第7話 代行者対天明界 上級会員

 さて、最近俺は面倒なことに巻き込まれている。それは第三王女様であるナナ様に付き纏われていることだ。


「ねぇ、最近何かわかった?」

「いえ」

「だよねぇ、僕も何もわからなくてさ。お父様に聞いてもしらんぷりだよ」



 だろうな。だって、ただの厨二病ノートだし。そろそろ聞かないであげて欲しい。君のやっていることは


 傷口にキムチを塗って、ねぇ? キムチはどんな味なの!?



 みたいな要領を得ない行動なのだと言いたい(それ言うと第三王女権力を使ってくるので黙っている)



「聞きたいんですけど、なぜ世界の真実を知りたいんですか?」

「え? そうだね。えーと、どうしよっかな? 教えてあげようかな? でもでも可愛い乙女の秘密だしなぁ」

「じゃ、別に聞かないでおきます」

「いや、聞いてよ!」

「なんかウザかったので聞かないで掘り下げない方がいいかなと」

「き、聞いてよ!」

「じゃ、どうぞ」

「……英雄に憧れてて」

「ふーん」

「こう、物語の英雄譚とかに出てくる、英雄とかカッコ良くてさ。そういうのになりたくて」

「あぁ、主人公みたいなかっこいい奴ですか。勇者とか」

「まぁ、そうかな」

「そうですか。思ったよりピュアで拍子抜けですね」

「ちょ、ちょっと、どういう意味?!」




 思ったよりも理由が真っ当だった。



「てか、僕の目標を笑わないんだね。笑われるかと思った」

「まぁ、誰でもそういうのに憧れる時期ありますし」

「へぇ」

「それに、てっきり功績を立てて、政治の権力を握り、この国を支配し、僕が天に立つ! とか言い出すもんかと予想していたがそうでもないから、ちょっと好感度上がりました」

「おおい! 僕の評価どうなってるの! 君の中で凄い嫌な奴になってるけど!」



 何を今更、正直かなりあざとくて嫌な奴であるということくらいは自認しておいてほしいのだけどな。



「それでねー、あれ? どこ行くの?」

「お昼食べてきます」

「えー、もうちょっと話そうぜ!☆」

「王女様と話すのって、息苦しいのでお昼くらいはゆっくりさせてください」

「……王族だぞ」

「……」

「……一緒にいてくれないと後が怖いんだぞ☆」

「わかった! 一緒にいるから!! 権力すぐにちらつかせるのやめろ!!」

「ふふふ、王族の怖さがわかったか!」

「そんなんだから、友達少ないんじゃないです?」

「……」

「お昼食べてきまーす」




 黙ったので俺の勝ちだな。ふっ、コレが貴族の力だ!!!! 思い知ったか! ぼっちの王族が!!! 調子に乗ってんじゃーねぇぜー!!!



「……」




 おい、無言でついてくるのやめろ。第三王女様が追ってくるので俺はダッシュで逃げた。

 屋上に逃げることで、俺はようやく安心した。青空を見上げながらぽわぽわしながら、お弁当を取り出した。普段は食堂で食べることが多いのだが、今日は目的があり弁当だった。



「にゃー」



 あら、レイにゃが気づいたら膝の上に乗っていた。抱っこしてあげると鳴いている、喜んでいるのか、嫌がっているのか正直わからない。だが、嫌がっているようには思えなかった。



「お弁当食べるから、大人しくしててくれよ」



 木箱を開けると入っているのは【寿司】と【茶碗蒸し】であった。実を言えば最近、団長引退後の資産形成のために何か商品を売りたいと考えていたのだ。その試作品の一つが、これである。



「にゃー」

「これ食べるか……あれ、猫に寿司あげていいのか? でもこいつ、この間普通にサラダ食べたしな。異世界の猫は食べるのか」

「にゃにゃ!」

「おう、食べられるって感じだな。じゃ、これやるよ。マグロ……っぽい魚の寿司だ」

「にゃーにゃ!」



 

 何言ってるのかわからん。ぼぉーと青空を見上げている。異世界と日本は違うのに空が青いのは一緒なのか、不思議だ。



──どがん!



 呑気にランチをしていると屋上のドアが開いた。するとそこには、リトルシスターである、イルザが居たのでした。



「……むすー」



 なにやら、非常に不機嫌なご様子でした。おいおい、そうやって不機嫌な表情して周りに気を遣わせるのはお前の悪い癖だぞ。



「なんだ」

「……貴方は誰のお兄様なのかしら?」

「お前のだろ」

「そうね。アタシの名前を言ってみなさい」

「ジャギ」

「誰よ! 違うでしょ!」

「冗談だって、イルザ・ラグラー」

「そうね、そしてアンタはゼロ・ラグラー。同じ家に生まれた貴方の可愛い妹を放ったらかして、第三王女様と乳くりあってたわね」

「なんだよ。嫉妬か」

「し、嫉妬じゃないわ! そういうの良くないなって思ったの!! 第三王女様と絡んで何かあったらどうするのよ!」

「その時は、責任もって俺が一生守るから。絶対にお前を一人にはしないって」

「きゅ、きゅん……な、なによ、急に良いこと言うじゃない!」

「どこに感動してんだよ。わからんのよ、お前のポイントが上がる場所が」




 ぷんぷん、みたいな表情で彼女は俺の隣に座った。ぴたりと腕にひっついてジッと弁当の中身を見ている。



「それなに?」

「寿司」

「すし?」

「最近作ってみた。色んな場所から具材取り寄せてる」

「へぇ。お兄様色々してるのね」

「まぁな」

「お腹すいたんだけど」

「食堂で食べてくれば良いだろ」

「むー! もう! お兄様を探しててここに辿り着いたんだから食べれるわけないでしょ!」

「おいおい。落ち着けって」

「こほん、確かに少し感情的になりすぎてたのは謝るわ。悪かったわねお兄様」

「あいあい。これやるよ、穴子……みたいな魚の寿司だ。米は最近、とある未開拓の地で見つけてそれを栽培してる」

「嘘でしょ。お兄様って結構優秀なの? ……もぐもぐ、あら美味しいわね」

「だろ? 結構良い線行くかもって思ってる」

「……魔法騎士の勉強しなさいよ。一応卒業したら、アタシが養ってあげるし、雇ってあげるし」

「でも、お前も結婚とかしたら、家に俺がいたら相手に迷惑だろ。最近好きな人できたって言ってただろ」

「……あれは好きっていうか、ちょっと気になるだけっていうか。そもそも、どんな人かあんまりわからないし。どこで会えるかとかも分からないし」



 一体誰と恋をしているというんだ。前から少し恋愛を気にしている様なそぶりを見せているが相手が一向にわからん。



「なら、他の貴族になるんじゃないか、学園に良い人いないのか?」

「居ない」

「へぇ、金エンブレムだと居そうだと思ったけどな」

「意外と居ないわ。あと、王女様と一緒だから下手なことできないんでしょ。王族敵に回したら終わりだし」

「……まじで? やっぱり王族敵に回すとやばい?」

「そりゃそうよ」

「友達いないよね、王族だから! とか言ったら殺されるかな」

「そりゃそうよ」

「……」



 悪ぃ、俺死んだ!(ルフィ)




 ナナ様には後で誠心誠意謝罪をさせて頂こう。ほんまごめんって感じだな。でも、許されない確率の方が高そうだ。あいつ常に権力振りかざすし。



「イルザ。俺と一緒に学園を、国を出る覚悟はあるか?」

「え!? きゅ、急に!? 逃避行的な!?」

「あぁ」

「え……ゆ、指輪は安くても良いから同じの欲しい……」

「あ? いや、そういうのじゃなくて、王族にめっちゃ失礼発言したからまずいかもって意味ね」

「はああああああああああああ!?」

「声大きいぞ」

「あああああああああああああああああああ!?」

「わかったわかったから。ごめん、ごめん」

「……もう、知らないわ! お兄様なんて!」

「悪い」

「……ナナ様にはアタシからも謝っておくわ。多分、少しは軽減されるでしょうし」

「助かる。流石はリトルシスター」

「……でも、本当にダメだったら責任取ってもらうからね」

「あぁ、俺天才だから基本負けない。世界の誰にもな」

「……はぁ、魔力ゼロのくせに……その自信に期待しておくわ」

「あぁ」

「まぁ、こんなこと言っちゃったけど、ナナ様なら大丈夫だと思うわよ。あの人いい人で優しいし」

「優しいか、あいつ」

「優しいわよ。いつも丁寧な所作だし。授業中寝ちゃったら、起こしてくれるし」

「ほう、そんな良いところが」

「寿司ちょうだい。おすすめは?」

「これが美味いぞ。マグロ……みたいな奴だ」

「マグロって何よ……あら、美味しい」

「これなら、財産稼げるかもな。リトルシスターは舌肥えているしな」

「まぁね」



 イルザは舌が肥えている。それは大きな情報なのだろう。これをそのうち拡大させていけば大きな財産となる。



「稼いでどうするのよ。結構売れそうだけど」

「ほら、俺魔力ゼロで落ちこぼれだろ。だから、これで財産を稼ぎ、権力を手に入れ……俺が天に立つ」

「欲ありすぎ」

「冗談だ。家族に迷惑はかけられないからな。魔法騎士なれなくても、こっちの方面で食っていこうかなと」

「……だめ」

「え?」

「絶対ダメ。そんなの許さない。ラグラー家の当主として許さないわ! お兄様が寿司を売って儲けるのは禁止! 魔法騎士になれない場合はアタシの肩揉み係とハグ係!」

「お前当主じゃないだろ」

「なるのはアタシだし」

「いや、ビッグシスターかもしれないだろ」

「ダメよ、お姉様は尊敬してるけどならないわ。いえ、ならせない」

「そ、そんなに当主が欲しいのか」

「ふふふ、当主ならば、一番偉いからお兄様を好き勝手にできるもの……お姉様もそれが目的だろうし。一番偉いんだから好き勝手させてもらうわ」

「怖いわ。当主俺でも良い?」

「残念ね、魔力ゼロには無理よ」

「え、えぇ!?」

「ふふふ、当主になる日が楽しみね」

「パパンに手紙出して、ビッグシスター推薦しよ」

「おおい! やめなさい! お父様、妙にお兄様の言うこと聞きそうだし!! それにお姉様でも言うこと一緒よ!」

「そうか? ビッグシスターそんなこと言う気配がないけど」

「……お兄様、ちょっと危機感が……」



 ──膝の上の猫が飛び起きた。



「……ん?」

「なに? どうしたの?」




 魔力の波動を感じるな。何かが入ってきたな。この学園に。生徒の可能性もあるがこんな出力で入ってくる自己主張の強い生徒が居るだろうか。



「どうしたの、お兄様」



 これに勘付けないとはまだまだ当主は程遠いと思ってしまうのは俺だけだろう。さーてと、何か大事だろうかね?



──どがぁぁあああ!!



「な、何よ!? この音! 別館の方からだけど」

「らしいな」

「お兄様はここに居なさい! 危ないから!」

「あい」



 リトルシスターは風の魔法で空を飛び、すぐさまそこに向かった。空を見ると青空が赤く染まっていた。これは他者を閉じ込め、同時に外に出さない為の結界魔法だろうな。


 なーんか、面倒な気配がする。フリー組織のテロリストでもやってきたのだろうか?


「団長」

「キルスか」

「はい。きました! 奴等が!」

「そうか」

「天明界です」

「ふっ、予想通りだ」

「はい、すぐさまわたくしも学園を捜索します!! それでは」





 天明界、遂に学園にまで手を出してくるとは……前々から危ない組織だとは思っていたけどここまでとはね。陰謀論信じてるやつとかとは話が合わない。


 前世でも、無差別爆破をする兄と妹のテロリストが居たけど。そいつらも訳わからない思想を持っていた。死は救済! みたいなね。爆破前になんとか爆弾は解除したけどさ。


 異世界でもこんなテロリストが居るとはね。これは……



「ゼロ様、代行者の服と仮面、コツコツと音が鳴る靴を用意しておりました」

「なんで、用意してるんだ」

「ふふふ、準備バッチリのメイドでしょう?」

「はいはい」

「流石にテロリストはぼこぼこにしてください。やっておしまい!」

「誰目線なんだよ」



 まぁ、妹もいるしね。ビッグシスターは現在遠征という魔法騎士を強化する合宿に行っているらしいので今はいない。上級生がいないこのタイミングを狙ってきたのかどうかは知らんけども、



「──では、行くとしようか。副団長よ。全てはあのお方の思し召すままに」

「えぇ、参りましょう」

「……や、やっぱりこの話し方、恥ずかしいわ」

「我慢してください。貴方が始めた物語でしょう」




◾️◾️




「ほう、貴様、中々の魔力をしているわねぇ?」

「それはありがとうと言っておきますわ」



 キルスは真っ先に天明界に突撃をした。学園には火花が上がり、煙が立ち込めている。



「天明界、その一人と見て間違いありませんわよね」

「……ほう、我々を知っているとは、やるではないですか」



 彼女に相対しているのは天明界に所属する会員の一人であった。黒髪黒目の女である。


「私は【風剣】のメソッド。お見知り置きを」

「あら、そうでしたのね」



 キルスはメソッドと相対し、すぐさま魔法を展開する


(この子、学生の域を超えてるわねぇ。魔法の展開速度、魔力量、全てが高水準、そうねぇ、私が学生時代であったなら負けていたのかもしれないわねぇ)



 キルスは魔法を発動する、無詠唱にて風の弾丸を作り出し発砲する。それをメソッドは片手を出すことで相殺する。



「ふふ、この程度で……っ!?」



(嘘、私の綺麗な手の平を弾丸が貫通しているっ!? 馬鹿な!?風圧する正面ロンドルームで確実に弾丸は抑えたはず!?)




風圧する正面ロンドルーム。自身の目視する場所に高圧的な風の領域を発生させる魔法。その領域内を通過する場合、強烈的な風の風圧により、人体はバラバラになる、また、物体や魔法が通過する場合でも霧散され、その場所を通過することはない。


 

超高難度魔法にて、その危険度の高さも加味され、一級魔法に該当している。




(この女、あの魔法は……三級魔法、そよ風の弾丸エアブレッド。だろ!? なんで三級の魔法で、一級魔法を貫通できんだッ)





「わたくしと、貴方様では格が違いましてよ」

「あぁ!? 貴様、調子に乗んなよ! 年長の女敬え!!」

「学校に襲撃をかけて、尚且つ、天明界などに属し違法行為に手を染める輩に尊敬も何もありませんことよ」




 キルスの周りには洗練された魔力が練り上げられていた。



(こいつ、悪魔細胞を使ってる私よりも魔力量が多いってことか? 洗練されすぎてる……だとしても学生だろ、こんなの。こいつも何か特別な細胞や血統を持ち合わせてるのか?)



 

「解せない。そう顔に書いてありますわよ」

「……なんだ? どんなトリックを使っている? 細胞か、血統か、それともまたもや別種の力か?」

「さぁ、なんでしょうね」




 キルスは自らの魔力を只管に練り上げる。しかし、その練度が急激に上昇した。



「な、ま、まだ上があるのか!?」

「当然ですわ。一体わたくしが……誰を手本にして魔法を会得したと思っていますの」


(──初めて団長の魔法を見た時、まさに神の力と思った)




(何度も他の魔法や、他の卓越した騎士を見た。しかし、あのお方を超える存在を見たことがない!!)




(わたくしは恵まれている。目指すべきは、団長であると最初から決まっているのだから)



(世界最高の手本をいつも拝見できるのだから)



 想像を絶する魔力量を彼女は生み出しそれを制御していた。思い出すのはいつでも、あの世界最強の力。


 世界最強。この世界で強い方が良いに決まっている。




 ──その世界最強の力、それを示してくれたのは……




(これにて証明する!!! 誰が貴方の隣にふさわしいのか! 貴方の隣にふさわしいのは、あの副団長じゃない!! だって副団長は貴方のおやつ勝手に食べたりしてて、布団のシーツ洗うふりして持ち帰ったりしてるし!! 絶対にわたくしの方が強いし、副団長に相応しい!!)



「【螺旋・組み上げる塔・私は頂上から見下ろす者・蒼き空落とし青に染める】」



 『魔力の強烈的な波』を彼女は自らの手に収めていた。キルスから生じた魔力の波動にメソッドもたじろぎ、目を見開いた。



「おいおい、それは……反則だろうがッ!!! なんていう魔力量、そして、その制御。一体、どんな鍛錬と才があれば、それを会得できるって……」




「──【青空空玉そうてん・ごく】」



 分類をするならば特級魔法、更にその上澄の域の力であるのだろう。まさしく空のようにどこまでもその威力は拡大し、衝突すれば内側から相手を崩壊させていく魔法。


 それゆえに、地上に放つことはできない。魔法の効果が消える瞬間まで全てを霧散させていく魔法。空に放たなければ被害が大きいでは済まないのだから。


 空に放たれることが、絶対条件。



「わたくしだって、やってやりましたわ!! くっ、魔力を使いすぎてフラフラしてきましたわ……まぁ、後は団長に……」

「お見事でした。キルス様」

「ふ、副団長」

「見ておりました。まさか、団長の技をものにしているとは……いや、すごいですね。いやまーじでびっくり仰天です」

「……そうやって、余裕をこいてれば良いですわ。今回わたくしが倒したのは、天明界の、上級会員で、ですわよ」

「えぇ、ありがとうございます。正に天才という評価が貴方には相応しい」



 レイナは彼女を背負い、離脱をした。既に天明界の会員は【星】のジーンをはじめとした他の団員によって交戦が始まっていた。




◾️◾️



 第三王女ナナ、ラグラー家の秀才イルザ、この二人は爆発が起こった場所にすぐさま現着した。



 しかし、そこには謎の神父姿の男達、また、シスター姿の女達が謎の存在達と戦っていた。



「なに、どういうことが起こっているのかしら……」

「僕だって知らないよ……ただの襲撃とは思えないけど」




 その瞬間、二人は見た。仮面を被った一人の老人が数十人を一瞬で切り裂く瞬間を。



「「……っ!!!」」

「ほほ、驚かせてしまいましたかな? おや、貴方様は……ほほ」




 その神父姿の老人はまたしても瞬きをし、目を開けた瞬間には存在しておらず消えてしまっていた。先ほどまでいた神父服姿の者達も消えている。



「な、なによ。これは……」

「……まさか」

「ナナ様、何か心当たりが?」

「魔法文献を狙ってきてるのかなと」

「そうかもしれないわ。それはどこに?」

「……これ本当は話したらいけないけど、そんなこと言ってる場合じゃないよね! 着いてきて!」

「えぇ」



 二人が走り出したのは学園別館、その場所には隠し扉が存在していた。しかし、隠し扉であるはずがその扉は開かれていた。



「開いてる。まさか、既に誰か!?」

「いくわよ! ナナ様!」

「うん!」

「あ、参りましょう! ナナ様」

「なんで言い換えたの」

「あの、タメ口はダメだってお兄様に固く言われてて。俺以外に基本使うなよ、なぜなら社会のルールだって」

「君のお兄様、散々、僕にぼっちとか言ってるから気にしなくて良いよ」

「本当にうちのお兄様が申し訳ありません、王女様」



 二人は満を持して突入をする。すると、そこには二人の男が立っていた。一人は同じ学園の制服を着ているサムラン・レーバール、もう一人は見知らぬ男性だった。



「おやおやおーや、サムラン君これはビッグゲストだねー」

「……えぇ、まさか、ラグラー家の才女。そして、第三王女様のナナ様まで来られるとは」



 白髪に紅瞳、一見人間のようなシルエットだが肌が異常に白い。正気を失っているような風貌で額には赤い宝石が入っていた。



「レーゼン様、どういたしますか?」

「うーむ、流石に第三王女を殺すとなると……大きく動きすぎてしまっているように思えるからねぇー。他の国にも目をつけられそうだし、それは今は避けたい」

「もう片方は」

「彼女は選ばれし者だと聞いてる。捕縛をしたまえ」

「は!」



 サムランは言われるがままに剣を二人に向ける。



「ナナ様、どうか何もしないで頂きますよう」

「できないかな。それは」

「アタシに勝てると思ってるのかしら? あ、勝てると思っているのでしょうか?」

「こういう時は敬語じゃなくても良いんだよ。イルザちゃん」



 イルザは剣を抜いた。魔法騎士として、実力は十分、金のエンブレムを左肩に付けているのは伊達ではない。満ち溢れる魔力はまさにラグラー家の秀才の証。



「なるほど、これがラグラー家の秀才ですか。大した者ですね、僕が相手でなければ」

「言ったわね。お兄様に剣術で負けた男が。入試で負けてたもんね。お兄様にすら負けたのに、アタシのお兄様に負けたくせに」

「なるほど。貴方は分かっていないようだ。あのゼロ・ラグラーは剣術では大したものでしたが……魔力があれば話は別なんですよ」





──大きな魔力の発露




 優秀な生徒のイルザよりも大きく、室内を魔力で大きく満たしていた。



「僕も手伝うぜ☆。ここには魔法文献があるからね。持っていかれると困るんだ」

「ナナ様、礼を言っておくわ」

「はぁ、貴方は下手に手を出すなと言われているのですがね」




 サムラン対王女&イルザ、その戦いが今始まる。まず動いたのは……いや、誰も動けなかった。


 動こうとした、意志を体に通そうとする前に究極的な魔力の起こりを感じたからだった。



『うぇええええええええええええええええ……』



 頭上には複数の黒鳥が舞っている。何かの降臨を祝福するように黒鳥達は鳴いているのだ。



「──さて、その戦い。私も混ぜて頂けるか」

「代行者様!?」

「代行者だと」

「誰?」

「ほう、君がー、代行者なんだーね」



 イルザ、サムラン、ナナ、そしてレーゼン。彼等は彼の者に視線を集める。金色の髪、片目だけ欠けた仮面、黒き神父の姿。


 第三王女のみ、彼の存在を知らなかった。



「誰? イルザちゃん」

「あ、アタシもよく知らないというか。ただ、すごく強い人」



 サムランはその存在を見て、代行者へと剣を向ける。



「まさか、貴殿に会えるとはね。僕は運がいいのだろう。会員を上げるのに、これ以上の手土産はない。レーゼン様」

「構わないよー」

「ありがとうございます。【光の矢】」



 一言でサムランは光に包まれ、そのまま直線に超加速をして突き進んだ。



「短文詠唱ッ!! しかもアレは1級魔法なのに!」

「あ、アタシ、多分負けてたわね。サムラン、強いわ……でも、それでも代行者様は」



 短文詠唱。本来では必要な詠唱の長さよりも短い詠唱にて行う魔法技術。無詠唱よりは下位の技術になってしまうが、1級魔法を短文詠唱で使えるとなると話が変わってくる。



「なるほど、見えているのですね。僕の剣が」

「大したものだ。恐れ入る」

「……完璧に見切っておいてよく言える。【光の矢】」

「しかし、それでは私に及ばない。速さは極まりはしない、人の技は果てが存在しない。魔法は一時的には大きな力を得るが──」

「っ!!」

「──根本的に肉体の成長がない」



 光輪の矢剣ライト・オブ・ストライク。1級魔法に分類される。超高速で一時的な速さを身に纏い加速をする一振り。



 常人であれば、斬られたと認識する前に勝負が決してしまう。


 だが、しかし、只人のはずもない。既に加速をしたサムランの後ろに代行者は回り込んでいた。



「……ふん」

「がっ!!!」



 そして、無詠唱にて光輪の矢剣ライト・オブ・ストライク、それをサムランに放つ。剣ではなく拳にて彼の腹を叩いた。



(あ、熱いっ!! 腹が焼けるようだッ!! く、空気が、い、息ができないッ、こ、声も出せないッ!!! これでは、詠唱がッ)



「無理をしなくてもよい。迷える子羊よ。今はただ、眠りにつくといい。それが君の腹の火傷を治してくれるであろう」

「ッ!!」

「情けない〜ねー。サムラン君。まぁ、君には期待していないから、問題ないけどーねー。さて、代行者、今度はわたーしが相手だよ。天明界でも、君は話題だったからね」

「ほう、私の名を知って頂けているとは光栄。して? 私の信仰する神についても存じ上げてくれていると解釈しても?」

「あぁ、知っているとも。面白い話だ。真実を知ってなお、君はそっちに居るのだから。自己利益を追求するならばー。わたーし達と行動をすればいいーのにね」

「それには及ばない、天に手を伸ばす者よ。私は既に魂をあのお方に売り飛ばしていてね、品切れをしてしまっているのだから」

「おや、残念だーね。なら、ここで死んでもらおうかッ」



  天明界の中でも彼の存在を知る者は多い。だが、ただ僅かに野良犬が前を横切っている程度の認識だ。



 レーゼン、スラムで育った彼は他者から奪う事に罪悪感がない。それはしょうがないのかもしれない、極限の中で生きている彼にとっては取り立てる、奪われる、奪うのが当たり前。


 そこから永遠に奪うための立場になるための剣。



 残忍だが、奪うための剣技は確かに強い。彼の剣は二刀流、しかも剣が蛇のようによく曲がる薄い剣だ。



「ほう。これは珍しい」

「高尚な魂などわたーしには無いが……それで戦いが決することもないだろう。それを知っているのは」

「私も同感だ。思いだけではどうにもならないこともあろう」



 薄い蛇のような剣は柔軟で一度に、十の攻撃を作り出す。点ではなく線による多重攻撃。しかし、それが致命打になることもない。


 代行者の魔力は莫大、さらに圧倒的な魔力センスも保有している。



「……ふん」



 閃光のような輝きが辺りを包んだかと思うと、レーゼンは壁に身体を埋めていた。咄嗟の判断で体を起こし剣を握るが、その剣も既に細切れへと変えられている。



「な、なに!? ま、まさか、魔力で武器を創造することも可能なのか!?」



 彼の手にはレーゼンが先ほどまで持っていた。細い頭身の剣が魔力によって形作られていた。



「なに、大したことでは無い。貴殿の攻撃を受ける際、私はこの辺り一帯を魔力で包み、把握し、それを覚えただけのこと」

「……ば、ばかな」

「この技は貴殿の仲間が好んで使っていたのでは無いのかね?」

「……【紅閃光】、その固有魔法。【無識】かッ。余計なことを!? 十八番を写し取られやがって」

「貴殿だけには彼も言われたくは無いだろうがね」




 その様子を見て、ナナも思わずたじろいだ。魔力の制御が群を抜いているからだ。



(術式の構築、詠唱、工程を全部吹っ飛ばして……高度な魔法を発動させるのは一体どれだけの精度が必要か……! 魔法の常識が彼の身には適応されていないみたいだッ!!)



(そもそも魔法は術式の理解が先、さっきのサムラン君の魔法も一級魔法、それを見ただけで無詠唱……いや、流石に元から使用可能だったと考えるのが納得がいくけども)



(ありえないけど、まさか、この人。見ただけで魔法を無詠唱で写し取れるのかッ!!?)



 その予見は正しかった。代行者の魔力量と魔力センスは他者とは一線を超えている。





 戦闘センス、それもまた他者を超える。今まさに、代行者の拳がレーゼンに降りかかる。

 



「くっ、これほどの技量がありながらなぜ、なぜ、愚神を崇拝する!!!」

「知れたことを。いや、そうでもないか。愚かな行為だと私を笑うのであれば、存分に笑ってくれたまえ。ただ、私の行動は、想いは、人生は。全てはあのお方の思し召しに過ぎないのだから。道化と笑われるのもまた、一興」

「バカが! 六大神の力を我が物にする我々と共にいた方が楽に世界を取れるというのに!!」





(六大神。六大神だって!? あのお父様のノートに書いてあった……つまり、代行者は……あのノート、に書いてあった愚神を崇拝している動きに見える……?)




「世界など、取る必要もあるまい。世界とは数多の要素で構成されている。たとえばそれは神の意志すらも関係なく、人の営みが回す場合もあろう。世界とは誰かの仕事で構成されている。我々は知らず知らずのうちに、誰かの施しを受けているのだ。それを支配するとは矛盾が生じる」

「阿呆が、世界を回す側になれば好きにできるだろうに。支配をすれば、数多の弱者を引き連れ、強者となれる。弱者は強者により、潰されるのみに過ぎない!!」

「それはおかしな話。世界を回す側も回される側も言って終えばコインの裏と表。それは見ようによってはいくらでもひっくり返せる。食物、インフラ、騎士、王、貴族、平民。一見、階級があるように見えるがそれらどれかが欠ければ他もまた崩壊をする」

「……」

「世界を取るなど神でも不可能。支配をすることと、支配をし続けることは訳が違う。ふむ、話がだいぶ逸れているような気がするな。とにかく私はただ、あのお方の思し召すままに。人が人を回すこの世を見届けているに過ぎないと、言っておこう」

「愚かな」

「それこそ、我々人間だろうに」



 ──ざしゅ



 代行者の手刀によって、レーゼンは気を失うこととなる。代行者はそのままナナと

イルザを向いた。



「ここで見たことは忘れることだ。第三王女よ」

「な、わ、忘れる訳ない!」

「やめておけ、ここより先は地獄。そう、地獄だ」

「……君、何か知ってるな? 情報出せ、王族だぞ」

「王族とはこれまた恐れ入る。しかし、その王族がこんなにもあっさりと……【所有物】を奪われていいのかね?」

「あ!? ぼ、僕のノート!!! か、返せよ! 王族の所有物奪うとか、じゅ、重罪だぞ!」

「ふふ、ならば捕まらないようにするしかあるまい」




(い、いつの間に、僕のノートを盗んだんだ!? ま、全くわからなかった……)



 代行者の手には国王が綴ったノートが握られていた。余裕綽々、仮面をしているが仮面の下はニヤニヤ笑っていると彼女は察した。

 


「このノートを盗られた事にも気づかないとは。だが、この先はこのような事態は多いだろう。死ぬことも、死を悟ることも悟られることも叶わないかも知れない。それでも進むかね」

「……や、やってやるよ!」

「……マジかよ、こんだけビビらせたんだから引けよ」

「え?」

「ふ、その余裕がいつまで続くか楽しみにしておこう。そして、ラグラー家の才女よ。入学式以来か、その後調子はどうだね」

「あ、あ、あ、えと、その」

「なんで、そんなオドオドしてるの!? イルザちゃん」

「しょ、しょうがないじゃない! 代行者様だし!」

「ふ、まぁいい。私の目的は達せられる」

「あ、待て! 返せ! ノート返せ! このやろう! 指名手配にしてやるからな!! お父様に言ったら絶対に指名手配だぞ!! いいのか、このやろう!!」





 しかし、その声虚しく代行者は再び現れることはなかった。その学園に対する襲撃の事件は、後に【第一回、魔法騎士学園襲撃事件】(第三王女命名)と言われる事になる。


 そして、代行者によってノートが奪われた第三王女であったが、代行者が指名手配されることはなかった。噂では国王が代行者の指名手配を止めたのが原因と言われているが、詳細は明かされていない。


 何者なのか、襲撃者とは、代行者、あのお方とは、六大神とは、謎が謎を呼ぶ事件と終わることとなる。


◾️◾️



 あーあ、あの第三王女ビビらせてやろうと思ったのに結局あのまま都市伝説を追い続ける結果となってしまった。


 あそこでビビらせて厨二サークル活動が終わると思ったんだけどね。まぁ、このノートを手に入れることができたのだから、問題はないだろ。



「これがないと、あいつ困るだろうなぁ。手がかりもないだろうし、ふふふこれで暫くあの、王女の活動が進むことはない!!!」



 あの事件は謎の存在が襲撃をしてきたとして処理されているらしい。神父姿の男数名、シスター姿の女数名が目撃されたとか。これらは革命団の団員だけど。


 そして、黒衣の謎の存在たち、これは相変わらず頭のおかしい厨二テロリスト集団天明界である。いや、まさかここまで拗らせているとはね。神の力を我が手にとか言って違法実験に加えて、まさか学園襲撃とはね。


 やばすぎでしょ。まぁ、今回学園生徒は死者ゼロだからいいけどさ、ゼロ・ラグラーだけに(超おもろい)



「あれのトップって、どんな感じなんだろ。多分賢いふりしてる馬鹿なんだろうな」



 やばいねぇ。陰謀論を信じている人って、しかもそれをガチでやっちゃうって本当に危機感持ってほしい。



 ぼぉっと自室で考え事をしていると、扉をノックする音が聞こえた。


「あー、ちょっと待って」

「入るぜ☆!」

「何も言ってないんだけど」

「あ、ごめーん! って、あ!? そのノート!?」



 し、しまったぁ!? ゆ、油断してた。机の上に出しっぱなしだった!!




「そ、それ、どうしたの?」

「こ、これは」

「ま、まさか」



 まずい、まさか、バレてしまったのか。俺が代行者であると……



「もしかして、取り返してくれたの!?」

「え?」

「そのノート! 僕のだよね!」

「……あ、うん。そうそう」

「うわーい! やるじゃーないか! よーよー! やるじゃないか!」

「あ、テンション高いんだな」

「そりゃね! まず燃えてるんだ、今回の事件で自分がまだまだだって知ったからさ。多分、世界の裏側で色々起きてるよ。多分、お父様も何か知ってる」

「あ、そう」

「お父様も代行者について、何か知ってる様子だったし」



 そりゃ、俺のパパンと厨二サークルやってたんだから知ってるだろうな。あれ? 王族と仲がいいパパンって結構すごい人?



「代行者……多分、このノート関係がある。そんな気がする。代行者が言っていたあのお方。そして、それと敵対していた組織……これは大きな波乱が起きるよ」

「……応援してます」

「君もやるんだぞ☆ もう仲間だよ」

「強制的に仲間にするなよ」

「だって、僕のノート取り返してくれたじゃん。てか、よく取り返せたよね? 相手代行者だったのに」

「偶々です。帰りに空から落ちてきたから、疲れて落としちゃったんだと」

「あー、なるほどね。ふふ、代行者なのにドジだなんてちょっとポイント高いかも。こう、裏と表の面があって人間味があるのは嫌いじゃない」

「そうですか」

「それはそれとしても、ノートを君が拾ってくれたのは嬉しいよ。ありがとうね」

「はいはい」

「これからもよろしくね!」

「えぇ」

「もうこれは、偉業だよ。称号与えたいくらい……うーん、公爵かな」

「こら、ちゃんと爵位の価値を考えなさい」



 こいつ、本当に王族か。適当すぎるだろう。ノートを拾っただけで公爵とか馬鹿すぎる。



「なら、兄弟きょうだいで!」

「は?」

「兄弟よろしく」

「いやいや、無理だわー」

「僕、姉二人だから弟か兄欲しかったし」

「お前の価値観知らんし」

「僕に、可愛く、お兄ちゃんって呼ばれたい? それともお姉ちゃんと呼びたいかな?」

「ふっ、そんなあざとく言っても俺は靡かないぞ。男を舐めるなよ。賢者タイムの俺は何にも響かんわ」

「け、賢者タイムってなに?」

「魔力常時十倍」

「すごい! あれ、でも君0だから意味ないじゃん」

「ジョークだよ」

「面白いね、兄弟!」

「や、やめろ! 俺には既にブラコンの妹と姉が一人ずついるんだよ! これ以上いるか!」

「だから、兄弟だって!」

「意味わからないこと言ってないで政治の勉強しろよ。王族だろ」




 こいつ、王族の自覚がないな。あざとくて、ヘラヘラしてて、厨二病ですごく面倒くさい。しかも友達いないから、誰かに擦りつけることもできない。




「これから、世界の真実に迫っていこうね! 兄弟!」

「やめろ! そうやって俺を面倒ごとに巻き込むなよ!」

「でも、お兄ちゃんでもいいかも」

「それやったら、俺の妹がお前を許さないだろうな」

「え? そうなんだ」

「あいつ、結構寂しん棒だから自分のポジション取られたくないんだよ」

「へぇ。そうなんだ、兄弟」

「定着させるな」

「王族特権発動、これにて兄弟です」

「くっ、俺には何も言えない……」

「ははは! 思い知ったか!」

「そんなんだから、ぼっちで友達いなくてあざとくして、周囲と接するしかないんだろ」

「う、うわーん! その言葉はライン超えだ!! お父様に言いつけてやる!」

「お前のそれは洒落にならないからやめろ!!!」




これはマジで困った。どうしようこの面倒な爆弾……もう、イルザ巻き込んじゃおうかな。妹は困った時には兄の味方なのだ。





 

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