呼べなかった好きな人の下の名前

「勝ったあああああああ!」

俺は今日もいつものぼっち御用達のトイレに来ているわけだが、なんと今日の俺はただトイレをしに来ただけっ!!!なんと弁当を手に持っていないのだ!


「勝った、勝った。あのうぜえやつらも驚いて間抜けな顔してやがったぜwざまああああああああああああああw」


と、まあ鬱憤を晴らせたのはいいが、なぜ俺はまだ1人なんだ?俺は学校1の陽キャになったはずだぜ?それとも俺の勘違いだったというのか?まさか、そんなわけがないw

陽キャは人気者。これはもう学校だけでなく社会でも当たり前!


俺は確信して1人、にやける。心なしか鏡に映る自分もいつもよりイケメンに見える。まあそんなの周知の事実だが。


「さって、そろそろチャイムもなるころだろう。優雅に授業に行ったろっと」


 ◆


「羽田お前さ、授業に無断で遅れてきているのに何呑気に歩いてんだよ。」


意味がわからん。俺は顔でおかしくないか?と訴えてみるが、この教師の顔は益々俺に怒っているように見えた。


こいつ…わかんねえのか?


「せんせー。戻れよ。今すぐっ!!!!!」


俺の声が教室、廊下にも響く。


「は?…え、は?羽田、お前マジで何言ってんだ?授業に出る気ないのか?」


「あ!すいません!言い間違えですっ!」


あれ…どうなってんだよ、なんで俺、頭下げてんだ。


違う!なんで俺、戻れなんて言っちまったんだ?なんだこれ…、なんか、おかしい!


「もういいよ。教室に入るな」


ドンッ!


……なんだこれ。俺、メンタルをレンタルして強くなったんじゃないのか?なってたはずだ、確実に。なのにどうして、俺今。


こんなに落ち込んでんだよ!


まさか!?

少し胸騒ぎを感じ、放課後にあの怪しい店にもう一度行こうと決めた。


って!?おいおいマジかよ。


俺は誰もいない廊下で1人心の中で叫んだ。なんと俺のスマホの地図には店が載っていなかったのだ。店名は確かにあっているはずだ。とは言っても俺のスマホは最新バージョン。クークルマップに載ってないのはどう考えてもおかしい。しかし、載っていないというならどうにもこうにも何も出来ない。


「いらつく!ふざけんなし!しんねっ!」


「羽田ああッ!授業中だうるさいっ!放課後、職員室へこい。」


ドカンっ!


いやいやあの、今のは完全に俺の意思じゃなかったよ?あのね、理不尽だよ。


今日はいつもよりも帰りが遅くなることがあっさりと確定した。放課後の職員室で説教。まあ間違いなく1時間は帰れない。


はあ…耐えないとなぁ。


 ◆


いつも乗っている電車はやはり乗らせてもらえず、おかげで帰りはいつもより1時間ちょいと遅れてしまった。まったくもって納得いかないしむしゃくしゃする。


「あれ?仁くん?」


俺…、僕の下の名前を呼ぶ奴は学校にいない。それは先生だとしても例外はない。僕のことを下の名前で呼ぶのは両親か、僕の片思いの相手、山崎沙織やまざきしおり以外に存在しない。


「なんで?なんで、沙織ちゃん。」


あれ、なんで俺、なんで僕が、山崎さんのこと下の名前で呼べるようになって…


「実は、中学校の部活のOBで呼ばれてるの。だから丁度向かうところだった。仁くん、中学校以来だね!」


久しぶりに見た片思いの相手。今見ると僕なんかが絶対に関わってはいけないような相手だった。高身長で顔も可愛くて、それに加えて超性格がいい!遥なんかよりよっぽどだ!


でも確か同じクラスの女子一部にめちゃくちゃ嫌われてたよな…。まあ多分その圧倒的ステータスに嫉妬してるやつがいたんだろう。


「時間大丈夫なの?呼ばれてるって。」


「大丈夫だよ!久しぶりに会ったんだしもうちょっと話したいな、」


ドキッ


授業の時と全く違う!なんだこの胸のざわめきは。。それともきらめき!?


僕の心臓がもう耐えきれないのを知ってか、トドメを刺すかのように彼女は走って僕にさらに近付いてきた。


「立ち話でも大丈夫かな。。」


「ああ!うん!だいじょーぶ!」


「懐かしいなぁ…、仁くんかぁ。やっぱり仁くんって優しいよね!」


「そんなんじゃないよ。」


君の目がダイヤモンドみたいに輝いて眩しい。


「だってほら、私が忘れ物しちゃった時とかさ…」


「あのさ、早く帰りてえからもっと短くしてくんね?てかしろよっ!」


は。。。俺…何言ってんだよ!!!!!

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