第10話

「ケルスゥ!」


 姉リジェルのけん制などつゆとも知らず。

 別の日、今日もモニカは、隙を見付けてはケルスのもとへ。


「なんや、お嬢、また来たんかいな」


 ケルス、そろそろげんなり。


「ケルス! モニカ、明日おたんじょうびでつ!」

「おう、そりゃよかったな」

「明日はパーチーでつ!」

「パーティー? ま、そやろな。大事な大事な、末の姫さんの誕生日や。盛り上がんねやろな」

「いっぱい用意してくれているでつ。楽しみでつ!」

「そうやろうな。ま、あんじょう楽しみや。で、それをいいに来たんか?」

「にいたまも帰ってきてくれまちた。ケルスにもおいわいしてほしいのでつ!」


(プッ……)


 と、思わず、伝説の魔獣が噴き出した。

 その鼻息で、モニカのふわふわの綿菓子のような金の髪が揺れる。


「ワイに? ほんま、お嬢はけったいなこというなあ」

「なんででつか?」

「ワイはいわば、人間の敵やで?」

「敵? ケルス、モニカをいじめるでつか?」

「そうやでぇ~。がぶっと行くんやで~」


 ケルスのそれは明らかにからかいである。

 モニカはきょとんとして、でもはっきり。


「こわくないでつ。ケルスとモニカはもう、お友だちでつ!」

「友だち……」


 遠い昔をケルベロスは見た。


「お友だちからはおいわいしてほしいのでつ! みんないっしょ、ケルスもいっしょでつ!」

「フフ……」

「何がおかしいのでつか?」

「うんにゃ。お嬢はお嬢のまんまでええわと思うてな」

「よく分からないのでち」


 こてんと首をかしげるモニカは、かわいらしいお人形さんのようである。


「ま、ええわ。とにかく、ハッピーバースデー。5歳か? ま、いおうたるよ」

「おざなりでつ! 心がこもっていないでつ!」

「なんや、難しい言葉、知っとるなあ」

「ごまかさないでほしいのでつ! おいわいの気持ちあるなら、モニカともっと遊ぶのでつ! ケルスのプレゼントはそれでいいでつ!!」

「つまりまあ、プレゼントせがみにきたんか。で、ワイと遊ぶ口実にもすると」

「つまりまあ、そういうことでつ!」


 大人の真似をするのは子どもの特権。


「かなわんなあ……」


 と、いいつつ、ケルス、先ほどとは打って変わって満面の笑みである。


「では、いくのでつ!」

「なんやもう、ワイに選択権ないんかい」

「おせんたく? ケルス、何かよごちまちたか?」

「それは知らんねんな。ま、ええわ。付きうたるっちゅうこっちゃ」

「あい!」


 ケルス、また大型犬の姿に化けモニカを背に乗せ、とことこと地上へ。

 考えてみれば、本拠たる王城を縦横無尽に魔獣が闊歩かっぽである。王国もずいぶんなめられたものである。

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