吃音!発する言葉が出なくても。

みっちゃん87

第1話 静かな世界

朝の光が部屋の隅にささやかな輝きをもたらす。美咲は、目を覚ましたばかりの部屋の中で、静けさを一人で味わっていた。高校生活のはずなのに、彼女には学校が遠い星のように感じられた。言葉がスムーズに出てこない。それが彼女の日常だった。クラスメイトたちの笑顔や会話が、遥か彼方のことのように思える。


吃音。その一言が美咲の世界を静かなものに変えてしまった。話そうとする度、言葉は喉の奥でつまり、彼女の心も同じように凍りついていった。スピーチの授業、朝の会、グループワーク。学校生活は、彼女にとって連続する試練のようなものだった。


「美咲、今日も発表しなさい」と先生が言うたびに、彼女の心は小さくなっていく。言葉を発するたび、クラスメイトの笑い声が耳に響く。その笑い声は、彼女をさらに深い沈黙へと追いやった。


家族にすら心を開けず、美咲は自分の世界に閉じこもっていた。部屋の中で、彼女は自分だけの言葉を紙に書き留める。書くことは、彼女にとって最後の逃げ場だった。そこには、誰にも邪魔されることのない、静かな平和があった。


しかし、心のどこかで、美咲は変わりたいと願っていた。自分の声を自由に出せるようになりたい、心を開いて人と繋がりたい。その願いは、彼女の中で静かながらも強い光を放っていた。


ある日、美咲は決断した。これまで通っていた高校を辞め、新しい環境に飛び込むことを選ぶ。それは、定時制高校への転校だった。そこでは、彼女のように、様々な悩みを抱える生徒たちがいた。美咲にとって、それは新しい始まりの予感だった。希望と不安が入り混じる中、美咲は新たな世界の扉を開ける準備をした。


静かな朝の光が、今日も美咲の部屋を照らしている。しかし、今日の光は、少し違って見えた。それは、新しい旅立ちの光だった。

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