第12話
「ここは……」
モニカが入り込んだ部屋は薄暗い。
プレゼントが置かれている部屋とも思えないのだが。
「あんまり、ええ雰囲気とちゃうな」
ぼそりとつぶやいたケルスは、自身の寝床となっている地下牢と同じ気配を感じていた。
人はケルスを信じ切れなかったのだろう。封印は施していたのである。それもしかしケルスにとってはおもちゃの錠前のごときものであったが、気分のいいものではない。それのいやな臭いが確かにする。
ケルスの警戒をよそに、無邪気なモニカは駆け出した。
「あかんで! 危ないがな!!」
モニカは、部屋の真ん中に置かれていた小箱を取ってきた。
「ケルス、ケルス、これ、なんでつか?」
「プレゼントの箱、っちゅうわけないわな」
「そうでつね……。あ、カギがついてまつ」
モニカ、別にそれがプレゼントであろうがなかろうがどうでもよさそうである。
それよりも珍しものを見付けたと、興味がそれそのものに移っているのであろう。
「ビックリ箱かもしれまてん」
振ったり、ゆすったり、叩いたり。
何だかモニカ、楽しそうである。
「あかん、あかん。そないに乱暴にしたら」
「ケルス、これ、開けてくだたい」
「いやいや、あかんやろ。なんか封印しとるみたいやし」
「開けてくだたい!」
幼女のわがまま、炸裂である。
ほっぺ膨らました限りはもう、折れるのは……。
「かなんなあ」
ケルス、甘々である。
ケルスがちょいと爪を立てると、簡単にカギは開いた。
その途端、なかから何かが飛び出してきた!
「やっぱり、ビックリ箱でち!」
とっさにケルスがかばったが、モニカは当たりを引いたようにうれしそう。
飛び出したものは、外へ出られないのか、部屋のなかをくるくる飛びまわっている。この部屋自体にも封印がなされていたのだろう。
飛んでいるものはただの鳥ではなく、魔鳥とでもいうべきものか。
黒く小さな、ツバメのような鳥である。
「かわいそうになあ」
「へ?」
モニカ、鳥さんを追ってくるくるはしゃいで駆け回っていたが、ケルスが何気なくこぼした一言に反応。
「かわいそうなのでつか?」
「ああ、閉じこめられとったんやろ。いつからか知らんけど」
「それはダメでつ!」
「ダメっちゅうてもなあ」
「おとそに行きたいのでつか? あのビックリとりたん」
「ビックリて……。まあ、そやろな。仲間のところへ戻りたいやろな、そりゃ」
「ダメでつ!」
急に、モニカは大きな声を出した。
鳥が気に入ったのか、手放したくなくなったのだろうか。
「ダメなのでつ! 独りはさびしいのでつ! モニカも、ケルスも、とりたんも、ねえたまも、にいたまも、かあたまも、とおたまも!! みんな、みんな、いっしょがいいのでつ! みんなで遊ぶから楽しいのでつ!!」
一気に、モニカは叫んだ。
「あかん!」
それに驚いたか、反撃か、小さな鳥がモニカめがけて……。
ケルス、また間に入り、ひとにらみである。
魔鳥にも知性はあるようだ。
何を勘違いしたのか、ケルスの威嚇を受けると、すうぅっと元の箱へと戻っていった。
カチリと、その瞬間、またカギがかかった。
「とりたん?」
「ああ、まあ、おとなしゅうなったなあ」
「とりたん? とりたん?」
「お嬢、もうええやろ。ここから出よか。もう遅いで。みんな心配してるわ」
「でも……」
「ま、お嬢にはどうも出来んわ。こればっかりは」
後ろ髪引かれる様子のモニカを引っ張るようにして、ケルスはともに暗い部屋を出た。
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