第25話 復讐劇の舞台を整えて

 ジュノンは絶句していたが、アルムガルドたちは、ここぞとばかりに自己主張を始めた。


「ああ。余はアメリアを気に入っている。魔王城の一角に住む許可も出している――つまり、これはもう、実質同居、いや同棲していることになる」

「(断言した!?)ええっと……アルムガルド?」

「それほど余はアメリアのことを気に入っておるし、傍に置いて置きたいと思っていた。故に《血の契約》をすべきだと思っている。大親友だからな!」

「大親友って、そんなものじゃないような?」

「僕は白兎シアというアメリアとの大事な家族がいる。今後、家族として《血の契約》は必須だと思うんだよなぁ」

「(こっちも家族だって断言した!)……ええっと、私としては《血の契約》は信頼している仲間として、そういった絆を結ぶのはありかもしれないとは……思っているわ」


 《血の契約》を結び魂と紐付けをすれば、万が一裏切った時に真っ先に気付けるようにしたい。ようは保険だ。そんな仄暗い理由から私はアルムガルドとエーレンと契約を結ぶのは吝かではないのだ。


 不純? ナニソレ。

 動機が不純で何が悪い。

 恋愛的な好きかどうかなら、ウィルフリードが一番近いけれど……うん、とりあえずウィルフリードのことは後回し!

 それよりも弟と妹の成長、復讐にあの国を滅ぼして変革を起こすほうがいい。そう思っての発言だったのだが、ジュノンの思考回路は斜め上を軽く超えていた。


「あわわわわ……。闇の神に死神まで……キミは正真正銘、魔性の女性だったんだ……ね。ううっ、その上、ボクまで、その毒牙にかけようとするなんて……なんて破廉恥極まりない。不純じゃないか……。ボクの心をかき乱して、弄んで、振り回してばかり……!」

「どうして、そう解釈したのかしら……。(ゲームシナリオでは悪役令嬢だけれど……まさか誰かに悪女ってみたいに言われるなんて……ちょっと凹む。せめていい女に評価を訂正してほしいわ)」


 両手で顔を隠してキャッキャしているジュノンに、力が抜けてしまった。アルムガルドとエーレンは張り合ってばかりだし。


「と・に・か・く。それでも良いというのなら《血の契約》をするわ」

「形から入る愛情があっても余は良いと思う。繋がりから育むのも一興」

「僕も君と絆を深められるのなら構わないかな。時間ならいくらでもあるのだから、のんびりと関係を構築していけばいいと思うし」

「(恐ろしいほどブレない前向きさ)そ、そう……。ジュノンはどうします?」

「ボクは……。……………………行く場所も爆破されて、この世界での生き方なんてわからない」

「デスヨネ」

「だから……キミに見捨てられたら、まともに生きられるか分からないから……ちゃんと責任をとるべき? ……だと思う」


 途端にウジウジしたジュノンは縋るように見つめてくる。段ボールに「拾ってください」と書かれて捨てられていた子犬を思い出した。


 庇護欲をそそる。

 やるわね。そう思っているとエーレンは忌々しそうに舌打ちをする。

 ガラ悪くありません? キャラ変わっていますよ?


 にしても『見捨てないで』って、引きこもり以外の生活をしてこなかったから、不安になるのも当然ね。

 配慮が足りなかったわ。ジュノンには音楽の才能があるんだから──。


「わかったわ、私はジュノンの支援者パトロンになる!」

「ぱと?」

「ふふふっ、大丈夫よ。ジュノンの才能は私が誰よりも認めているわ。約束通り、世界を広げるお手伝いと、貸し切りコンサートの舞台を用意しますわ!」

「コンサート……じゃあ、ピアノの用意を?」

「もちろん、商会に頼んでいるので、もうすぐ届くはずよ」

「ほほう。ということは邪神とアメリアの関係は支援者パトロネージュか。余はアメリアの同棲者であり大親友だからな」

「僕は家族のようなもの」

「エーレン様の家族構成枠がよくわかりませんので、そちらは後日話しましょうね」

「うん、わかったよぉ」


 三者三様の反応を見せる。本当に自由だな、この人たち。好意的である分には有難いわ。


「女王陛下、下準備が全て整いました」

「あら」


 有能で部下からの信頼も厚いベルフォート・ナイトウォーカー侯爵が突如現れた!

 この影からの移動って心臓に悪いわ。

 侯爵はニコニコ笑っているが、魔王や死神、邪神を見る目は冷ややかだ。なぜに?


「想定よりも大分早いわね。じゃあ、あの手紙も?」

「万事抜かりなく。あの徐々に距離を縮めた所から投函する方法はなかなかに斬新かつ、精神的な打撃を与えると思われます。流石は我らの女王」


 あ、それは前世の怪談ものからヒントを得た奴です。私の発案じゃないです。そんなに持ち上げないで。つらい。ごめんなさい。


「……そ、そうかしら。ああ、そうだわ。王族主催のパーティーは掴めて?」

「明日とのことです」

「ふふっ。じゃあ、最後に薔薇紅玉の反応は?」

「こちらが、そのリストになります」

「完璧ね。この短期間によくここまでしあげてくれたわ」


 わしゃわしゃと侯爵の頭を撫でる。

 外見的には親と子ぐらいの見た目だが、ベルフォートは私に頭を撫でられるのを至上の喜びと思っているらしく、丁寧に撫でられるのも、ぞんざいに撫でられるのも嬉しいらしい。


 いやだって「頑張っているから褒美はなにがいい?」って聞いたら、頭を撫でるだっていうんだもの! 

 なんて羞恥プレイ。

 そう思っていたのだが、アルムガルドとエーレン、ジュノンまで視線が冷たい。


「余ほどではないが、人誑しにもほどがある」

「僕たちだけではなく配下にまで……」

「好かれている……羨ましい。……姿を変えれば……」


 散々ないわれようである。少し前まで《血の契約》で啀み合っていたとは思えない団結力だ。

 《血の契約》は互いに血を体内に取り込む――というもので、献血した血を結晶化して飲み込ませる方法を用いたのだが、全員から不評を受けることになった。何故に。


「ロマンがない……。思っていたのと違う」と、ジュノンは泣き出すし、アルムガルドは「え……嘘だろ。そんなの吸血鬼じゃない」と嘆かれ、エーレンに至っては「照らなくてもいいのになぁ」と斜めの方向に解釈していた。


 いや知り合いの首筋にカブリとするような性癖はないし、衛生的に抵抗感があるというかアレでしょ? 

 そ、そりゃあ、ウィルフリードとかなら本望というか、嬉しいけれど! むしろキュン死する自信があるわ。


「ああ、それと《蒼獅子商会》のギルドマスターが女王陛下に謁見を申し出ておりますが、いかがしましょう」

「《蒼獅子商会》? 帝国で一二を争う大商人が私に?」

「はい。何でも《葬礼の乙女と黄昏の夢》の件だと言えばわかるとか」

「(プレイヤーが他にも?)……わかったわ、通してちょうだい」

「ハッ」


 《蒼獅子商会》のギルドマスターとの出会いは想定外だったけれど、下準備は大体終わった。……役者も揃ったことだし、復讐劇を始めましょう。

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