンはフン! と鼻を鳴らすとそっぽを向いた。


「俺の慈愛ーとか言ってるオリーに抱きつかれるのも、暑苦しいしウザいし十分過ぎるくらいキツイ刑罰だと思うしね。いっそ極刑みたいなもんだと思うしね!」


「そこまで言うなよ、ラレンーーー!」


「って、言いながら早速、抱きつこうとしないでくれる!? バラハもなんでオリーを解凍したの!? 氷漬けのままにしておいてくれないの!?」


 両腕をガバッと広げて抱きついてこようとするオリーのみぞおちを杖でどついて遠ざけながら、ラレンはバラハに向かって怒鳴る。バラハはといえばご近所の子供を見守るおじいちゃんみたいな生暖かいまなざしでラレンを見つめて微笑んでいる。


「筋肉バカがラレンに抱き着きたいかな、と思いまして」


「それがわかっててなんで解凍したのかって聞いてるんだよ! だからこそ、氷漬けのままにしておいてくれって言ってるんだよ! あーあーーーわかってるよ! 面白そうだなって思ったからやってるってことはよくわかってるよ! この三年、いっしょに旅をしてきてよーーーくわかってる!!!」


「俺の慈愛ぃ~」


「だから、抱きつこうとするなって! やめろって! 筋肉バカのオリーに抱きつかれたら死ぬから! 本当の意味での極刑になっちゃうから!」


「それじゃあ、ラレン。オリーから逃げつつ、アーロン男爵の屋敷まで案内を頼むよ」


「勇者様に道案内を頼まれたぁー! わっかりました、勇者様! お任せください、勇者様ぁぁぁあああーーー!」


「逃げながら案内しろって鬼ですか、リカ」


「俺の慈愛ぃぃぃ~~~」


 ワーワーギャーギャーと大騒ぎしながらなんだかんだでアーロン男爵の屋敷に向かい始める勇者パーティの面々にジーはあいかわらずの淡々とした表情で、しかし、心の中ではニッコニコの笑顔を浮かべながらイスから立ち上がった。


「やはり、とても仲の良いパーティだ」

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