第9話 血縁者達
さて、現在俺は祖父の家に向かっている。学園はなんとか落第は避けることができた。
現在は夏休みに突入し、祖父の家にパパンとママンとリトルシスター、レイナと向かうことになっている。ビッグシスターは学園にて色々予定があるらしい。
「あ、お兄様この問題間違ってるわ」
「え?」
「これ、50年前に王都を震撼させた最悪の殺人騎士とは? これの答えは【絶戒の騎士】なの」
「へぇ」
夏休みの宿題をしながら馬車に揺られている。前にはパパンとママン、両隣にはリトルシスターとレイナである。レイナは爆睡して俺の肩に涎垂らしている汚い。
「ねぇ、お兄様。お祖父様の領地には遺跡があるみたいなの! 一緒にいきましょう!」
「いや、宿題あるから一人で行ってこい」
「むー!」
「今ギリギリなんだ。今度一緒にデート行ってやるから」
「ホント! わかった!」
遺跡ねぇ。昔はよく周っていた記憶があるけど今更周りたいとかは思わないかな。遺跡と聞くと厨二心が疼いてしまうのでそれはやめたい。俺は既に卒業をしているのだから。
「あ、お祖父様の領地!!」
「グランパとグランマは元気してるかな」
馬車から降りて、大きな家の扉の前まで歩いた。レイナは未だ寝ているので俺がおんぶしている。
「久しぶりじゃのぉ。ゴルザ、エルザ、イルザ、ゼロ、あと、メイドのレイナ」
「久しぶりだねぇ」
グランパとグランマ、相変わらず渋いなぁ。特にグランパは目つきがパパンみたいに鋭い。
「まぁ、ゆっくりしていきなさい。ゴルザ、きなさい」
「はい、お父様」
グランパとパパンは何か話があるみたいでどこかに行ってしまった。さーてと俺はレイナをベッドに寝かしつけながら宿題でもしようかな。
「グランパ、部屋借りるね」
「構わんぞ」
グランパの家はかなり大きい家だ。二階建ての建築で我が家寄りと同じくらいの大きさである。一応はラグラー家の領地に建ててある家であり、他の平民も住んでいる。
「ここか、レイナはベッドに寝かしてと……」
一個だけ机が置いてある部屋なのだがその場所を借りて宿題をすることにした。ある程度時間をかけて宿題をしていると、だいぶ終わらせることができた。
「ふー、そういえばここはグランパの部屋だったか。この机も年代物だな。中に何が入ってるんだろ」
本当にちょっとだけ興味本位で机の引き出しを開いてしまった。中には一冊の黒いノートが入っていた。
妙な既視感があったけど、多分気のせいだろう。
「へぇー、グランパのノートは何が書いてあるんだろう」
ええっと。六大神……それは表向きは人を救いし神であるが、最初に人を滅ぼそうとした神々。愚神と言われている神アルカディアは人類救済を謳った神である。
……あ、やっぱりこの人パパンのパパンやったんやな!!
マジかよ、書いてる内容パパンと一緒やった!! パパンもグランパのノート見て厨二病に目覚めて、色々厨二サークルとかしてたんだろうな。
しかし、これは流石に……俺も含めてだが全員厨二病か。グランパも厨二病だったのか。そういう時期もあるよね!!
俺は出来た孫だから知らないふりをしてあげよう。
◾️◾️
「久しぶりじゃのう、こうやって話すのは」
「はい、お父様」
ゼロの祖父、ジグザ・ラグラー。鋭い鷹のような目つきを持っている老人である。腰は曲がっているが実力は現役から衰えてはいない。
「それで……何か私に言いたいことがあるのでしょうか」
「ふむ、そうじゃのぉ。ゴルザよ、最近面白いことを聞いた。魔法騎士育成学園に、神父の姿をした男が現れたと聞いたのじゃが」
「……」
「ほほほ、お前ではあるまい」
「さて。なんのことやら」
「アルザではない。あの子の性格上あのような動きはできまい。かと言ってイルザもそんな度胸はないじゃろうて。となると」
「……ゼロは魔力を保有しておりませんが」
「ほほ、惚けるとは。あの子しかおらんよ。あの子が継いだのじゃな。代行者と天明界との戦いを」
「……私は何も言ってはおりません。ゼロは勝手に自ら動き、自ら真実に辿り着き、現在はさらにその先に向かっております」
「……やはり天才か」
「気づいておられたのですか」
「あの子が一才の時、本を読んでいた儂のハニーが本のページで指を切ってしまっての。その時、まだ言葉も発していないあの子が回復魔法で治しおった」
「なんと……」
「僅か一歳、ただの赤子がそれを成していた。天才の中の天才であり上澄じゃろうて」
「貴方よりも」
「当然じゃ。儂なんかと比べものにならんじゃろ」
「嘗て【絶戒の騎士】と言われていた貴方がそれを言いますか」
ジグザは僅かに微笑みながらコーヒーを飲んだ。微かな沈黙を破ったのはゴルザだった。
「あの子に口出しは無用でしょう。全て我々が口を出すまでもなくゼロに任せるべきでしょう」
「確かにのぉ。余計なことかもしれんの。儂達の領域をゼロは超えているか」
「はい。綿密な計画をあの子は持っているはず。それに任せましょう」
「……もしや。あの子が、因果を断ち切るかもしれん」
◾️◾️
イルザ・ラグラーは学園の宿題の一つである自由研究をする為に遺跡を調査していた。ジグザの家の近くにはとある遺跡が存在している。いつ誰が作ったのかは分からない遺跡だ。
「ここかしら……はぁ、お兄様がきてくれればよかったのに」
遺跡の中は特に変わった作りになっていない。入ればすぐに行き止まりになってしまう程度の大したことのない造形である。
彼女は中に入ると、メモ帳に内部についてメモをしている。すると、
「……イルザ・ラグラー?」
「……誰、あんた」
気づいたら後ろに半透明の女の子が立っていた。
「ええ!? ゆ、幽霊!?」
「確かに幽霊に近いかも知れないね。私は」
「え、え? じ、自由研究の題材にしようかな」
「やめて、私は題材に相応しくないからさ」
「だ、誰なの」
「うーん、そうだね。君のひーひーひーおばあちゃんかな」
「えあ、そ、そうなんですね」
「……一つ聞いてもいいかな?」
「あ、どうぞ」
「……君はどうしてここにいるのかな?」
「あ、えと、その、自由研究でして」
思わず幽霊に自分が持っていたメモ帳を見せるイルザ。しかし、その幽霊はそういう意味じゃないと少し微笑む。
「違う違う。私が言っているのは……いや、言っても伝わらないか。君は今は魔法騎士育成学園の生徒で夏休みということでいいのかな?」
「そうです」
「……おかしいな。君は既に……死んでいるはずなんだけど」
「え?」
「あぁ、えっとね。私には昔から子孫の未来を見る力があったんだ。歴史を見る能力とも言えるね。それでそれぞれの子孫の未来を僅かながら見れるんだよ」
「そ、そうなんだ」
「全部じゃないよ。微かに断片的に……本当に些細なぐらいさ。それにみれない子孫もいるしね」
あっさりと自分が死んでしまったと言われると、どう言う意味なのか彼女は気になって仕方がない。
「あの私が死んだって」
「あぁ、入学式の時に誰かに襲われなかったかい?」
「……あ」
「そう、襲われたかと思ったんだがなぜ助かったのかなと」
「だ、代行者様に助けて貰いました」
「……代行者? あぁ、彼か。しかし、いや、そんな未来は……」
「あの、誰かわかってるのですか?」
「あぁ、ゴルザ・ラグラーだろう? 代行者は」
「え。全然違います。それははっきり言えます。あの人ではないです」
「え? 嘘、あ、あれぇ? そういう風に見えたんだけどなぁ」
「……」
(この幽霊大丈夫かしら? 意味深な感じで登場したけど、全然違う感じだし)
「ふーむ、ゴルザじゃないとすると……アルザかな?」
「いえ、お姉さまはその日、試験会場の警備でしたから違います」
「あ、そ、そうか。あ! わかった! エルザだね!」
「いえ、お母様はその日、お父様と一緒に薔薇のスケッチをしてました」
「え!? あ、あれ、他誰だ」
「あの、無理に当てなくても……」
「あ、うん、そうするよ。でもおかしいな。歴史がここにきて曲がってきてるのか?」
「歴史とか本当に見えるんですか?」
「今まではね。どんな未来も覆せなかったよ。こんな幽体になったというのにね。教えたいとは思ってもこんな体じゃ、誰も気づいてはくれなかった」
「そ、そうですか」
「それに……歴史とは知っていても変わらないものだ。どうにもね。歴史の修正力という奴なのかも知れないね。一度決まったレールに誰もが乗らされている。それが時間であると私は解釈している」
「は、はぁ」
「だから、不思議だ。既に君は天命界に囚われていると思っていたんだけど。しかも代行者か」
「あ、そうですね」
(この人、何か重要なことを知っていそうな人だけど。全然言ってることが当たって無さすぎて聞く気になれない!)
「あ、あの、ゼロ・ラグラーの未来は知っていますか?」
「ゼロ・ラグラー。あぁ、可哀想な子だよね。死産とは」
「いえ、ピンピンしてます、夏休みの宿題してます」
「あ、あれぇ?」
(やっぱり、話聞かない方がいいかも知れない)
「……なるほどね、これは面白いことが起きているのかも」
「え、えっと?」
「あぁ、私はずっと歴史を変えたくてね。本来ならラグラー家は君で末代。全員死んでしまう、と言うか世界は滅んでしまうのさ」
「な!?」
「でも、その歴史を私も変えられなかった歴史を誰かが変えているようだ。もしかして、それが【代行者】なのかな?」
「代行者……」
「君のお父さんが代行者だと思っていたけど、どうやら違うようだね。子孫に言っては悪いが、彼にそこまでの力はないだろうし」
「ま、待って、世界が滅びるってどういうこと!」
「あぁ、そうだね。もう時間がない。私が知る限り君に教えよう」
「じ、時間がないって」
「私の時間さ。この幽体はもうすぐ消滅する。魔力がきれてしまうのでね。だが、最後に君と会えてよかった」
幽体の少女はふふと微かに笑って見せた。その笑みは少しだけ姉に酷似をしているように見えた。
「私も詳しいことは知らない。だけど、世界を救いたいと君が願うなら……聖神アルカディアを追え」
「聖神アルカディア」
「六大神と戦った神だ。あの神の謎を追うといい」
「……世界が滅びるのは本当なんですか」
「分からない。歴史が大きく動き始めている。私には見えても変えることはできなかった。歴史という大きな流れを変える存在が唐突にこの世界に現れたと私は解釈したよ」
「なら、代行者」
「それも追うといい。君の顔を見ていればわかる。大切なものがあるのだろう」
「はい、お兄様です」
「あ、そうなのかい」
「正直言うと結婚したいと思っているのですが、占いできますか」
「占いじゃないんだよ、私の能力は」
「なら、アタシのお兄様を見てください」
「……それくらいなら……いや、申し訳ないが何度見ても君のお兄様は死んでいるよ。産まれるはずもなくね」
「お兄様……アタシ、お兄様が居ない世界なんて考えられない」
「なら、守りたまえ。その世界を……君は特別な子だ。必ず、世界を救う鍵となるだろう」
「それも占い?」
「占いじゃないさ。ただの勘さ。私が見た未来と今の君の顔を見て勝手に期待しただけさ。随分いい顔をしているじゃないか、私が知る未来では君は仏頂面で死ぬ時も何も後悔なく死んでいたよ。大切なものがないから何も感じないような顔をしてね」
「お兄様」
「そんなに大事なんだ」
「はい」
「かっこいい?」
「まぁ、それなりに」
「へぇ……最後に消える前にそのお兄様を見せてもらってもいいかい?」
「家にいます」
「それじゃ、間に合わない。消えてしまうよ。こっちにおいで、頭を触らせてくれ。それで見える」
「あ、はい。どうぞ……カッコ良すぎるので惚れないでくださいね、最近も羽虫が増えて面倒なので」
「あ、うん。全然知ってる未来と違いすぎて引いてるよ」
半透明の少女はイルザの頭に触れた。その瞬間、彼女の頭の中で溢れ出す存在しない記憶。
「おにいしゃま! おにいしゃま!」
「うん? どうした?」
「おにいしゃまはなんで、筋トレするの?」
「それはね、カッコよくなるためさ」
「へぇー! きんにくみしぇて!」
「ふ、構わんよ」
当時5歳のゼロが妹に裸体を晒している。上半身はとんでもないほどにムキムキマンだった。
(え? これ5歳!? 5歳!?)
「ふぇー! おにいしゃま筋肉しゅごい!!!」
「さらにもう一段階変身可能だ」(セル編悟空)
ボゴんと急に二回りほど筋肉でゼロは巨大化した。
(えええええええええ!? なにこいつ!? なにこいつ!? こーわ!? マジで怖いんだけど……)
「ふぁあ!!! しゅごーい!」
「よく見ろ、地獄に行ってもこんな美しい筋肉は見られんぞ」
「おにいさましゅごーい!!」
「ふふ」
「わたしもする! ふーん!!!ふーん!! うーー! できなーい!」
「カワイイ」(ブロリー)
「ほんとしゅごい! おにいしゃまって、なにものなの?」
「とっくにご存知なんだろう?」(ナメック悟空)
「しってる! わたしのおにいしゃま!」
「ふふ」
(あ、こいつだわ、歴史の転換の大元。何があったのか知らないけど、こいつだわ。絶対こいつだわ)
「それで……さっきからこの俺を覗いているな? 貴様」
ギロリと筋肉ムキムキの巨大化したゼロの瞳が、記憶を見ていた透明女の子に向いた。
「ぎゃああああああああああああああ!!!!!」
「ちょっと、急に大声出さないでしょ! びっくりしたじゃない!」
「びっくりしたのこっちなんですけど!? 何あいつ、あんなの私のヒー孫じゃないよ!! 化け物だよ、筋肉の!!」
「お兄様筋肉には自信あるらしいわね」
「それじゃ、説明が……あのお兄様のどこが好きなの? 怖くない?」
「昔、色々あったのよ。ちょっと荒れてた時期があってね。その時叱ってくれたのお兄様だけだったの」
「へぇ、色々あるんだね。あ。ごめん、そろそろ時間だ。まぁ、世界とか、末代とか、最悪未来とか……多分大丈夫でしょ」
「ちょ、ちょっと急に雑!」
「いやまぁ、大丈夫そう、うん、あれ、化け物だわぁ。安心したら成仏できるわ! それじゃ!」
ふわぁあああああと半透明の彼女は消えてしまった、そして、何が起こったのかよく分からないままイルザは取り残されてしまった。
「でも、世界を守るか。お兄様、必ずアタシが守るわ。世界は死ぬほどどうでもいいけど、お兄様との新婚旅行行けないと嫌だし、ついでに世界も守りましょう」
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