第16話 ヒロイン、リリスの視点2

 アメリアが死んで、他の人外貴族の粛清も順調だった。唯一の誤算は、宰相が行方不明になったこと!

 綿密な計画を宰相が立てていたせいで、その後の細かなスケジュールや段取りが誰一人分からないなんて、本当にあり得ない!


 それでも第二王子エルバートを筆頭に国王、王妃も《従属の腕輪》を使って傀儡していたおかげで、面倒ごとを押し付けられたのは良かったけど! エルバート様の効果がちょっと薄い……でも有能だからいっか。


 ラディル大国は『天使族を王家の盾であり剣である。そして人外貴族たちは魔王たちに物資を提供あるいは、暗躍していたため失脚及び粛清した』と公表。

 あははっ、やっぱり私が正しいってことになる! 当然よ!



 ***



 連日連夜、パーティーが開かれ貴族たちが今後の話をすべく集まっている。第三王子スチュワートは、自分を支持した貴族と熱心に語らっていた。ふふん、全部私の功績なんだから!


 少し前まで嫌味を言っていた貴族令嬢が、頭を下げて挨拶をしてくる。

 んー、気分がいい。

 貴女たちの婚約者はみーんな、私の愛人なのよ。普段通りにしているけれど、もう私にメロメロで贈物も増えてきているんだから。ざまぁ。

 あー、言ってやりたい。そうしたらどんな顔をするのかしら。

 扇子を広げて笑みを隠そうとしたけど、笑いが止まらないわ!


 スチュワート以外の殿方とダンスを踊り、愛人候補を増やしていく。あー、最高!


「あの、ウィルフリード様。わ、私とダンスを……」

「私には心に決めた者がいるので、遠慮させていただこう」


 ふーん。

 ウィルフリードは第三騎士団長から騎士団総括の立場になったから、ますます令嬢たちが群がる。あー、私の命令なら♪


「ウィルフリード様、一曲お相手して頂けませんか?」

「いえ、私には心に決めた者がいるので辞退させていただきます」

「……ふぅん。いつまでも死んだ人間に操立てる必要は無いんじゃない?」


 そう告げた私に、ウィルフリードは愉快そうに口元を歪めた。その双眸はガラス玉のように私を映し出す。


「くくっ、何を馬鹿なことをいうのかと思えば。君はアメリアのことを何も知らないのだな。何も知らずに手を出してしまったのなら、その末路は決まっているだろう」

「は? アメリア嬢は貴方が殺しのでしょう。もう蘇ることなんて――」


 断言した。

 あまりにも不吉な、死の宣告のように、淡々と彼は語る。


「アメリアは一度仮死状態になることで、全てを取り戻して――吸血鬼女王に至る」

「吸血鬼女王? そんなのゲーム設定になかったけど」


 勇者の次にまた聞き覚えのない単語が出てきた。ラスボスの設定にもそんなことは書かれていなかった……はず、というか敵のことなんて覚えていない。どうせ倒されるのだから、そんなのはどうでもよかった。蘇るなんてあり得ない。


「ふん。仮に彼女が生き返ったとして、真っ先に復讐されるのは貴方じゃない! だって、実行犯だもの」

「だろうな。だが、それこそが俺の願いだからなんら問題ない」

「はああ?」

「貴女には分からないだろう。俺はあの方と正面切って殺し合いをして、そしてあの方の手で殺されたいのだから」


 全然意味が分からない! 

 ツンデレじゃなくヤンデレでもない。もうなんか自殺願望の末期者のような感じだった。

 崇拝?

 恋とか愛とか、それとはまた違う熱を持つ――狂気?

 不気味すぎる。……アメリアが復活。そんな訳ないじゃない。妄想? それとも本当に壊れてしまった?

「くだらない」と私はまともに取り合わなかった。

 ラスボスは死んだ。死んで貰わなければ困るんだから!



 ***



 アメリアを含めた人外貴族を粛清、捕縛、奴隷化を始めて一ヵ月が経った頃──。

 私が暮らしている王族居住区は王宮からも離れているのに、バタバタと忙しなく使用人たちが廊下を走り回っている。


「た、大変でございます! 殿下!」

「んん……」

(ああー、もう。煩いわね)


 部屋の扉をドンドンと乱暴に叩くのは、護衛騎士のようだ。用があるにはスチュワートだし、私は二度寝しよう。

 寝返りを打ちながらウトウトしていたら「漆黒の魔物が! 形からして破壊者アバドンのようでして!」という言葉に目が覚める。

 乙女ゲーム《葬礼の乙女と黄昏の夢》の中盤に出てくる飛蝗似た魔物の名だ。

 は? なんで今!?


 その日から聖女として、魔物と戦うため討伐を命じられるなんて! 忘れていたけれどヒロインは浄化魔法を使える。なぜ今さらシナリオ展開と似たような状況になっているの!


 あー、面倒だけれど、自分の有能さを見せつけるためにも、少しアピールしておいたほうがいいかも。私が浄化魔法を使っている時は、イケメン騎士たちを盾にしよう! 私の傍で私のために命を投げ出してもらおう♪

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