収録と打ち上げ

 今日はリリィさんの生誕ライブの収録のためスタジオに来ていた。


 生誕ライブは歌以外にもミニコーナーがあり、今日の収録はそのミニコーナー。内容はクイズ。


 MCは後輩の有流間ヒスイで、解答者はリリィさん、トビさん、詩子、そして私の4人。


「初のMCで緊張しておりますが、よろしくお願いします」


 収録が始まり、ヒスイが挨拶する。


「楽にしていーよー。いえーい!」


 トビさんがVサインしてはしゃぐ。

 そして私も手を振り上げたりしてはしゃぐ。


「こらー! 2人とも後輩を困らせなーい」

 詩子がツッコミを入れる。

「「はーい」」


 これは台本にはなかったけど予測可能なテンプレだ。


  ◯


 打ち上げは個室のある焼肉店。

 それは前から決まっていたので、今日は匂いがついても問題ない服を着ていた。


「さあ、どんどん焼きますよー」


 後輩のヒスイがトングで肉を焼いていく。

 脂が落ち、網の下の火が音を立てて強く燃える。


「わー、おいしそー」


 トビさんが肉の匂いを嗅いで言う。


 そして生ビールのジョッキが4本運ばれ、私達は各々ジョッキを持つ。


「えー、本日は……」

「リリィさん、肉が焦げるんで音頭は早めに」


 トビさんが急かせる。


「そうだね。今日は私の生誕ライブにご協力ありがとうございます。お疲れー。かんぱーい」


『かんぱーい』


 私達は生ビールのジョッキで乾杯する。


「というかまだ配信されてないのに打ち上げっておかしくないですか?」


 ヒスイが疑問を呈する。


 そう。生誕ライブは収録はしたが、まだ配信されていないのだ。


  ◯


「さあ、どんどん食べてください」


 ヒスイが焼けた肉をどんどん私達の皿に載せてくる。


「またカルビ。ロースが食べたーい」

「はい、どうぞ」


 トビさんの皿にヒスイがロースを入れる。


「じゃあ、カルビを返すね」

「駄目です。リリースはNGですよ」

「ええー! 入れたのはヒスイじゃん」

「カルビ食べたいと言ったのはトビ先輩です」

「ぶー」


 トビさんが不服そうに唇を尖らす。


「責任もって食べてください」


 ヒスイはトングをカチカチ鳴らして微笑む。


「肉奉行め」


  ◯


「どうやったらチャンネル登録伸びるんですかねー」


 ヒスイが顔を赤くして、誰ともなしに言う。頭は少しふらつき、肉を食べるかと箸を持ったら、先を舐めて少しフリーズ、そして箸を置く。


 ビール3杯目。

 完全に酔っ払ってるな。


「ちょっと飲み過ぎじゃない?」


 詩子がヒスイを心配する。

 心配された本人は「平気ですぅ」と平気でない声を出す。


「1人で帰るの?」

「平気ですぅ」

「それより、リリィさん、教えて下さーい。どうしたチャンネル登録伸びますかー」


 リリィさんは1期生でチャンネル登録もミリオン超え。

 私もご享受願いたい。


「知らないわー」


 リリィさんは投げやりに返す。そしてジョッキを掲げて口へビールを流す。


 グイグイ。


 半分くらい減らして、ジョッキの底をテーブルに叩くように置く。

 何か言うのかと身構えていたが。


「知らないわー」


 同じことをもう一度言った。


「どんどんどんどんVtuberが増えて、もう飽和状態です。チャンネル登録伸びませーん」

「日本の人口もどんどん減ってるからねー」


 トビさんがそう言って、肉を食う。


「詩子先輩、ばんばん子供産んで、ばんばんチャンネル登録してください」

「なんでよ。どんだけ産めって言うのよ。というか、その頃はもうあんたVtuberやってないでしょ?」

「えー……やって……やってないかな?」


 ヒスイは頬杖をつき、目を細める。

 どこか遠い未来を見ているのだろうか。


「やってないなら、私は何をやっているのだろう?」

「知らないわー」


 またリリィさんが言った。


「とりあえず、今を見よう」


 私はヒスイに言う。


「今……チャンネル登録ぅ〜」

「そこじゃなくて、肉食べよう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る