第40話 デートとこれから


 推しとデート。というか婚約者破棄されていなかった!

 それが妙に嬉しい。よく考えれば未来を変えるために、エルバートの王太子授与式までは稽古やら商会に詰めていた気がする。

 記憶を失った二年間は、令嬢らしい振る舞いをしていたけれど、ウィルフリードが忙しくて会えるのはお茶会ぐらいだったと思う。デートも一、二時間程度だったような?


 私が記憶喪失になってから、ウィルフリードは両親に相談していたとか。それは信頼度カンストするわ。

 しかもランベルト様を救えなかったのも嘘だったらしく、手紙でのやり取りがあったという。だから私たちが王都に乗り込むって時にタイミングよく姿を見せたのね!

 それなのに彼がウィルフリードの主人だって思っていた私って……。


 この先のことは分からないけれど、ウィルフリードと一緒の時間を増やしたい。

 護衛対象者と騎士の関係ではなくて、もう少し近い関係? 

 そんなことを思いつつ、デート当日。

 迎えに来たウィルフリードの姿に思わず見惚れてしまった。


 いつもの騎士服ではなく貴族服とか貴重すぎる。カメラ、誰かスマホをここに!

 白を基調としたレースアップシャツに、紺色のスーツは金色の刺繍がふんだんに使われている。帯剣しているけれど、騎士服と違ってなんかいい。


「アメリア?」

「ううん。ウィルフリードの普段着を久し振りに見た気がして……。やっぱり恰好いいなって、実感したの」

「アメリアが望むのならいくらでも」


 きゃーーー。

 紳士の対応に胸がキュンキュンしてしまう。

 この調子で一日私の心臓が保つのか分からないけど、デートを満喫しなきゃ!


 中央広場では、他国の商人たちの市場が開かれていた。南の国や東の果ての国などの貴重な商品は、ワーバンを利用した空輸便で届く。

 今日は空鯨と風海豚の通り道だったのか、青空を悠々と泳ぐ姿があった。


「空鯨と風海豚が空を渡っているのって三十年ぶりかしら?」

「らしいな。良い風の流れを運ぶ風の精霊たちからの祝福とは運がいい」


 空鯨は様々な花を風と共に運ぶので、彼らが通る道には、四季折々の花が舞う。それはこの先、幸福が訪れるという吉兆でもある。何だか得をした気持ちだわ。


「ウィルフリードと見られてよかったわ」

「それは光栄だな」


 様々な花びらや花が舞い散る中、ウィルフリードは真っ赤な薔薇を手に取り、流れるような動作で私の髪に挿した。


「綺麗だ」

「あ、ありがとう」


 素でやっているからすごい。これはモテる訳だわ。それから様々な商品を見て回った。

 ウィルフリードは珍しい武器に興味を持ち、私は新商品や流行物をチェックする。

 ナイトロード領では人外貴族も人も許可さえ取れば店を出すことができるので、毎月様々な商人が立ち寄っていく。数年前から規制が厳しくなってからは自重していたらしいが、現在は国が変わったことで以前と同じ──いやそれ以上に賑わっている。魔導書、魔導具系のスクロールは結構面白い物が多い。


 途中で珍しい魔法武器の店を見つけて私とウィルフリードは一時間ほど商品を吟味しつつ、購入した。

 ウィルフリードは短剣を新調し、私は珍しい付与魔法のアクセサリーを購入する。

 うん、すっごく楽しかったけれどたぶん、貴族のデートとはなんかずれていると思う。それでもウィルフリードと一緒は楽しい。

 ルイスとローザとのデートとはまた違って……なんかこうドキドキもする。


 昔は模擬戦をした後で、お互いの反省点や課題を話していた時間のほうが長かったものね。記憶を失う前の関係に戻ったというか、「ああ、こんなこともあった」と、一つずつ自分の気持ちと共に記憶が馴染んでいく。

 復活を遂げてから、始祖の記憶、前世の記憶、記憶を失う前のアメリアの記憶、二年間だけの貴族令嬢の記憶、別世界のアメリアの記憶……それらが混じり合って少しずつ影響を与えて今の私を形成している。

 もしかしてデートって言い出したのは、私の記憶を整理できるように?


「アメリア、フルーツジュースでも飲まないか?」

「あ、飲みたい」

「桃と、柑橘系、カシスが人気だな」

「桃とカシスが気になるわ。でも二杯は多いし……」

「俺がどちらかにすれば、一口飲めるな」

「いいの?」

「もちろん」

「ありがとう」


 フルーツジュースを片手に飲みながら町並みを歩く。皆、私たちに気付いてもにこやかに挨拶をする程度だったので、ありがたかった。もっとも二年前までは、私もウィルフリードも普通に町を歩いて回っていたので、見慣れた光景な気がしなくもない。


 お昼はカフェで食べるのも良かったが、出店などでパニーニを見つけてベンチに座って食べることにした。一度デートでやってみたかったのよね。


 死者の姿もちらほら見えるが、皆家族と過ごしている者が多い。善良であったことへの褒美であり、罪人は強制労働を課せられ、命じられたこと以外は体が動かないようになっている。何せ基本的に食事、睡眠など不要の労働力! 建造物や土木工事がとても捗っているとベルフォートも喜んでいたわね。


 冥府も死者を捌く者が激減して、五日に一日休めると喜んでいた。今後彼らに管轄は複雑な事情によって亡くなった者の対応だけすることで話を進めている。

 他国は別の神が管轄しているので、これでだいぶ楽になるはず。


 それにしても最後まで冥王が現れなくて本当に良かったわ。ヒロインに無条件でベタ惚れなのは、ゲーム内ならいいけど……。よく考えたらゲームだとまだシナリオ開始の時期と違うのよね〜。


 もっともそのヒロインであるリリスは数日前に精神を戻させた上で、宰相と枢機卿イアンと共に処刑済みだ。

 その罪状は誓約書を通して行われたことで、民衆はあまりの非道さにドン引きしていた。私も聞いていたけどすごかったわ。新聞の記事も大々的に取り上げていた。

 新聞社の烏人族が特ダネとか喜んでいたとか。


 リリス及び宰相たちは死者となった今も罪を贖うため、肉体労働か内職で貢献してもらっている。運が良ければ三百年ぐらいで解放されるだろう。たぶん。

 死者の管轄は私、魔王、死神、邪神、冥府の神官たちで構成されているので、保険もしっかりかけている。悪人も罰せられて、労働力もゲット! うん、ここまで頑張ったと自分を労った。



 ***



 あっという間に時間は過ぎて、空が夕焼け色に染まりつつある。

「領地が一望できる高台に行きたい」と誘ってみたのだが、ウィルフリードは喜んで頷いてくれた。

 この高台は王都と同じ小さな蒼い花が一年中咲き誇っている。私が王都から花の種を貰ってきたのが、今では一面に広がるほど成長して綺麗だった。まさかこんなに咲き誇っているなんて……。

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