麻雀

 今日は主催者リリィ、詩子、ソレイユ、そして私による麻雀ゲーム配信。


「この中で麻雀の経験がないのはメテオだけ?」


 リリィさんが他の2人に聞く。


「ですね。私は学生時代に少々嗜みました」


 と詩子が言う。


 なんか発言が怖いな。賭け麻雀とかしてた?


「私は一応やったことはありますが、ほぼ初心者です。点数計算とかは無理です」

「大丈夫。点数計算は勝手にやってくれるから。それじゃあ、お二人は麻雀経験あるということだね」

「あのう、初心者の私が出て良かったのですか?」


 私はおずおずと聞く。まさか未経験者が私だけとは思っていなかった。意外と皆、麻雀とかするんだ。麻雀って、おっさんがタバコ吸いながらやるイメージなんだけど。


「問題ないよ。私も久々だからさ、色々忘れちゃってるかもしれないからね。教えたりすると思い出せそうなの」

「そうですか


  ◯


「分かりやすく説明すると麻雀は牌を取って、同じ牌もしくは三連繋がりの牌を四つ作って、二つの同じ牌を作るの。簡単でしょ?」

「同じ牌と連続の牌ですね」

「そうそう。ロンとかツモで上がりだから」

「ロンとツモとは?」

「ロンは相手の捨て牌であがること。ツモは自分であがること」


 話から普通にあがるという単語が使われてるけど、これは終わりということなのだろう。


「あと相手の捨てた牌を取る『ポン』と『チー』があるから。ポンができそうな時は『鳴きますか?』と出るから」

「鳴く?」

「ポン、チーするのかってこと」

「あとカンもありますから」


 詩子が割って入る。


「カンは同じ牌を四つにすること。まあ、初心者は鳴かない方が良いですよ」

「なんで?」

「役が減りますからね」

「役?」

「うーん、なんて言うんだろ」

「必殺技みたいな感じ」


 詩子が答えに困ってるとリリィさんが代わりに答えた。


「必殺技って。ええー」

「いや、だってそんなものでしょ?」

「それでその役とは一体なんです?」

「リーチ、タンヤオ、平和ピンフ一盃口イーペーコー、一色、混一色ホンイツ三暗刻サンアンコウ海底ハイテイとかあるよ」


 知らない単語がたくさん現れた。


「初心者はリーチでいいでしょう」

「なにさ、それ」


 なんか馬鹿にされてない?


「いやいや、リーチしとけばツモや一発。それにタンヤオと平和ピンフになってるかもしれないということです」

「ちなみに強いのは役満だよ。国士無双とか緑一色とかだよ」

「役満は覚えなくて結構ですね」

「なんでよ!」

「役満は滅多じゃない限り、出来ませんよ」

「そうなの?」

「そうだよ。狙ってあがるのも難しい」

「一応、画面右上端にヘルプがあるので、そこで役一覧がありますから、気になったら確認してください」

「これね」


 私はヘルプから役一覧をクリック。

 するとずらりと役が並ぶ。


「うわ、こんなにあるんだ」

「上にあるリーチとタンヤオ、平和ピンフが基本だよ」

「ふーん。ソレイユはどれがおすすめ?」


 先程から黙っているソレイユに聞く。


「うーん。私も実質初心者だからなー。基本は鳴かずにリーチ狙い。意識してるのは一色とタンヤオかな。あと鳴くときは三元牌狙いと混一色かな」

「なるほど」

「それと赤ドラは気をつけてね」

「赤ドラ?」

「赤の五牌。点数が上がると思って」

「分かった」

「それじゃあ、初心者の説明は終わりにして始めよう」

「「「おー!」」」


  ◯


 むう。なかなかあがれない。


 同じ牌を揃えるのが難しいし、連番狙いも難しい。


 それなのに皆は上手くあがっている。


 なんでよ? 運が悪いって言いたいの?


 そしてなぜかチーとポンしますかという表示が多い。


 すんごい勧められるんですけど。


 初心者は鳴かない方がいいというけどさ。


(…………)


 私だけあがれてない。

 悔しい。

 そのせいか、私は鳴いた。


「チー」


 左のソレイユが捨てた牌を拾う。


「鳴くの?」


 ソレイユが驚く。


「だって、全然揃わないし」

「役を作るようにね」

「うん」


 その後、私はポンを二回、チーを一回した。


 手元には牌が一つ。

 あと一つ揃えたら勝ち。


 そしてとうとう私は同じ牌を揃えたのだが──。


「ツモできない。なんで? 同じ牌だよ」

「いや、だから役がないと駄目なんだから。場風でも自風でもない字牌でポンしちゃってるし」


 リリィさんが溜め息交じりに言う。


「竹と筒でチーしましたしね」


 詩子も追撃してくる。


  ◯


「ロン。トイトイ、タンヤオです」


 ソレイユが詩子の捨て牌であがった。


 画面に倍満と出て、点数が24000。


「赤ドラとミンカンでドラ5かよ。親番で倍満かよ」

「リリィさんが設定で食いタンありにしたからー」

「何よー。私のせいだって言いたの?」

「2人とも喧嘩は駄目ですよー」


  ◯


「あれ? 『九種九牌しますか?』って出たんですけど。これって、なんですか?」

「それ1・9牌と字牌が九種類あると流せるんだよ。つまりやり直し。でも国士無双狙いのチャンスだよ」


 リリィさんが教えてくれた。


「国士無双って、役満ですよね」

「そうそう。メテオ、最下位なんだから狙っちゃいなよ」

「分かりました。一発逆転狙います」


  ◯


「あのう。字牌少なくない?」


 字牌が全然捨てられていない。最初の方は多かったのに。


「だって国士狙いでしょ?」


 詩子が意地悪そうに言う。


「ち……」


 違うとは言えなかった。最初に国士無双狙うと言ったから。


「それにリーチしてるではありませんか」

「だってリーチしないと……」

「メテオ、役がある時はわざわざリーチしないよ」


 ソレイユが教えてくれた。


「えー!?」


 なるほど、そうか。リーチしているから字牌狙いだってバレているんだ。それで皆は振り込まないように字牌を捨てないんだ。


「あー、これはもう終わりそう。私が親だから次はソレイユか。メテオ、早く取って」


 リリィさんがかす。


「うぅ」


 言われて、私は最後に牌を引く。


 最後の牌は──。


 中。


「あっ!? ああ!? ツ、ツモだ! やった!」


 画面に『ツモ』しますかの表示が出る。


「嘘!」

「本当ですか?」

「初あがりが役満って、すごいよ!」

「ありがとう」


 コメントにもすごい数のお祝いコメントが。さらに赤スパも。


「ま、まあ、今なら少し点差が縮まる程度かな。抜かれても次で巻き返してやるよ」


 リリィさんが悔し紛れの言葉を発する。


 私はツモを押す。


 すると役満国士無双と表示され、点数が──。


「ん? 64000? 役満って、こんなに高いの?」

「いやいや、そんなわけは……子だったら32000のはず……はあ? ダブル役満!?」

「本当だ。ダブル役満って書いてる」

「ま、待って、それって、つまり──」

「リリィ先輩、マイナスになりましたね。終わりでーす」


 詩子が終わりを告げる。


「やったー! 大逆転!」


 コメント欄も「おめでとう」や「久々にダブル役満見た」と書き込まれる。

 しかもまた赤スパが大量に流れた。


  ◯


 配信後、ソレイユから連絡があった。


「もしもし」

『もしもし、どうだった? 今日の配信は気晴らしになった?』

「えっ!?」

『ほら、ここ最近、元気なかったからさ』

「……元気なかった」


 ここ最近は鬱だったり、歌の件で落ち込み気味だったけど。

 バレてたのかな?


 私は自身の顔を触る。


『うん。リリィさんとか心配してたよ』

「リリィさんが?」


 正直意外。あの人が他人ひとのことを気にするなんて。


『そうだよ。今日のコラボ配信も急遽リリィさんが組んだんだよ』

「そうだったんですか。今度、お礼を言っておかなくては駄目ですね」

『どうだろう。あの人、恥ずかしがり屋だからね』


 お礼でなくて行動で表すべきかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る