第24話 あのお方の思し召し

 デュベルとキャルの結婚式にはさほどの人数が来ていない。出席はざっと50人ほどであった。殆どだが神源教団の手配している信徒だった。全員が笑顔で拍手をしている。



 異様な光景であった。



 全員が笑顔でパチパチぱちと雨音のような音が耳に響いている。その中でたった一人だけ拍手をしていない者が居た。キャルの父親。キュリテ・スリヌーラだ。



「お前、本当にこれで」

「いいのです。お父様」

「そうかよ」

「ごめんなさい、そして、ありがとうございました」




 一言だけ言うと彼女は父親のそばを離れた。そして、彼女はそれ以上目を合わせようとはしなかった。



 ぱとぱちぱちぱちぱち



 祝福ではなく、地獄への鎮魂歌のように拍手は鳴り止まない。デュベルの元へ彼女が足を進める。




(この場に貴方が居なくて心底良かったと思います。貴方は薄情ですから来ないと思っていました。えぇ、本当に良かった……きっと泣いてしまっていたでしょう)




 デュベルは薄らと笑いながら彼女を待っていた。彼の隣に立ち、後ろを振り返る。若い男、若い女、年老いた男女が沢山にこやかに笑っている。ぽつんと視線を落としている父親を最後に一目見た。




「ごめんなさい。最後にこの言葉を言ってしまって」




 

 デュベルの隣、そして二人の前には顔を隠している神父が立っている。顔は見えないが男だったのはわかる。




「デュベル・ポリカーン。貴方は健やかなる時も病める時もキャル・スリヌーラを愛することを誓いますか」

「誓います」



 その言葉を言うと神父は今度キャルに向かってその言葉を語りかける。ふと、その神父にどこか見覚えをキャルは感じた。

 



「キャル・スリヌーラ」

「はい」

「汝。この道を引き返す気はあるか」

「……いいえ」

「ならば、この者を愛する覚悟はあるか」

「はい」

「ククク」

「……え?」

「──茶番はこのくらいにしておこうか」




 突如として顔を隠していた神父から魔力が放出される。それはまるで



──宇宙のように膨張する



 たった一つの人間からは想像もできないような尋常ではないほどの、昂りが巻き起こり会場の拍手が止む。



 時が止まる。




『るーるーるるるるるるーーーるるーーー』




 頭上に鴉が飛び交い、黒い翼が視界を覆う。そう、その瞬間にこの場は彼の出現を祝福する場へと変貌した。




「まさかッ!!! お前はッ!!!!!」

「祭典の時の……貴方は」





──代行者





 神の意志を代行する存在。神父の化け皮が剥がされる。現れた途端に教団全員が恐れ慄いた。




「お前が代行者か!! 神覚者を何人も葬っていると言う!」

「如何にも。此度、煩わしい式は閉幕させてもらおう。これも全てあのお方の思し召し」

「あのお方かっ!! 全員、奴にかかれ!!!」




 デュベルの言葉に式場に待機していたキュリテ以外の、ある者は剣を抜いて、あるものは魔法の詠唱を始める。



 一対約五十人、しかし、彼は全く慌てない。




(恐るべき魔力量っ!! 祭典の時は観客席から見ていましたけど、ここまで近づくとこうも迫力が違いますか!!)





 キャルは彼の周りにから溢れる魔力に肌が焼かれる感覚に陥った。彼に相対するのは神源教団50人。





「ふっ、まさか貴方が来るとはね。しかし、対策はしています。この子には特級クラスの魔法が付与されているんですよ」

「……」

「そして、学園にも特大の爆弾を潜ませているのです。何かあればそれらが炸裂し、そしてそれは貴方が主犯として世界中に犯罪者として出るように手筈しています」

「ふっ、全ては問題はないとも。お前如きに心配される必要もあるまい」

「なに?」

「全ては……あのお方の思し召すままに。この事実さえ、これからの厄災でさえ、全て私からすれば問題ない。あのお方は全てを見ておられる」

「聖神アルカディアを随分と信仰しているようですね?」




 デュベルは目の前の存在が自身が手配した魔法や情報操作に対しさほどの動揺を見せない……と言う事実に彼自身が動揺をしていた。




(どう言うことですか? なぜ動揺をしていない……それに教団の。現れた時点で学園は爆発させる手筈だったはずではないのか?)




(狼煙としての爆破、国家転覆としての罪として代行者を吊し上げ動きを制限させる。そして、その混乱に乗じてキャル・スリヌーラは攫うはず。転覆の際に殺されたとする方向だったですが……)




(不手際……それともまだ発動していないだけ。どちらにしてもどうもしっくりとこないですね)




(──いや、まさかすでに対処をされたとでも!?)






 その思考に思い至った瞬間に式場である教会の壁が破れる。大きな穴が空き、そこからシスター姿のエルフが入ってきた。




「ちーす、団長」

「【月】か。よく来てくれた」

「爆弾、それに合わせて魔法の遠隔発動も阻止しておいた。コイツら大分やってたよ」

「そうか」

「さーてと、アンタ等の罪を数えろし」




(エルフ……顔は見えんが女か。代行者ほどではないが尋常ではない魔力量だ。これは有象無象では相手にならないですね)




「なぜ、私達の魔法設置がわかったのですか?」

「あーしに質問すんなし……まぁ、でも教えてやる。団長が全部指示してくれた。あーしはそれを調べただけだし。やっぱ団長は神的な?」





 そう言いながら【月】のロッテは右腕を前に出した。彼女の戦い方と言葉回しはゼロ・ラグラーが手取り足取り教えている。ゼロには及ばないが魔力の流れは……それなりに近い。



 体術の精度もまぁ、まぁまぁ、似ている。




「ちょっと加速すっぜ?」




 その速度、神速である。彼女は縦横無尽に動き回り、教団の敵達を気絶させていく。


 男女合わせて50人ほどの信徒、神源教団には信徒、大司教、宗王、眷属様の順で序列が組まれており、信徒は…一星から七星までの七つの階級に実力順がある。

 

 その50人の中には七星スターセブンが9人存在していた。信徒の中では最上位である9人の男女。


 一人一人が特級の魔法を保有しており、魔力量も高い。だが、ロッテの加速度に適う存在はいない。



「バカなっ!?」

「な、なんて速さなの……」

「おいおいおい」



 これでもまだ彼女は満足していない。ロッテはゼロの強さを見ている。だからこそ、これが終着点ではない。



(団長ならまだまだ加速できる……これじゃ、まだ)



 全てを倒して尚、彼女は満足をしていない。彼女の強さに震えるほどに驚いているのがキャルであった。



「う、嘘、強いとか、そんな次元じゃない……代行者の手下にここまでの方が居るのですか……」



 驚きながら彼女は身を震わせる。代行者だけでなくその仲間も自身の次元を超えている存在なのだ。



「──さて、そろそろ雲を飛ばそうか」



 驚きに口を開けっぱなしにしているキャルを差し置いて、代行者が片手を彼女に向ける。




 太陽の光を一直線に照射したかのような極光がキャルの体を貫く。


「は?」



 キャルが自らの体を確認する。行なわれた事実に理解が追いついていない。まさに驚きすぎて思わず変な声が出てしまうほどだった。



「と、いた、ですと!?」

「キャル!」

「お、お父様!」




 デュベルは特級魔法が勝手に破棄されたことに気づいた。更に自らの仲間も既にロッテにより倒されている。完全に彼は正気を失った。


 全てが代行者の登場により、狂ってしまった。代行者が介入してくることを想定していたが、想定が甘かったのだ。


 多少の想定をすればなんとかなると思っていたがそうではなかった。



「お、お父様」

「動くな。まだ、あの二人が味方かわからん」

「お父様、あのエルフと代行者に勝てますか?」

「無茶言うな。代行者は無詠唱にて特級の魔法を破棄できる。特級は使える存在が居ないからこその特級の枠だ。それもああも容易く使えるとなると……」

「……お父様、あちらのエルフも相当です。代行者に魔力の流れが似ています」

「動くな。こちらとは本当に次元が違う二人だ。下手に動いたら……」



 微動すらできない緊張感が続く。しかし、代行者は二人に見向きもしない。彼はただ、デュベルに向かい腕を向ける。




「ははは!! やってやりますよ!! 貴方を倒せば私もまた、神への糧となる!!」

「それは不可能だ。神への贈与は失敗する」

「ふふ、えぇ、今のところはね。しかし私にはこの【霊薬】があるんですよ!!【神覚者】となる可能性がある【選ばれし者】。それを人工的に生み出す過程で作られた霊薬」



 デュベルを霊薬を大量に摂取した。小瓶に入っていた小粒を全部体へと入れる。


 一つ一つが大きな魔力の塊であるゆえ、細胞を活性化させる。


 それ等全てを取り込んでしまうと体が持たず崩壊の可能性があったがデュベル本人の器の強度が奇跡を勝ち取る。



「ひゃははっは!! これがこれこそが神の信仰の力。ん? なんだ? 誰だ? 誰が声を?」



 デュベルには荒れ狂うほどの魔力を帯びている。たった一人で一千人を超えるをほどの魔力を獲得することに成功していた。


 しかし、その際に副作用なのか。誰か知らない者の声が聞こえるようになってしまったようで辺りを見渡している。



「これはまさか神のお声か!! ははは、はははは。遂に私は神のお声を拝聴を成功した!!! あぁ、愚神を崇める存在を倒せと使命を与えてくださるのですね!!」

「神の声を聞いたか」

「えぇ、聞きました。霊薬には悪魔の細胞も組み込まれている。大量摂取することで神へと私が近づいたのでしょう」

「なるほど」

「えぇ、私は神覚者と同等となったのです。神覚者となれる才能がないと思っていたのですがね」

「多少毛が生えた程度で大袈裟だ」




 代行者とデュベルの魔力は互いに大きな圧を生みそれがぶつかり合う。台風同士が合わさったように式場内は壊れていく。



「あー、結界魔法ね」



 キャルとキュリテの前にロッテはすぐさま入り込み、結界魔法を発動する。魔力の圧とその噴き出した際の強風から守るためだ。



「ゆっくりしてな。団長の見学してさ。あ、お菓子食べる?」

「い、いえ、遠慮します」

「お前達、代行者一派はオレ達の味方なのか?」

「さぁ? 敵ではないけど」

「どっちなんだ?」

「味方かな? それよりお二人さん、大分顔色悪いよ」

「あ、貴方達の魔力が異常すぎて、それに当てられた私とお父様は気分が悪いです……」

「あーしの魔力は団長が高めてくれたからね。ちびっちゃうのは当然的な? でも、こんなんでテンション下がんならやばいよ。こっから更に団長、あげぽよだから」

「「あ、あげぽよ?」」

「そそ、団長があーしに教えてくれた言葉。これ知ってたらガチ勝ちよ」

「か、勝ち、なのですか? お父様」

「わ、わからん」

「つーか、見てれればわかる。こっから団長がすごいから」




 知らない言葉に頭に疑問が浮かぶスリヌーラ親子。ロッテが見据える先には今まさに、代行者と神覚者となったデュベルが戦う瞬間であった。




「先手は譲ろう」

「えぇ、行きますよッ!!」



 デュベルの魔力が大気中に迸る。地面に雷光が走るように超高速で彼は動く。



 超高速により速く重くなった蹴りが代行者の脳天に向かい放たれる。しかし、それをまるで赤子の手をひねるように代行者は片手で受け止めた。




「ははは!! 片手に電撃が浸透し麻痺していきますよ!!」




 デュベルには常に電気が帯電していた。魔法を発動する必要がなく魔力が勝手に電気へと変貌する特異体質をこの瞬間に獲得していた。




「なんという魔力だッ!!」

「お父様、ただ代行者も負けていません」

「あれは常に魔力が電撃へと変わる。魔法の工程を省いての電気を発現できるなら……代行者が一歩出遅れる」

「確かに」



 キュリテとキャルが互いに感想を交わしている。両者共に代行者の方が不利と予想しているようだった。



 しかし、ロッテはそんな二人に対してため息を吐いた。




「ばーか。団長の方が強いよ。団長はね……文字通り、最善、最高、最強の存在だし」



 そう言う彼女の表情は恍惚に満ちていた。目を見開き瞳孔が開いている。



「見てな……すぐ勝つよ」



 デュベルの数百、数千となる拳の蓮撃を相対するように代行者は掌で受け止める。如何に加速しようとそれは変わらない。



(バカな!? 一体どれだけ加速すればこの男に一撃を加えられると言うんですか!?)



(すでに、実力は神覚者としての実力を超えているはず……準なる神を祭典で倒していると聞いていましたが……)




(──ここまでか!! ここまで格別な差が存在していると言うのか!?? これが人に許されている力だと言うのか!!)




 代行者の掌がデュベルの腹を撃つ。バゴンと撃たれた彼の体に多大なるダメージを与える。




「がはッ!!!」



(待て、回復魔法を使用する必要がない体に私はなっている。大量に【霊薬】を摂取した恩恵として自動的な治癒を私は獲得している。しかし、ダメージが体の【芯】に響くッ!!)



 

 絶えず回復をしていく性質という脅威的な能力を持っているにも関わらず、デュベルの肉体は滅びに向かっていった。


 回復が追いつかない。




(拳と掌でぶつかっているのに、その衝撃だけで内側から壊れていくッ)




 一撃を喰らったわけではない。寧ろ完全に拳を見切り撃ち合っているとすら言える。冷静な視点で見れば拮抗している戦いに見えるだろう。


 いや、むしろ魔力が電気の性質を帯びているデュベルの方が優勢であると考えるのが普通だろう。


 だが、実際に追い込まれているのは──




「うぉぉぉぉぉ!!!!」




 激昂し、速度、魔力のテンションを上げていく。互いの攻守が激突をするたびに突風が発生する。




(いや、まさか。この速度についてくるだと!!? いやいや、否! 奴はここまでの速度で限界に違いない!!!)



(よく見ろ、よく考えろ、私の電気で代行者は動きが徐々に鈍くなっていくに違いありません!!)




(あと少し、あと僅かの撃ち合いで私が勝てるはずなのです!! 奴は油断をしている!!)



(ここを──)




 絶え間なく続く蓮撃。その思考の最中、デュベルは気づいた。自らの体に亀裂が入っていた。





「かはっ。ば、バカな。神に近づいたはずのこの身を単純な拳の撃ち合いだけで……内側から壊すだとッ!!」

「……全てはあのお方の思し召し」

「こ、この結果さえもアルカディアの……いや、ここまでの強さを持つ者がなぜアルカディアを信仰する……。理解できん、ここまでの強さを持つ者が」




 その言葉を最後に彼の体は砂のように消え去った。それと同時に信徒達も続々と息を止めた。ロッテによって気絶をさせられていた者達もトカゲの尻尾を切るように息絶える。




「あーあ、やっぱ団長の勝ちね。じゃ、お二人さんばーい」

「ちょっと待ってください!」

「なーに?」

「貴方達の目的はなんなのですか? 神の復活ですか? それとも神の復活の阻止なのですか?」

「うーん、まぁ、あーしはどっちでもないかな? 尊敬できる人が動いてるからそれの通り動いてるって言うか」

「……」

「一応、神々の復活の阻止は目的の一個だよ。ほんじゃ、ばーいびー」



 ロッテが煙玉を地面に投げる。煙が晴れると代行者も彼女も姿を消していた。


 その場にはスリヌーラ家の二人だけが残された。その後、騎士団の介入があり代行者の名が少しずつ世間に知られることとなる。




◾️◾️




「ふふふ、ゼロ様。ここはどうですか?」

「うむ、気持ちいい。お前の耳かきはいつも高水準だ」

「そうでしょうとも」

「正直。これで雇ってるぐらいだ」

「ちょっと! 可愛くて美しいのも考慮にすべきです!」




 ──まぁ、色々あってキャルの結婚式は潰しておいた。



 それ以上でもそれ以下でもないので、これより説明はいらない。



 そして、部屋に帰るとレイナが居たので耳かきをしてもらいながら横になりゆっくりをしている



「うむ。お前の太ももの柔らかさだけはどうにも凄いな。魔法で再現できなそう」

「ふふふ、そうでしょうとも! 神ですから! 神太もも枕に神耳かきです!」

「はいはい」

「あ! 神の言葉が出たから流しましたね!!」



 さて、五月蝿いのでここらへんは無視しよう。



「お前、体重67くらいあるだろう」

「……鼓膜を破るか、前言を撤回するか選べ人間」

「図星じゃん。それよりさっさと耳かき続けろ」

「おい、人間。私は48キロです」

「嘘つけ。お前高身長なんだから無理だろ。ほら、ムチムチの太もものくせに」

「も、揉まないでください」

「あいあい」

「聞いてない時の返事!!」




 

 ボォーッとしていると部屋をノックする音が聞こえた。中に入ってきたのはキャルだった。



「あれ、ウェディングドレスじゃないんだ」

「もう、脱ぎましたよ」

「あっそ。それで何のよう? 見てわかると思うけどメイドに耳かきをしてもらいながらグータラする時間なんだけど」

「貴方冷たすぎませんか」




 冷たいと言われてもね。お前が結婚しないと分かったし、耳かきは気持ちいいからね。



「お久しぶりですね。謎のメイドさん」

「お久しぶりです。キャル様」

「相変わらず、謎というか……雰囲気が変ですよね」

「えぇ、よく言われます。ゼロ様、反対の耳にしましょう」

「あいあい」

「くるり……と言うわけで反対の耳ですね。それでキャル様なにか?」

「……いいえ、別に。貴方は本当に変な人だなと思っているだけです」

「いえいえ。それほどでもありません」

「褒めてないですけど」




 キャルは反対の耳を掃除されている俺のそばに座った。



「耳かき中は危ないからあんま近づかないでね」

「ゼロさん、仮にも元婚約者ですよ」

「本はもらった。もうお前に用はない」

「クズすぎません?」

「それで、本当に何の用?」

「一応、結婚が無しになったので報告に来たまでですよ。貴方には世話になりましたので」

「そっか、代行者が入り込んできたとかは聞いたぞ。ラッキーだったじゃん」

「えぇ、しかし、謎が深まりました。代行者が言っているあのお方。一体全体何者なのでしょうか。聖神アルカディア。というのは分かっていますが私には詳しいことが何もわかりません。今度遺跡でも回って調べてみようと思っているのですよ」

「それは感心ですよ。キャル様!」

「なぜ、レイナさんがそんなに喜んでいるのかは知りませんが。ゼロさん宜しければご一緒しませんこと?」

「やめとく。忙しいから。繁忙期だし」

「学校今は普通ですよね。お父様が学園長なので今後厳しくなるのは知っていますが今は暇なはずですよ」

「うん、断るわ」

「そんな冷たいこと言わないでください」

「ミニシスター誘えば? 第三王女も暇そうだよ。イマジナリーフレンドと毎日話してるらしいし」

「王女とか面倒ごとの塊じゃないですか。そこはパスします」

「あっそ」

「ゼロ様! ここは協力をしましょう! 聖神アルカディアについて見聞を深めるべきです!!!」

「何でお前がそんなやる気なんだよ」

「キャル様、日程は私が組んでおきます!」

「え、えぇ。お任せしますけど……なぜそんなに食い気味」




 そんなこんなで今度の予定が勝手にできた。



「ゼロさん、今度二人きりで話したいことがあります」

「おけー、暇だったら話そう」

「それ暇な時がないとか言って逃げる常套句ですね。そうはさせません。明日話しましょう」

「めんどい」





◾️◾️




「ナデコ。今回の一件どう思いますか」




 宗教国家ラキルディス。そこには多数の国守を担う組織が存在している。



 一つは【王国騎士団】。国に使える魔法騎士の集団。魔法騎士学園を卒業した者達が入ることが多い。



 二つ目に【神聖騎士団】。アルザ・ラグラーの卒業後の就職先。【王国騎士団】にて功績を残した騎士が入ることができるエリート騎士。


 本来であれば王国騎士団での功績が必要だが【天才】アルザ・ラグラーは魔法学園卒業同時に入団をすることが確定している。


 かつて、ゴルザ・ラグラーと言う天才が入学三日でスカウトを受けたのも有名だがそれほどに超越している者達が集まる組織だ。


 ラキルディスにおいて、表向きの最高戦力とも言える。




 しかし、表がいると言うことは裏も存在している。表向きにはされていない騎士団を【執行部隊】と格付けしている。

 見せない手札として他国の抑止力にもなり、水面下で国王が動かす駒の一つ。


 だが、国王のブルドロア・ラキルデュース自らが全てを動かすのは好まない。上が全てを動かすことは独裁になりすぎると判断し、【執行部隊】は基本フリーとして動かしている。





「ワタシ達は出遅れた……代行者と神源教団の戦いを知ったのは全てが終わった後」

「えぇ、神源教団は以前からきな臭いと思っていたましたがここまで堂々と事を運んでくるとは思いませんでした。デュベル・ポリカーン。信徒とは言え国家ボルトルのたかが学生ですよ」

「そもそもボルトル学園の生徒がラキルディスに来たのは別件の用事があったからだし。結婚騒動はあったけどこんな大事となるとは思わなかった」

「……神源教団はキャル・スリヌーラを欲してたのかな?」



 ナデコの質問に執行部隊の隊長は首を軽く傾げてしまった。



「さぁ、分かりません。ただ、代行者と神源教団が戦ったとの推測が関の山でしょう。この記事を見てください」

「これ見た。学生達も大慌て」

「式場にいた信徒全員が死亡。神源教団は代行者による犯行であると明言と書かれています」

「全部後手だったね」

「えぇ、後手だったのです。後手過ぎているんですよ。私達は表向きになっていない集団。それ故に人目を気にせずフリーに動けるのがメリットであるのにここまで行き着けていない」

「むむ、それは不味い」

「えぇ。ただ、後手もここから変わるかもしれません」

「おお、隊長、それはどう言う事?」



 

 ナデコが首を傾げると隊長と呼ばれてる女性は軽く笑った。




「今回の一件、学校の前期でのバイト事件と襲撃に代行者は現れています。そしてそれは、天命界と神源教団により引き起こされています」

「……あ、代行者は全部の事件で【後手】で動いているって言いたい?」

「えぇ、先に攻めてきたのはあくまでも天明界と神源教団なのです。代行者は後手にも関わらず、全てを対処した……あまりに状況解決が早過ぎます」

「もしかして……代行者は」

「ナデコ、貴方の推測通り……代行者は




 執行部隊は遂に代行者の正体に一歩、近づいてしまった。




「そこで貴方に新たに探って欲しいのです。誰が代行者であるのか」

「最初は天明界の犯人を探す任務だった」

「えぇ、サムランという生徒が天明界の侵入者であると襲撃事件で判明しましたね。しかし、他にも居るのではないかと可能性があり貴方を残していました。それが今度は代行者になったというわけです」

「隊長、負担でかい」

「えぇ、期待してますね。早速ですが代行者の目星をつけましょう。怪しい生徒はいますか?」

「……あんまり? キルスって生徒は平民なのにレベル高いって感じかな」

「ふむ……なるほど」




 二人は暫く今後の操作対象について話し合った。そこで隊長と呼ばれてる女性はある事を考えつく



「逆にこの生徒は調べなくてもいいという生徒は捜査対象から外しましょう。時間の無駄ですからね」

「なら、ゼロかな」

「えぇ。私もゼロ・ラグラーは除外してもいいと思っていました。直近の情報によるとキャルという生徒をデュベルと取り合っていたようですが。【おちんちん】と連呼をし、ぐちゃぐちゃに場を荒らし、油断をさせて勝ったりしているようです。代行者は【おちんちん】とか言わないでしょう。一応は神の代行を名乗っている存在ですし。イメージと違いますし」

「ゼロは良い人だよ。白い猫とかカラスとかに餌あげたり可愛がったり。花壇の整備をしてるんだけど毎日水あげちゃんとしてるし。この間、迷子の子供を親の元まで連れて行ってた」

「ふむ、奇行が目立つが良い人のようですね」

「うん。それにワタシの目は魔力をみれる。魔力の流れとか全部筒抜け。ゼロはないかな。魔力ゼロだし。ゼロ・ラグラーだけに」

「ふむ、魔力ゼロ、ゼロ・ラグラーだけには彼の鉄板ネタようですね。大分、滑っていると情報ではありますが」



 淡々とゼロの資料に目を通していく二人。どう考えても代行者の人物像とは該当しないので彼は捜査対象から外れた。



「貴方の目から見て魔力が多いのは誰ですか」

「キルス。ナナ王女。イルザ。レイン。キャルとか……」

「そこら辺から当たって行きますか」

「学年は?」

「一学年だけで構いません。代行者は他の学年とは思いません」

「なんで? 他の学年も十分可能性ある。二年と三年も、怪しい」

「大きく動いたのは今学年から。それにサムランに最初から代行者はある程度の当たりをつけていた、時代が大きく動くを感じ取ったからこそ、新たにここに侵入をしたと私は考えます」

「……なるほど。大分絞り込める」

「代行者が特にこの学園に集中している。それも最近。一学年を調べてください。隊長命令です」

「了解……」

「あぁ、先ほども言いましたがゼロ・ラグラーは調べなくて良いですよ。どう考えても人物像と違いますから」




 執行部隊は代行者の正体に一歩近づいて、大幅に逸れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る