ひっそり神様、やってます。

千華

第0話 序章

――「次はー 風月山かざつきやまー。風月山ー。終点でーす」


バスのアナウンスが無機質に届く。

バスは、人気ひとけのない田舎道を走り続ける。

乗客もほとんど乗っていない。

先ほどから、一人、また一人、と降りていく。

終点になり、乗客は一人だけ。


最後列に座る一人の少女が、ゆったりと目を開いた。

緩いパーカー一枚だけを身につけ、その他に所持品もない。

が、どこか雰囲気のある少女だ。

身長からすれば、女子高生だろうか。

紫色の瞳は僅かに吊り上がり、瞼には赤い化粧が施されている。

日本風の顔立ちではあるが、長く薄い金髪と紫色の瞳が外国の雰囲気も醸し出している。




キキッとブレーキ音を鳴らしてバスが停車する。

が、最後の乗客である少女は席から立とうとしない。

運転手は不審に思い、運転席から声をかける。

すると、ゆったりとした仕草で立ち上がり、出口へ歩いてきた。

寝ていたのか、とでも思い、運転手も特に疑問を抱かず前に向き直る。



「ありがとうございましたー」

いつもの決まり文句を告げると、隣ではちゃりんという小銭の音が鳴る。

運賃が支払われたことを音で確認すると、運転手は発車の準備を進める。

しかし、既に前を向き直っていた運転手の鼻孔を、煙のようなこうの匂いがくすぐった。

「うむ。中々良い乗り心地だったぞ」

「え?」

――振り返った運転手の先に、既に少女はいなかった。

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