チート一族になりたくて

星野林

うつけの足軽大将照継

 安芸国の郡山城下にてとある男が生を授かる。


 宮永家……郡山郡を支配する毛利家に仕える足軽大将という下から数えた方が早く、地領も100石もいかない貧しい半農半兵の家の長男として生まれる。


 宮永家は代々毛利家の領民として暮らしており、小競り合いや利権の争いで武勲を重ねて今の地位を手に入れていた。


 そんな宮永家の待望の長男だったが少し変わっていた。


 好奇心旺盛で色々なことを試しては怒られるを繰り返し、時に牛の乳を沸かしてから飲んだりといった奇行を繰り返していたのでうつけと呼ばれバカにされていた。


 そんな彼の名前は宮永福丸……ここから宮永家の歴史が始まっていくこととなる。










「さてどうしたものか」


 一昔流行った異世界転生ならぬ過去への転生、しかも女神様が何をトチ狂ったか異世界に勇者として転生させるハズが戦国時代に転生だ。


 しかも妖怪だか悪魔とかそういう人外と呼ばれる者が少なからず居やがる。


 どちらかと言えば女神転生みたいな世界か? 


 うーむよくわからん。


 よくわからんがそういう世界なのだろうと納得した。


 郷に入っては郷に従えという言葉があるしな、ただやれることはやらして貰う。


 俺の知識として使えそうなのは農大出身、自衛隊歴10年、畜産業従事の経験が生かせそうだな。


 後は妖怪とかの知識か? 


 まぁとりあえず妖怪でも捕まえてくるか。


 なんか勇者の力か知らないがそういうのがどこに居るかわかるからな。









 夜にこっそり家から草刈り鎌を持って抜け出し、裏山に入り歩いていくと俺が仕掛けた罠に狐が宙吊りになって引っ掛かっていた。


「化け狐の子供ってところか?」


「人間、私を助けろ!」


 わちゃわちゃと化け狐が動いているが威圧感もへったくれも無い。


「助けたら俺の家来になれ」


「家来だ? ククク、弱き人間に使役できるほど化け狐は弱くないわ!」


「あっそ、じゃあ今夜は狐鍋だな」


「わぁ! ごめんなさい! 食べないで~!」


「じゃあ交渉成立だな」


 化け狐を罠から解放する。


 すると解放した瞬間に爪で攻撃してきたので俺は思いっきり腹部をパンチしてやった。


「ごは!?」


「命の恩人にその態度か? 上下関係を叩きこまねーとなぁ」


「ひ、ひぃ」


 化け狐を力でわからせ服従させ家に連れて帰り、父親に狐を飼うと言うと呆れられたが、うつけと呼ばれている俺の奇行は今に始まったことではないのでそのままにされた。


「旨い! 旨い!」


「旨いか? たらふく食え~」


「粥なのに味が深い! なんだこれは?」


「鶏肉を煮込んで出汁を取って、試作の醤油を入れた粥だ。まだ俺的には不味いがな」


 化け狐に蘭と名前を付け、食事を与え、夜には妖怪狩りを手伝わせた。


 妖怪といっても戦場跡とかに出てくる人魂とか腐臭のする犬とかを退治していく。


 犬が飛びかかってくるがそれを草刈り鎌で首を切断する。


「なんで人間のガキなのに私をボコボコにできるのか疑問だったけど、もしかして妖怪をこうやって倒していたの?」


「ああそうだが? なんか倒せば倒すほど力が湧いてくるからな」


「……どうりで妖力が普通の人間よりも高いわけだ」


「妖力? なんだそりゃ?」


「全ての生きる者には妖力と呼ばれる力が流れているんだけどそれが妖怪とかは多いの。人間は少ないハズなのにご主人は下級妖怪並位には多いから不思議に思っていたけど妖怪を毎日倒せばそりゃこうなるわ」


 どうやら妖力というのを蓄えれば蓄えるほど力が強くなったりするらしい


 昔(平安時代)はそれが盛んに行われ、源頼光の妖怪退治で怪物並みの力を得たりしていたらしい。


 ただ戦国の乱戦により妖怪達や物怪の結界が崩壊し、守っていた貴族達も没落したため自由に動けるようになった、良い世の中になったと蘭は語る。


「まぁ俺は力を得たい、妖怪のお前らも美味しい物や格の高い妖怪になりたいなら俺に力を貸せ」


「確かに妖怪は他の妖怪を倒すか人の命を刈り取れば成長していくけども……」


「あ、妖怪が居るなら神々もいるのか?」


「いるけど乱戦で没落したり、僧侶の堕落で制御不能になったりで大変らしいよ」


「よっしゃ、近くの神を仲間にすっぞ」


「えぇ……」







 ということで乱戦で廃社になった場所に赴き、乞食同然の神を仲間に加えた。


 対価として信仰を要求してきたので一族の守り神となるならと了承し、家の近くに小さな社を建てた。


 ちなみに女神の名前はベイワヒメ(米和姫)と言うらしく、オオゲツヒメ(食べ物の神様)の次女の孫に当たる神様らしいが、そもそもオオゲツヒメも末っ子以外知名度が全く無いので更にその曾孫ともなれば超マイナー神になる。


 しかもそれを奉っていた社が破壊されたことで力を失い、乞食同然に落ちぶれていたとのこと。


「力が戻れば凶作を防ぐことぐらいはできる……と思います」


「まぁとなると米和姫には俺が育てているこれの管理をお願いしたいんだが……というか蘭も手伝ってくれ」


「何を作ってるの?」


「椎茸」


 歴史物でよく出てくる椎茸の栽培。


 裏山にはくぬぎの木々が多く生えていたので、切り出して刃物で傷を付けて椎茸が生えることを祈り、約1年チャレンジして少しだけ収穫することができたので、それを米ぬかやおがくずを使って培養して増やしていった。


 というか家族にも秘密で行っていることであり、成功したら儲け物と考えていたので管理人と守る人を欲していたため神様と蘭に守って貰う。


「椎茸の栽培!? か、神々でもさじを投げる物を平然と!」


「椎茸って凄く高級な物じゃなかったっけ?」


 椎茸はこの時期だと1籠で豪華な屋敷が建つと言われるくらい高級品であり、日本だけでなく中国でも需要があったために値段がはね上がっていた。


 椎茸栽培や下級妖怪退治、炭焼きや肥料の実験をしながら過ごしていると父親が戦に駆り出された。


 が、ここで親父が討ち死にしてしまい俺とお袋が残されてしまう。


 毛利の殿様に世襲の挨拶をし、親父の地位は引き継いだがまだ元服前の9つの小僧と見られ親父の部下達からも舐められてしまう。


 まぁ日頃の奇行も合わさり足軽達も鞍替えして俺から離れていった。


 なので俺は孤児を集め、家で雇った。


 足軽大将としての知行で養えるのはせいぜい20名。


 戦争孤児達や戦争で身体に障害を抱えた弱者を雇う事から更にうつけ者と呼ばれたが気にしない。


 お袋にも心配され忠言を受けたが気にすること無く突き進む。


 まず養蜂、炭焼き、コンニャク作り、養鶏に手を出した。


 養蜂、炭焼き、コンニャク作りは金作の為、養鶏は肉を食べて体を作るためと鶏糞から肥料を作るためだった。


 親父が死んだことで実験の時間は減ったが、鶏糞を使った肥料作りは肥料の実験を繰り返していたので成功し、養蜂、炭焼き、コンニャク作りも一定の成果をあげると村人達はうつけじゃなくて切れ者として見るようになっていた。


 更にここで椎茸の栽培方法を伝授して村ぐるみで栽培量を増やすと周辺の村よりも豊かな村になることに成功した。


 で、まぁそうなると周辺の村はいちゃもんを付けてくるので毛利の殿様に税を多めに払い、仲裁を求めるが、この頃の毛利の殿様は優柔不断のお方で家臣団が分裂している状態なのでいちいち村の揉め事まで手が回らない。


 なので隣の村と武力衝突で決着をつけることとなる。


 で、俺が地位が高いので村の大将を務めるが、真っ先に敵陣に突入して相手の大将と一騎討ちを声高らかに宣言する。


 ガキだと舐めてかかってきたのか、1対1に応じないのは恥と思ったのか要望に応じた敵の大将との一騎討ちは妖怪退治で地力が上がっていたこと、食生活に気にして肉や栄養を取れる食事をしていたことで筋力がしっかりついていたこと、何より自衛隊の時代に体の鍛え方をしっかり学んでいたことが勝因で相手の大将を無傷で討ち取ることに成功し、最小限の流血でことを納めることに成功する。


 この一件で名実共に村人からの信頼を掴んだ宮永福丸は10歳で元服し、宮永照継の名前を毛利家の家臣の志道広良という人物に烏帽子親を頼み、執り行ってもらった。


 志道広良は切れ者として毛利家では知られており、重臣坂一族の一門であり、宮永がギリギリ声がかけられる位置に居た人物であった。


 宮永は志道広良の事を親父殿と慕い、広良も照継と下の名前で呼び、将棋や囲碁に誘うほど親睦を深めていった。


「照継、毛利をどう見る」


「柱ができれば化けるかと」


「柱か?」


「今は戦国の世、力が何よりも尊ばれる時代、小さな所領である毛利を飛躍させるには毛利の明確な棟梁が必要、そしてそれを支える家臣団の形成もですな。毛利は今3つに分裂していますからなぁ」


 現在毛利は大内派、幕府派(尼子派)、毛利派に別れてしまっている。


 現在毛利は大内家と尼子家の巨大勢力に挟まれており、家臣団がほぼそのどちらかに内通している状態であり、毛利家を本気で盛り立てようと考える者はごく少数であった。


 そのごく少数に志道広良と宮永照継は属していたが、今の殿様……いやご隠居様は酒に溺れてしまい正常な判断が下せなくなっていた。


 現当主の毛利興元(今はまだ元服前だが混乱するので毛利興元で統一)はまだ幼く、こちらも正常な判断ができないので今の毛利家は空中分解一歩手前であった。


「人を育てるしかありますまい。そして国を富ませなければ毛利に未来は無いかと」


「よくもまぁ堂々と未来が無いと言えるな」


 俺の知る毛利は中国地方に最大勢力となる存在だが、今の毛利は吹けば飛ぶような弱小勢力である。


「……私塾でも開きますかね」


「私塾? なんだそれは?」


「足利学校を真似た物を私個人でやろうかと」


「面白そうだな。俺も混ぜろ」


「切れ者の親父殿が手伝ってくれるのならば百人力ですね」










 私塾を開校し、年齢問わず、男女問わず、農民だろうが武士だろうが商人だろうが問わずに勉強を教える場として塾を始めた。


 黒板とチョークを作り、文字を教え、算盤を使い算術を教える。


 農業のやり方や歴史についてもわかる範囲で教えていく。


 歴史は志道広良が教え、他の教科は照継が教えた。


「照継、お前本当に多才だな。算術だけじゃなく肉体の効率的な鍛え方、中華の食薬の考え方まで知っているし、孫子の兵法も網羅しているとはな。特に兵站の考え方は凄いな」


 と志道広良に誉めてもらったが、未来の知識を流用しているだけなので素直には喜べないが。


 塾、農業と畜産業の実験、特産品作りを兼ねた金策、妖怪退治と妖怪の仲間を作ること数年、毛利で大きな動きが起こった。


 ご隠居の急死と大内の上洛である。


 ご隠居が死亡した理由は酒の飲み過ぎであり、酒に溺れて亡くなった。


 跡を継いだ毛利興元は烏帽子親に大内の殿様が務めた為に上洛の遠征軍参加を断れず、1000名の動員が限界の毛利で700名の参加を要請し、これを飲まなければいけない状況に追いやられた。


 俺は歴史的な知識で今回の大内遠征は長期化すれど得るものが少ないと判断し、遠征軍参加を理由をあれこれ付けて不参加し、松寿丸の護衛の任に就く。


 松寿丸とは毛利興元の弟であり、名目上の城代であった。


 ただまだ10歳であり、補佐として後見人の井上元兼が実権を握り、遠征軍の費用を抽出、そして遠征軍が旅立つとその権力で私服を肥やし始め、これに怒った松寿丸様が怒鳴り付けるが、井上はこれを部下のせいにし、逆に部下を怒鳴るとは何事かと松寿丸様を仕置きとしてあばら家に幽閉してしまうのであった。









「松寿丸様、今日は将棋をしましょう!」


「松寿丸様、家の畑で収穫した長芋と豆腐、少しの肉で料理を作ってみました! 食べて元気になってください!」


「松寿丸様、勉学はできると面白いですよ! 教えますので学びましょう!」


「松寿丸様! 屋敷の中でも体を鍛えることは可能です! 私と一緒に鍛練をして鋼の肉体を手に入れましょう!」


 照継は護衛という立場を生かして松寿丸に接近し、あばら家に閉じ込められた松寿丸の遊び相手を務めた。


 照継は知っていた。


 松寿丸が後に毛利最大基盤を作る毛利元就その人であることを···


 松寿丸は幽閉されているのに遊んでくれる照継を大いに慕った。


 更に照継は松寿丸が幽閉されている小屋に私塾を移し、後に毛利の手足となる人材を育てることにした。


 井上は怒るが、幽閉理由が城主に相応しい振る舞いを身に付けることなので勉学に励む以上怒るに怒れない。


 なので照継を暗殺しようと忍びを放つが妖怪相手に戦える照継に敵うハズもなく、逆にボコボコにされた後に俺に仕えよと言いくるめられて配下に加わる者も出る始末。


 更に志道広良も照継と松寿丸に味方して井上の仕事をサボり平然とあばら家で教鞭を取るのであった。


 それに松寿丸はもう一人素晴らしい理解者が存在した。


 父親の側室である杉の方である。


 杉の方は実子ではない松寿丸を可愛がり、父親より少し前に他界した正室の代わりに松寿丸の母親代わりとして彼を助けていた。










「松寿丸様、杉の方、親父殿、今日は面白い者達を見せますよ」


「面白い者? こんな夜遅くに?」


「妖怪ですよ」


「妖怪!」


 松寿丸は妖怪と聞いてテンションを上げた。


 妖怪の類の話は志道広良から色々聞いていたのだが、本当に居るとは思っていなかっただけにワクワクしていた。


 杉の方は落ち着いておりそういう芸者を呼んだのであろうと思っていた。


「で妖怪はどこに居るんだ?」


「まずはこちらを刀で斬ってくだされ」


 照継は灯りの灯った提灯を3つ取り出した


「普通の提灯?」


「いえ、中をご覧ください」


「……!? 火の元が無いだと!」


「別名人魂という未練ある人の魂の霊でございます。青い光を放ち、放っておくと悪さをするので定期的に成仏させる必要があるのです」


 照継に言われるがままおっかなビックリしているが提灯を斬ると光が消えた。


 人魂を斬ったことで妖力が高まり、人ならざる姿が見えるようになる。


 そこには6名のお面を被った者達が座っていた。


「い、いつの間に!?」


「彼女らはずっとそこに居りました。このように普通の人は妖怪は見えませぬが、妖怪を倒すことで妖怪が見えるようになるのです。また妖怪の中には受肉し、人に化け、人の姿で町に出る者達も居ります。この者達は私と契りを結び、配下にした者達なので人の為に働いてくれます」


「ではお面を取れ」


 6名がお面を取ると皆が見知った顔であった


「蘭、米和、覚、鈴、賢、童子じゃないか!」


 照継の趣味で女妖怪ばかり集めており、普段は人の姿に化けてあばら家で料理を作ったり、一緒に勉強をしたりしていた。


 ただ今は化けるのを辞め、それぞれの特徴が表に出ていた。


「まず蘭は化け狐の妖怪で、今しっぽが2本あるので二尾という妖怪が正式名称でございます。力を付けるほど美しくなり、過去には九尾として猛威を振るった玉藻前が有名でしょう」


「米和は八百万の神の一神であり、農業と安産の神で知名度が全く無い神であります」


「覚はサトリと呼ばれる妖怪であり、人の心を読むことができます。ただ動物とかの気持ちも読むことが出きるので家畜の世話には適任の妖怪でございます」


「鈴は猫又と呼ばれる化け猫でしっぽが2つに別れた猫です。これといった大妖怪はいませんが働き者でございます」


「賢は白狼天狗と呼ばれる種族であり、年老いた狼が妖力を得ることでこの姿になると言われています。見た目は若いですが賢は50年は生きているので我々より歳上です」


「最後に童子ですが鬼です。ただ人に好意的な特殊な者であり、力もそれほど強くはございません。怪力が特徴的な鬼ですが、彼女は知略の方が好き好む鬼の中では変人ですね」


「以上が私の仲間の妖怪達でございます」


「おお! 怪異な見た目をしている! 凄い!」


「なぜ妖怪を今さら紹介したのだ? もっと早く知りたかったが」


「人魂を捕らえるのに苦労しまして……本来ならば半年前に紹介したかったのですが」


「人魂を斬らないとなぜ駄目なのですか?」


「化けた姿しか見ることができないのです。角やしっぽ、耳などは隠しますから、妖力を感じ取れないと本当の姿を見ることができないのですよ杉の方」


「なるほど」


「紹介したのは松寿丸様を鍛えるためでございます。妖怪を倒すことで魂が強くなり、病気にかかりにくくなったり、長生きできたり、精巣が強くなり子宝に恵まれたりするそうです。民の為にもなりますから一緒に妖怪退治をやりませぬか?」


「広良!」


「ワシも同行するぞ。若だけに楽しい思いを取られたくは無いゆえにな!」


「杉の方はどうしますか?」


「武士ではない女でも役立つ?」


「命の危険はほぼありません。やることはたくさんあるので役立てますよ」


「なら私もやろうかしら妖怪退治」


 次の日の夜から松寿丸、志道広良、杉の方の3名を連れて夜に妖怪狩りに出掛けるのであった。


 この行為がただでさえ長生きする志道広良と毛利元就の寿命を更に伸ばすこととなる。




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