第二話 ヲタ芸

 第二話を開いてくださった読者様。

 唐突だが、貴方はオタ芸とヲタ芸の違いをご存じだろうか。


 オタ芸と言うのは初期の頃に行われていた、アーティストを応援するための独特の掛け声や振りを指す。そしてヲタ芸と言うのはあの激しい光のダンスのことを言うそうだ。前者はアーティストの応援と言う側面が強く、後者は格好良いパフォーマンスとしての側面が強いと言う。

 

「ふーん、で、君はどっちの呼称を使ってきたの?」


オウフwwwストレートな質問キタコレですねwww

おっとっとwww拙者『キタコレ』などとついネット用語がwww

まあ拙者の場合、臭くて面倒くさい感じがせる「ヲタ芸」を避けてわざと「オタ芸」の呼称を使うちょっと変わり者ですのでwwwやはり言葉にも清潔感をですねwwww


 はい。


 実は恥ずかしながら、私もこの文章を今こうして書くまでは二つの違いを知らなかった。

 表記として二種類があると言うというくらいにふんわりとしか考えていなかったが、いやはやここまでの違いがあるとは。


 フォカヌポウwww拙者これではまるで同族嫌悪の幼いオタクみたいwww

 

***


 私、いや我々ヲタ芸メンバーの歩んだ道と言うのは非常に苦しいものだった。

 

 まず、ヲタ芸と言うのは見るよりもだいぶ難しかった。

 「何を言ってるんだ、お前は」と拍子抜けされるだろうが、これは私の感じた率直な感想だ。

 ヲタ芸とは見る限りは割と簡単なものに見える。

 アイドルのように歌って踊るわけでもなく、パルクールのように現実離れした動きでもない。

 それに、暗闇の中で主に私たちが見るのは光であり体ではない。

 

 世の中、結果しか見ない人間は過程を理解できないものだ。


 体が動くと言う過程の結果の「光」しか見ていないのだから、真の姿を理解できるわけがない。


 そう言うわけで、結果しか見なかった私は幾分かヲタ芸を舐めていたわけだ。

 やればわりとできそうじゃねぇか、と思っていた。

 

 思っていたが、そんなことは全然なかった。


 わりとできなかったところ、その一。

 動きが早すぎて分からない。

 

 ヲタ芸の全ては彗星のごとく美しく流れる光である。

 最大限に追及されるのは体の動きの美しさでも、簡潔さでもなく、光の軌跡の美しさただ一つなのである。


 リアルとデジタルが交わるこの二十一世紀、我々はインターネットを介してどんなものにもアクセスできる。もちろんヲタ芸もネットで検索をかければ山ほど解説の動画が出てくる。ただ、ここで問題があった。見てもやり方分からないのである。

 もともと、私は体を動かすのが得意ではなかった。大縄跳びは綱回し担当。パスを回せばあらぬ方向にボールを蹴り、野球は常に捕手キャッチャーのポジション。 

 体の動かし方が下手すぎる私が、動画を見ただけでダンスができるわけがなかったのだ。

 左腕を上げるのに右腕を上げ、腰を捻ったかと思えばバランスを崩して傍にあった机に腕をいきりぶつける始末。

 二月の初旬にやらかした指の傷は、未だに完治していない。


 それでも、なんとか上手な友人に協力してもらい、「まぁ、許容」と言うレベルにまでは持って行けた……はずだ。


 そして個人としてはそこそこにできるようになったのだが、ここで二つ目の難所。

 なんでも良いので実際のヲタ芸の動画を見てもらえれば分かることだが、ヲタ芸は基本的に複数人行うものだ。

 だいたい感覚として五人から七人くらいでやっているところが多いのだが、例にもれず私のところもそれくらいの人数で行うことになった。


 我が学校はオタクに溢れており、ヲタ芸をやる、と言ったら問題なくメンバーが集まるくらいには人はそこそこいた。

 

 だが人がいることと、みんなで綺麗なヲタ芸ができるかは別である。

 そもそもヲタ芸を打てない、そこそこ打てる、バリ上手い。おおまかに分けてこの三レベルにメンバーは分けることができたが、本番は皆でやらねばならない。

 

 この三つの区分に加えて、やる気のあるなしも加わってくる。

 興味本位で参加した人から、命かけているのかと言うくらい真面目な人まで。


 多種多様な人たちがいた。

 その中で、どんな技を使い、全体の流れはどうするか。ちょうど良いものを作っていくのは本当に大変なことだっただろう。

 

 だろう、と言うのは実際は私はあまり主動的な立ち位置に立てなかったからである。中々「私、頑張った」風に書いてきたが実際にそれを行ってくれたのは友人のMであった。

 

 どちらかと言えば私はやる気のない方であった。なにせ二月の最後の方には後期期末試験があったもので、要領が良くない私はヲタ芸にリソースを割きすぎて試験で爆死することが怖かったのだ。

 

 そんな中、メンバーを繋ぎとめてくれたのが友人Mだった。

 元々企画は私だったのだが、主催がやる気のないとか言うゴミみたいな事態をみかねたのだろう。グループ全体の統括をやっていただいた。本当にありがたかったのと、申し訳なかった。この場を借りて感謝と謝罪をさせていただきたい。


 何にせよ、二月の中旬ごろ、ちょうど後期期末試験の期間に入る前ほどにはあらかたヲタ芸はなんとか向こうの学校で見せられる見通しはついた。


 おそらくこの旅の期間を通して、一番精神的にきつかったのはここだった。


 自分ができるのか、舞台として成功するのか、試験は大丈夫なのか、Mを始めとする申し訳ない、と言うような緊張と不安に罪悪感と言うマイナスの感情が心の中に常に溜まっていた。


 かくしてこの思いも少しは軽くなり、私たちは定期試験の期間に突入した。

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