第6話

 磯村さとしが自宅マンションに帰宅したのは、午前〇時を過ぎてからだった。

 編集会議という名の編集長との飲み会を行い、編集部の経費で散々飲み食いをして帰ってきたのだ。


 部屋の鍵を開けようとすると、足元に段ボール箱が置かれていることに磯村は気づいた。その段ボール箱は大手ショッピングサイトのものとそっくりであり、きっとこの前買った靴が届いたのだと思って、その段ボール箱を拾い上げて、部屋の中へと入った。


 磯村は現在、妻とは別居中で、いま住んでいるワンルームマンションは賃貸だった。


 万年床となっている布団の上にワイシャツのまま寝そべって、スマートフォンの画面をチェックする。

 メッセージが一通来ていた。それは福原あやねからのものであり、佐藤のところで撮った動画が送られてきており、動画をチェックしろというメッセージが添えられていた。


「なんだよ、面倒くせえな」

 そう独り言をいいながら、磯村は動画の再生ボタンを押す。


 福原あやねからのメッセージでは、インターフォンの再現をしているシーンをしっかりと確認してほしいという旨が書かれていた。


 磯村は動画を見ながら、半分眠ってしまっていた。そして、インターフォンのシーンに来る頃には完全に目は閉じてしまっており、その映像を確認することはできなかった。


※ ※ ※ ※ ※


 翌日、福原あやねが出勤すると、磯村の姿は席になかった。


 出社が遅いことはいつものことなので気にしなかったが、昨日送ったメッセージに既読がついたにもかかわらず、何の返信もなかったことが妙に気になっていた。

 編集長が出社し、磯村が居ないことを確認すると首をかしげていた。


 結局、昼頃になっても磯村が出勤しないことから、編集長はあやねを自分の席へと呼んだ。


「福原くん、悪いんだけど磯村に電話してくれないか。たぶん、あいつ二日酔いで寝ているんだと思うから」

「わかりました」


 あやねは面倒くさいなと思いながらも、その仕事を引き受けると、磯村の番号を呼び出した。

 磯村のスマートフォンはコールはした。しかし、待てど暮らせど、磯村が電話に出ることは無かった。


「磯村さん、出ません」

 そう編集長に報告すると、編集長は困ったなという顔をしてみせた。


「なんだったら、見に行ってきましょうか?」

 自分でもどうしてそんな提案をしてしまったのか、あやねはわからなかった。

 別に磯村のことが心配であるという気持ちが無いわけでもなかったけれども、そこまでする必要はないと思っていた。それにもかかわらず、なぜ自分はそんな提案をしてしまったのだろうか。


「おお、行ってくれるか。すまないね」


 編集長に後押しされるようにして、あやねは磯村のマンションを訪ねることとなった。

 磯村の家まではタクシーを使っても良いという編集長からありがたいお言葉とタクシーチケットを貰い、あやねは会社の前でタクシーを捕まえて、磯村の家へと向かった。


 タクシーに揺られること四〇分。

 磯村の住む足立区のマンションへと、あやねはやってきた。

 マンションは駅からすぐ近いところにあり、ワンルームだがオシャレな作りのマンションだった。


 磯村の部屋は三階の三〇九号室だった。あやねは三〇九号室の前まで行き、インターホンのボタンを押した。

 一度目の反応は無かった。

 しかたなく、二度目を押す。やはり反応はない。

 どうしようか。そう思いながら、スマートフォンを取り出すと、磯村に電話を掛けてみた。


 じっと耳を澄ませていると、部屋の中からかすかに着信音が聞こえてくる。

 やはり、磯村は部屋の中にいるのだ。

 しかし、なんどインターホンを鳴らしても、磯村は出てこない。


 まさか、死んじゃっているんじゃ……。

 そんな不安に駆られたあやねは、急いで編集長に連絡を入れると、警察と救急にも連絡を入れる騒ぎとなったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る