第24話 ダンジョン探索をしよう! ②

 カットしたパンを軽く炙るように焼く。


 新鮮な野菜、レタス、玉ねぎ、トマト、ピーマン、ピクルスを大量に詰め込んだ。


 野菜の上にハムを乗せて、最後にドレッシング。


 これで完成。 簡単すぎると思うかい?


 ダンジョンなら食べるのに警戒が必要だ。シンプル・イズ・ベストが正解の1つだと俺は思う。


 今も周囲の壁に映る揺れる影。遠くから聞こえる滴る水の音が不気味な雰囲気を醸し出している。


 いつ、モンスターの襲撃があるかわからない。  


 まぁ、サンドイッチなら、利き腕に武器を持ちながら食事ができるからな。大丈夫だろう。


 できたサンドイッチを全員でいただく。


「うまい……」と俺は思わず自画自賛の言葉を漏らした。


 見れば、アリッサも、サトルもサンドイッチを食べるのに集中していた。


 思わず苦笑する。 警戒し易いように用意したサンドイッチだったが……まぁ、それを指摘するのは無粋というものだろう。


 まだ、階層が浅いので、精密な作戦を練って奇襲をしてくるような知能のモンスターもいない……といいなぁ。


 (俺だけは食べながらも警戒を強めておこう)


 人間は肉を食べると元気になる。 


 大量の活力が体から溢れ出そうとしているのがわかる。


 そして野菜。 瑞々しい野菜は甘みが顔を出し、新たな味覚の冒険が始まる。


 シャキシャキとした野菜の歯応え。 お肉の柔らかく、それでも弾力がしっかりと答えてくれる。


 口の中で広がる風味と食感が、心地よい満足感を与えてくれる。野菜の新鮮さとパンの香ばしさ、そして肉の旨味が一体となって、まさに至福のひと時だ。


 「やはり、肉と野菜。この組み合わせは最高だぜ!」


 それにパンという炭水化物エネルギー。 甘みとフワフワした食感が楽しめる。


 過酷な環境ではカロリー消費が激しくなる。 精神的な餓えに加えて、肉体的な餓え。


 餓えた心と体では戦い続けることは不可能だ。 ……だからだろうか?


 こんな殺風景な場所でさえ、いつも以上に食事を美味しく感じるのは?


 残り少なくなったサンドイッチを見つめながら、最後の一口を名残惜しそうに頬張る。


 「ふぅ……」と息をつく。それは満足感によるものだ。


 食べ終わった後の満足感と、また食べたくなる気持ちが交じり合い。


 俺は、サンドイッチの魅力を再認識するのだった。


 食事後は少しの休憩時間。 食事が肉体に吸収されていく感覚を頼みながら、体力を回復させていく。


「よし、先を進むか」と立ち上がり、準備を始めると――――


「助けてくれ……誰か、助けてくれ……」


 そんな声が聞こえてきた。 俺たちは顔を見合わせる。


 確かに助けを求める声に聞こえる。しかし、声の主が本当に人間とは限らないのがダンジョンだ。


 もしも、人の声を形態模写するモンスターが闇の中で潜んでいたなら?


「こちらは第3級冒険者ユウキ・ライトだ。そちらの所属は?」


 モンスターの形態模写ならば、会話は成立しない。 ただ、人間の言葉を真似しているだけなのだ。 


 相手が人間の言葉を理解できる高知能なモンスターも存在するが、この階層には出現しないだろう。


 俺は、返事をまっていると――――


「た、助かった。 こっちは第2級冒険者 獅子のゼイン。救援を求める……」


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・・


 助けたゼインさんの話しでは――――


「頼む、35層で『徘徊する怪物』による奇襲を受け、仲間たちが怪我を負って動けない」


 『徘徊する怪物』を何とか退けたが、倒すまで至らなかったそうだ。


 まだ、『徘徊する怪物』がいる状態で、大きな怪我人を連れてダンジョンからの脱出は困難と判断。ゼインさんだけが助けをダンジョンを駆け上がってきたそうだ。


「安心しろ。アンタの意思は受け取った。ここからは俺が救援を呼んで来る!」


 彼の意思を受け継ぎ、俺は走った。 ここまで来たダンジョンを逆走だ。


 ゼイン自身も大怪我を負っていた。彼は、すぐにでも治療が必要なほどに傷つき、憔悴していた。


 彼を連れて、全員で戻るほど、時間的余裕はない。 予断を許さないって状況だ。


 それに俺たちの仲間には治癒魔法が使えるサトルがいる。  


 ゼインさんを下手に動かすよりも、ここはサトルに任せた方がいいだろう。


 俺が抜けて、サトルも治癒に集中するならば、戦力はアリッサだけになるが……


 まぁ、大丈夫だ。 俺とコンビを組んで、何度も無茶を言わせて貰った。


 彼女は強い。 なんせ――――


 ――――と言う間にダンジョンを抜けた。


 ダンジョンの入り口には、期間限定で簡易的な冒険者ギルドが作られている。


 俺はスピードを緩めることもなく、ギルドに入る。 中で顔見知り――――受付嬢さんを発見すると、すぐに状況を説明した。


「第2級冒険者が35層で救難要請ですか!」


 俺はゼインさんから受け取った地図(遭難されている場所が正確にマッピングされている)を受付嬢さんに渡すと、これまでのあらましを説明した。

 

 彼女は慌てて、責任者――――ギルド長 リリティの元に向かっていった。


 「とりあえず、俺の役目は終わりかな? 水でも飲んで……あっ! 財布、荷物に入れたままだった」


 流石に重装備は、アリッサたちに預けてきた。


「やれやれ、俺も戻ると――――」


 しかし、簡単には戻れなくなった。 


 ドーン! とギルド長室から出てきた彼女は完璧な装備姿だった(老婆に変身してるままでだ)。


「緊急事態です。 ダンジョン地下35層に遭難者あり。これから行う救出作戦には、この私、自らが向かいます!」


「おぉ!」とその場にいた冒険者たちは大きく騒めいた。


「ギルド長自らが遭難者救出に向かうのか!」


「え? ギルド長って強いんですか?」


「バカ! 伝説の冒険者リリティを知らないのか! あれだぞ、マジで伝説だぞ!」


 先代か先々代か忘れたけど、元勇者の仲間なんだよな、リリティ。


 あれ? 「リリティらしきエルフが昔の勇者の仲間にいた」ってハンニバルが言ってただけで確定情報じゃなかったけ?


 まぁ、たぶん強いのだろう。 彼女に任せておけば、35層だってきっと大丈夫に違いない。


 俺は、自分とは無関係だと思っていた。しかし―――― 


「第3級冒険者ユウキ・ライト! 案内をお願いします!」


 いきなり、リリティから指名されたのですが!!!




 

 

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