第14話 断ち切る



お兄様、



お兄様



──アタシの視野は真っ暗な景色



 何も見えなくて何も感じない。その光景に一筋の光が入り、その光が大きくなった。

 アタシの視界は眩い光によって包まれてしまった。




「あれ、ここって。アタシの家?」



 いつもの見慣れた家の風景だった。アタシの部屋の中でベッドの上で自身が寝ているところだった。



「う、うん? アタシの部屋ってこんな風景だったかしら? 似ているけど……どこか違うような」




 ベッドの上から体を起こすとその違和感がはっきりとした。物の配置とかが絶妙に変わってしまっている。


 あのメイドが勝手に配置を変えたのだろうか。だとしてもセンスがないような気がする。アイツなんだかんだでセンスありそうな時もあるし




「あ、お兄様の部屋に行って目覚めのキッスしてこよー!」




 お兄様喜ぶぞ! ふーんふん! お兄様の部屋はここ……あれ? お兄様の部屋ってこんなドアだったっけ?


 中を開けると……誰もいなかった。誰もいないし、何一つ家具を置いていない。



「イルザ」

「あ、お母様」

「何をしているの、朝食の時間でしょう」

「は、はい」



 いつもならもうちょっと優しい声音のお母様が妙にピリピリしていた。イルザちゃんと呼ぶのにその呼び方もしていないし。



 朝食をする場所に行くと席は二つしかなかった。朝食は二人分しかなくて……お父様、お姉様、お兄様、それとメイドもいない




「お母様。お父様とお姉様、あとお兄様の分は」

「……あなた何を言っているの。ゴルザなら、行方不明になったばかりでしょう」

「え!? そ、そんな。お姉さまは!?」

「アルザなら、この間死んだじゃない」

「……そ、そんな」

「あなた、寝ぼけているの」

「だ、だって……お、お兄様は」

「……




 そんな訳がある……あ!





『私には昔から子孫の未来を見る力があったんだ。歴史を見る能力とも言えるね。それでそれぞれの子孫の未来を僅かながら見れるんだよ』




 あの時のひーひーひーおばあちゃんが言っていた歴史を見る能力。子孫であるアタシが使用できるようになったとしても不思議ではない。




「イルザ……」

「こ、ここはアタシの知ってる現実じゃない!」



 再び、一筋の光が走りそれが大きく弾けた。目が覚めるといつもの光景だった。



「皆ぁ! ドッジボールの時間ダァあああ! そりゃああ!!!」



 お兄様とお父様、お母様、お姉様がドッジボールをしている。お兄様はまだ5歳の時なので小さくて可愛い。


「お兄様!」

「ドッジボールの時間ダァ! そりゃああああ!!」

「お兄様! なんて一直線の良いボール! 流石です!」



 そして、再び一筋の光が入り、それが弾けた。



「ククク、あの二人の子供が手に入れば問題ない」

「へへへ、兄貴。シズカとシズラが手に入ったら……六大神の力の一端が手に入りますぜ」

「俺達は特上会員だな」




 ──誰、初めて見た顔だ。




「お兄ちゃん」

「シズカ」

「ごめんなさい。お兄ちゃん」

「しょうがないさ。これが運命だったんだ。もし、生まれ変わったらまた、お母さんとお父さんを探しに行こうな」

「えぇ」




 また二人、知らない顔の子供ッ!! こ、これも何かの未来なの!?




「どぉじてだよぉぉぉぉぉぉぉ!!! ゆ、床がキンキンに冷えてやがる!!!」




 これはお兄様のいつもの姿だけど、なにやら胸を押さえて苦しんでいる。一体全体何が起こっているのだろうか。あの怪しい二人組、兄妹を追えば分かるのかもしれない。



 お兄様が胸を押さえているのは大事件ね、どうにかして解決をしないと




◾️




「それで君達はシズカ、シズラで良いんだな。色々大変だっただろう。ほら、お食べ」

「あ、ありがとう」

「どうも」




 今世紀最大のロリコン集団に追われていたと言っても過言ではない二人だ。俺に対しても強い警戒心を持っている



「あ、あの、貴方は何者なの」

「ただの学生です。まぁ、ゆっくりしてくれ」

「わ、私達を庇っていたら貴方も殺されてしまうわ」

「過激派のロリコンもいたもんだな」

「よく分からないけど、貴方が思っているほど甘くないわ」




 シズカと言う女の子は恐れているようだった。兄の方は疲れているのか寝てしまっている。



「団長」

「キルスか」

「少しお話を……そ、その二人は!?」



 キルスが俺の部屋に入ってきたのだが匿っている兄妹を見て目を見開いていた。まさかと思うがこいつもロリコン……は流石にあり得ないか




「どうしたのかね」

「いえ、何も。私が報告をするまでもなかったかと思われます。失礼します」

「うむ」




 何かを言いたげだったようだが今はそれどころじゃないのでスルーしておこう。



「ねぇ、今のは」

「同じ学校の学生だ。さて、そろそろ行くか」

「どう言うこと」

「あぁ、俺も偶には良いことしたいと思ってさ。基本的に人間は自由で良いと思っているのだがね、年の差恋愛も特に否定しないが、行き過ぎた部分は何とかしないとな」




 俺は黒衣にサングラスをかけて、変装をした。進撃のロリコン軍団の拠点を突き止め、破滅をさせなくては(使命感)




◾️




「あーれ? イルザちゃん!☆ 元気ないね!」

「ナナ様……最近不思議な夢を見てて」

「ふーん? どんな?」

「お、お兄様が居ない歴史の夢」

「君のお兄様か……」

「それと変な二人組が子供二人を襲う夢」

「ふーん……あ、でも最近変な二人組の男が子供を探してるって噂になってたな」

「そうなんだ」




 イルザはその噂を初めて聞いた。思わず夢の中に現れた黒衣の二人組とその噂を結びつけてしまったがそんな訳がないと一度因果関係を否定する。



「変な二人組っていうのがね、黒衣の格好をしてるんだって」

「黒衣?」

「一人は真っ黒なメガネをしてて、もう一人は目が怖くて。夕方くらいにフラッと現れては色々と聞いていくんだって。この絵画の子供を知らないか? ってね!」

「へー」

「その子供が兄妹なんだってさ」

「……」



(まさか、夢の内容と……同じ? でも、親族の歴史しか見れないってひーひーひーおばあちゃんは言ってたけど。もしかして、アタシの能力はあくまで似てるだけで違う能力なのかしら?)



(だとするなら……)



「ナナ様! その二人組はどこに!」

「え? 王都の裏道とかだって! あ、でもこれ! お父様にこっそり教えてもらったやつだからあんまり大事にされると……」

「大丈夫! アタシだけだから!」



 案内をしてくれ! とイルザは彼女に向かって叫んだ。そして、放課後暗くなってから二人は王都を探索することになる



「ねぇ、王様ってどんな人なの?」

「うーん、お父様はね。結構顔怖いかな。性格は真面目だと思う」

「アタシのお父様と似てるわね」

「あぁ、昔は仲良しだったのかもね」

「どういう意味」

「なんでも昔は一緒に六大神の謎を……おっと、これ以上先は僕の口からは言えないなぁ」

「ほぼ言ってるわよ。王女様」




 王都裏道、一通りが僅かに少ない場所へと脚を踏み入れる。



「ここかしら?」

「うーん」

「そこの二人」

「「っ!?」」



 ゾクっと急激な魔力の高まりを感じたイルザ達は思わず背後から距離をとった。そこに立っていたのは



「困りますわね。勝手に子供に来ていただいては」




【魔術師】と言う名を代行者によって与えられた【アルカナ幹部】の一人キルスであった。しかし、シスターの服を着て変装をしているので二人は誰であるか見当もついていない様子。



「だ、誰よ」

「誰と聞かれましても……まぁ、いいですわ。ここら一体は既に我々が包囲をしておりますの。下手に動かれては困りますわ」

「アンタ、代行者の仲間ね」

「え!? おい、僕の王都だぞ! 情報全部よこせ!」

「……子供の遊びに付き合うわたくしではないのですが」



 

 魔術師と呼ばれる彼女の所以はその魔力の器。団長を除けば、彼女はアルカディア革命団の中で二番目に魔力を保有している。



「や、やっば! 何よこの魔力は!?」

「うわ……ぼ、僕は王族だぞ! その魔力も僕のだ!」

「何よその訳分からない理屈は!」




 キルスの爆ぜるような魔力によって、剣を抜くことすら躊躇われた。彼女は手を向けるが、それと同時に上から何者かが降ってきた。



「ちーす。【魔術師】」

「【月】、なにごとですの」

「団長が潜入した場所。明らかに天明界、その第四支部【生命部】だったから、鬼閃光で知らせてきたわ」

「やはり、団長は既に理解していたのね。あの兄妹も事前に保護されていた」



 兄妹と言う言葉にイルザは夢の内容を思い出した。代行者が歴史の転換点の大元であるとするのであれば、目の前の存在達もまた──



「──アンタ達! 代行者の仲間なのね! 連れて行きなさい! アタシもその場所へ!」

「ぼ、僕も王族だからな! 連れていけ!」

「どうする? この我儘ガール。あーしはスルーで良いと思うけど。あーでも、イルザは無碍に扱うのもねぇ」

「【月】、黙っていなさい」

「はいはい。お口ちゃっくね」



(あの【月】と言われてる女、どっかで見たような気がするわね。こっちの【魔術師】もそれは同じね)



 【月】は以前大会で会ったロッテ、【魔術師】は同じく学年に在籍しているキルスであると彼女が思い至ることはなかった。



「そうですわね。【バインド】をして、それで良ければ連れて行きましょう」

「おけまる。あーしがするわ。はいちょっときつくなるよ」



 一瞬にして二人は光の魔法の縄によって身動きを封じられてしまった。手際があまりに良すぎるので相当の実力者であると改めて理解させられる。



「その顔は抵抗はしないようですわね」

「あ、王女様どっする? あーしはこれはスルーで良いと思うけど」

「王城の前に適当に投げておけば問題ないでしょう」

「ぼ、僕も連れてけ!」

「スルーしとくか」

「そうですわね。城の前に投げておきましょう」





 ナナ様は国王の部屋の前にバインドと言う束縛魔法をかけられている状態で放置された。



「あ、あのやろう! 許さないぞ!」








 ──そして、場所は変わりゼロの部屋。その場所にはロリ兄妹とレイナが居座っていた。兄妹は彼女を見てどこか不可思議で不気味な感覚を覚えていた。



「お、お兄ちゃん」

「わかってる。あの人……魔力の波動が神覚者とか悪魔に近い」



(なにやら、兄妹二人に私は怯えられているようですね。ゼロ様がこの二人を見ておいてくれと言うから仕方なくしてるだけなのですが)



(こう言う時、危険な存在ではないとちゃんと言ったほうがいいのでしょうか?)



「危なくないですよー! 可愛いメイドですよ!」

「ひっ!」

「お、おい妹が怖がってるから、や、やめてください」



(な、なんか、すごい傷つく!? あ、あれ? そんなに怖いでしょうか!? 手鏡で確認……うん、可愛い。女神が鏡の中に迷い込んだかと思いました、まぁ、私女神なんですけど!? ふふふ、ジョークも冴えていますね)



「お、お兄ちゃん、あの人一人でニヤニヤしてる」

「落ち着け、何があっても守るから」




 一方その頃……







 ──そして、天明界第四支部。その場所には約500人を超える会員達が集められていた。その500人を束ねるのは天明界上位会員、『ディラー』。


シズカ達をずっと追っていた男であり、王都中を駆け回り二人を探してた張本人である



「残念だが、あの二人を探すことができなかった。しかし、あの二人が近くにいるのは分かっている。兄妹達は選ばれし者、宝石がずっと反応はしている……強制的だが王都を今夜くまなく探す」

「流石です、兄貴!」

「焼き払ってでも、探せ! あれは神の一端でもある!」




ディラーの言葉に全員が感化されていた。上級会員としての実力が彼等の言葉を動かしている。


天明界。神の力を自らの物にしようとしている集団。善悪や倫理観を超えて自分達が利益を独占したいと考えている。


神源教団とは協定中であるが、彼等との違いがあるとすれば純粋に神の復活を願っているのではなく、神の力を自らにしたいと考えているかだ。その点教団はどんな手を使っても復活させたいだけの者達だ。




「ほほほ、申し訳ないですが全員大人しくして頂けますか?」

「誰だ!?」

「【星】と名乗らせて頂きます。私はただの剣ですので」

「ただのジジイか」



 神父の服装に仮面を被った老人が500人の大勢を前にして余裕の笑みを浮かべて剣を抜いた。


「ほほほ、お覚悟を」

「全員かかれ! 生きて返すな!」

「あれは代行者の仲間だろう。捕まえれば会員が昇格する」




 まずその剣士の目を引くのは脱力感であろうか。数で言えば圧倒的な差があるにも関わらず筋肉は硬直せず、余裕に溢れている。


 彼の器には全員を切れるほどの余りがある。



「なに!?」

「おいおい!!」

「なんて剣技だよ」



 瞬きをするのも勿体無いほどに【星】の剣術は美しい。夜空に浮かぶ星々のように煌めいていた。


 聖騎士の時代に与えられて彼の異名、魔法殺しマジックイーター


 

星竜剣術せいりゅうけんじゅつかッ。俺はそれを習っているが故に知っている」

「聖騎士ジーンが考案していた剣だな! だが残念なことに私はそれの皆伝なんだよ!」






 中級会員、上級会員、それぞれが剣を抜いて【星】に向かって突撃する。しかし、軽い小石が多少積み上がったとしても【星】を貫くことはない。



「ほほほ、残念ながら私がそれを作ったのです」



 二人を撃破し、そのまま彼は止まらない。




「くっ、な、なんて剣士だ!? 代行者の仲間なのか!?」




 百、二百と切り刻まれていく。血飛沫が舞うことはないのはあえて峰打ちにしていることで後で情報を引き出すため。



「ほほほ、この剣は団長との邂逅をきっかけにさらに進化をしております故。そう簡単に敗れるとは思わないことです」



 星竜剣術。【星】ジーンが開発した独自剣術となっている。そのあまりの技巧に王都三大剣術に並ぶ四番目の剣術になるとすら謳われていた。


 しかし、それは叶わなかった。その理由は星竜剣術は他三つに比べて習得難易度が著しく高かったからだ。

 その後、ゼロ・ラグラーにスカウトされ革命団へと入団を果たす。その際、ゼロ自身が彼の剣術に関心を持ち、わずか半日にして彼の剣術を写し取った。

 だが、ゼロはそれでは終わらず究極的なアレンジを勘にて行う。それが彼が手刀にて行う独自剣術だ。



 そして、ジーンはゼロが写し取った剣術を見て更にそれを模倣した。


 本来以上に成長している彼の剣術。

 


 こうして、彼の剣は進化をし星竜剣術・改せいりゅうけんじゅつ・あらた。を習得するに至る。もし、ゼロが居なければ彼はこの世界でいちばんの剣客となっていた。




「ほほほ、さて、数匹ネズミを逃しましたが……残りは団長が仕留めることでしょう。此度の拠点を見つけたのも団長であった。まさか私が報告をする前に全ての手を尽くしておられたとは」








 ──三度、場所は変わる。


 天明界第四支部。幼児実験室。ここには悪魔の細胞を埋め込み、人間を超越した存在を生み出す場所。



 ディラーは【星】より逃げて研究室にやってきていた。



「くっ、せめてこの支部の情報を……」



 ばら撒かれている資料を全て回収し、サンプルも集めていると辺りに煙が充満し始める。



「火を撒いた奴がいるか……ッ! くっ、俺を切りやがったな、あいつら!!」



 一部は既に支部が壊滅することを把握し逃げ出している会員も居た。証拠隠滅のために魔法を放った。



「あの二人が手に入れば……どうする。特上会員には報告をしている。これだけでも俺は役に立つはずだ」

「──既に全ての子は解放された」

「……ここへきて貴様か!! 代行者!!」





 火炎に包まれた煙が全て弾き飛ばされた。神が通る道をわざわざ作るように全てが退いた。



「研究室の子どもは……どうやら全て解放したようだな。しかし、それでは意味がないだろう」

「団長ならば全ての子供を治しましてよ」

「ば、バカな!?」



 空より飛来したもう一人の少女に告げられる真実によってディラーはまたしても驚愕をする。



(バカな、回復魔法を使ったというのか!? 研究機関にいる子どもは全て悪魔の細胞を入れられている。しかも、【宝石】すら内包している実験体もあると言うのにそれを全て回復魔法で治したと!?)



(ハッタリと考えたいが、この場面でそれを言う必要もない……だとするなら本当に回復魔法を!? 一級魔法だぞッ、回復系統の魔法はッ! しかもそれで全て細胞を取り除いたと!? どうやって)




 代行者の微かな挙動すら見逃さぬようにディラーは魔力を高める。だったのだが、その衝撃は突発的だった。自らの短剣が懐になければ一発で絶命を免れなかっただろう威力で……



 胸付近に衝撃が走るッ!!




「ぶ、ブレたッ! な、なんと言う速度ッ! 見逃すことが普通かッ!! これが代行者か! だがしかし、これでは我々には勝てんな」

「私は随分と抑えたのだがね。今ので測られては困ると言うもの」

「いいや、俺達の上にはもっと強いのがいる! 特上会員、その上に天神人てんじん!! 神覚者よりも強くその上で意思を保っている化け物中の化け物だッ。これはその時の、勲章!!」



 ディラーが髪に隠れていた右の瞳を見せる。彼の右目は傷によって潰れていた。目元には一筋の線があり剣によって切られたのが分かる。



「この瞳を潰された時、俺は気づきもしなかったのだ……気づいたら俺は瞳を失っていたんだ」

「ふむ」

「だが、今の攻防。俺は微かにお前の動きを感知したッ! これこそ、お前が我々の組織よりも劣っている証!!!」

「なるほど」

「ふふふ、滑稽ですわね」

「何を笑う」

「貴方、自分の瞳をよく見たほうがよろしくては?」

「なにを……バカな! 右目が見えているッ!」




 ずっと光が差し込まなかったはずの右目が左目と同じように全てを認識できていたからだ。



(あの時か!? あの一瞬の攻防で俺の瞳を治癒したのか!? 瞳の蘇生だなんてただの回復と訳が違うんだぞ!! 俺に気づかれることはなく、蘇生を行えるのはッ)



(──あ、あの時の、【アイツ】以上だッ)




「お前、一体全体何者なんだ……」

「私は神の意志を代行する存在。全てはあのお方の思し召すままに……」

「神の予言か……。神が微笑んだのは貴様だったかッ!!」



 

 ディラーは魔力を高め自らの放てる全てのエネルギーを放出し、魔法を放とうとするがその前にその魔力が吹き飛ばされた。



(魔力そのものを、吹き飛ばすのかッ! 魔法の構築には魔力の練り上げが必須となる! その練り上げの前に自らの魔力の出力だけでそれらを吹き飛ばした!!)



(コイツ、どんな魔力の器してやがるッ!! 才能だとか、そんな次元じゃねぇんだよッ!!! こ、こんなの人間じゃない!!)




「まさか……お、お前が、聖神アルカディア。なのか」

「我が神の名を語るほどではない」




 閃光のような疾さで代行者はディラーの意識を刈り取った。のちに残るのは静寂のみ、辺りは煙で満ち始めている。



「行こうか」

「はい! 団長!」




 王都、そこから少し外れた山脈の部分にて大爆発が発生。全てが跡形もなく弾け飛んでいることから、王国騎士団が調査に向かうが詳細はわからず。

 国王は今回の事態を他国の侵略などではないと判断し、悪魔の戦闘の可能性があるともして、具体的な対策を講じることはなかった。





◾️◾️



「ねぇ、聞いてよ! イルザちゃん!」

「はいはい」

「お父様がね! 僕がバインドで拘束されて部屋の目の前で放置されてたのに指名手配しなかったの! 遊んでいたのだろうとか言い出してさ!」

「あぁ、そうなのね」

「代行者とその一派は指名手配してほしかったよ!」

「あら」

「でも、悪い人たちじゃなさそうだから取り消してくれてよかったよ」

「どっちよ」



 あの大爆発があった事件の次の日、と言うか俺たちが爆発をさせた事件の次の日。


 いつものように俺は学園の昼休みに弁当を食べていた。


 

 ロリコンの拠点は俺が全部吹き飛ばしておいた。ついでにホルマリン漬けとかにされている子供も回復魔法で治癒しておいたのだ。


 ──そこらへん、吹き飛ばした後の処理はレイナが一晩でやってくれた


 尚、子どもは騎士団では危ない可能性があるのでグランマが経営している孤児院にて全て引き取ってもらうことにしておいた。


──そう言う処理は全部レイナが一晩でやってくれる


 そして、その他書類の整理は全部、レイナに任せておいた。大体面倒なのはレイナに任せておけば問題はない。




「あ、あの」

「ん?」



 お弁当食べてたら知らない女の子から話しかけられた。どっかで会ったことがあるような気がするが……その子の後ろには男の子がいた。同い年だろうか?

 同じ制服着ているみたいだけど。



「誰?」

「あぁ、えと一応学生です。あっちは私のお兄ちゃんで」

「そう」

「これ、食べてください」

「あ、そう、折角なんで貰うけど」

「……また会えますか?」

「会おうと思えば行けると思うけど」

「あ、そうですか!」

「この学校なんでしょ?」

「い、一応?」

「そう」

「でも、今日で転校しちゃって」

「ありゃ」

「でも、多分また会えるって言ってくれたから……」

「まぁ、暫くはここ居るけど」

「えと、あの、お名前教えてください!」

「ゼロ・ラグラー」

「ぜ、ゼロさん! 握手とハグだけお願いします!」

「俺のファン?」

「そうです!」

「うむ、俺のファンとは良い目を持っているな。自信もって生きていけ」

「ありがとうございます!」




 変わった子だな。どう考えても学園で落ちこぼれの俺に対してファンとか言うのは……ダメ男好きなのかな。



「それじゃ、また……」

「あぁうん」



 タタタタと走ってどっかに行ってしまった。男の子の方は深々と頭を下げてどっかに走って行った。


 あれ、どう言う感じの子なのだろうか。



「お兄様……浮気なのね」

「付き合ってないけど」

「ああ言うおとなしそうな子が好きなのね」

「五月蝿い子よりはあっちのほうがね」

「くっ、大声で怒れないじゃない!」

「なんでそうなるんだよ」

「やるなぁ、兄弟! うぇい! よっ! この女ったらし!」




 失礼だな、純愛だよと言いたいが、全く知り合いではないので黙っておこう。第三王女が話に入ってくるとややこしくなるのでスルーしておくのが吉と出た。


 そして、家に帰るとレイナが涎を垂らして布団の上で寝ていた。


「おい、レイナ」

「うーん。お、おはようございます。ゼロ様」

「はいおはよう」

「えへへ、書類全部完了しました! 褒めてください!」

「流石だ。レイナ」

「えへへ。それでなんですけど、私ご褒美にデート行きたいです!」

「デートねぇ」

「色々一晩で書類頑張りました!」

「あーそうねぇ」

「違う国でしましょう!」

「あぁ、そうねぇ。まぁ、しようか」

「わーい! 因みにですが私が奢りますよ! 最近臨時収入があったので」

「へぇ」



 ママンがボーナスでも渡したのかな? そんなことを考えていると


「カカ! カカ!」


 お! いつも暗黒微笑BGMをしてくれているカラス1号君じゃないか! 彼の口には新聞が加えられている。偶にこうやって新情報とか世間の出来事を俺に知らせてくれているんだよね


「ふむふむ。どれどれ……六大神を祝う祭を今年も開催……魔法騎士トーナメント! ふーん。賞金は5000万ゴールドかぁ。参加しようかな。でも、短期的に金を手に入れるよりビジネスで儲けたほうが……」

「ゼロ様参加してください。ゼロ様なら優勝間違いなしです!」

「余裕だね。でもさ、俺ってチートの天才じゃん?」

「自分で言うんですね」

「だってそうだし。俺が入ったら面白くないよ。だって俺が優勝するし」

「ナルシストもここまでくると清々しいですね」

「今回はスルーして……ん? 優勝賞金を貰うか、途轍もない記念品をもらうかを選べる? へぇ、何もらえるんだろう……芥川龍太郎の書物!?」

「あ……」

「な、なんでこれが。ちょっと待て、なんでこれが勝手に商品になってるんだ!? しかも高値がついてるってことか? 不味くないかこれ? 俺の黒歴史が全世界に!?」

「……これはまずい事態ですね」

「だ、誰が勝手に、だって、家の倉庫にあったはずじゃ」

「きっと何者かが盗んだんですよ!」

「誰だよ! リトルシスターはこんなことしないし。パパンとママンもしないだろうし。ビッグシスターもしないだろうし。ってなるとお前しかいないだろう!」

「ち、違います!!」

「本当か? さっきの臨時収入はこれを売ったんじゃないか?」

「……さ、さぁ」

「お前だろ! このやろう!」

「だ、だってデート行きたかったんだもん!」

「くっ、確かに倉庫を好き勝手にして良いとも言った俺も悪いか」

「そ、そうですよ! 喧嘩両成敗です!」

「うむ。それよりこの大会は何としても優勝しないといけなくなった訳だ」

「えぇ、ついでに大会場所でデートもできます。一石二鳥ですね」

「結構俺焦ってるんだぞ。昔の黒歴史ノートが全世界に……そ、想像しただけで胸が痛い。う、うぐ、考案した厨二魔法とかも書いてあるし、決め台詞も書いてある、くそ、胸が痛い!」

「だ、大丈夫ですか?」

「どぉじてだよぉぉぉぉぉぉぉ!!! ゆ、床がキンキンに冷えてやがる!!!」

「辛いのは察しますが床は雑菌があるので寝ないでください。ほら、太ももあります!」

「うむ」



 やはりレイナの太ももは精神が参った時に落ち着く。まぁ、元はと言えばこいつが俺の心を乱しているのだけど。



「これは嘗てないほどの大掛かりな任務になるかもしれないな」

「荒れますね、ゼロ様」

「あぁ。後お前やっぱり太っただろ」

「ち、違います!」

「そうか?」

「し、信仰が増えたんです! 神様なので信仰が増えて大きくなったんです!」

「何言ってるんだお前は……昨日夜にドーナツ食べたし」

「ゼロ様がドーナツは穴が空いてるからカロリーゼロって」

「嘘に決まってるだろ」

「そ、そんな!? カロリーは高温に弱いから揚げたら消えるって!」

「冗談に決まってるだろ」

「そ、そんな!?」

「でも、正直見た目はあんま分からないな。全然美形だし気にするな」

「さ、下げてから上げましたね! に、人間のくせに神を誑かすとは!」



 この自称神ムーブいつまで続くんだ?

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