第7話

春樹はレイリアに着いた。やっぱりボスの魔法はすごいな。そんな風に考えながら中に入って行こうとする。だが、春樹も気づいた。自分が裸足だということを。それに気づいた春樹は、どうしようとしばらく考えていた。すると、春樹の目の前から自分の靴が出てきた。春樹は一瞬驚いた表情をしたが、瞬時に燈彗が送ってくれたのだと理解し出てきた靴を履いた。


「....もっと早く気づいてくれよ〜」


と、小さく呟き終えた。そして、春樹は意識を切り替え真剣な表情で堂々とレイリアのドアを開け中に入って行った。春樹の両親は俗に言う毒親だ。親の操り人形のように扱われ、春樹のやりたいこともまともにさせなかった。そのため春樹は高校に上がり、我慢していた物が爆発した反動で見事にグレた。そんな時両親が交通事故で亡くなった。それを機に春樹は、苗字を捨てた。その時春樹は18歳の6月だった。まだ、学校に行かないといけない時期だったのだ。だが、当時の春樹にはお金がなく学校を辞めようとした時に10歳の燈彗と零夜と出会いその時不安定だった亜挫魅で保護され、お金の工面をしてもらい何とか学校に行けていた春樹。しかしグレていた春樹は毎日喧嘩に明け暮れていた。それでも燈彗も零夜も頭ごなしに叱らず春樹の怪我の手当をしてくれていた。ずっと燈彗達は、春樹の心配してくれていた。春樹が犯罪に手を染めようとしたら真剣に止め、良いことをしたらこれでもかと言うほどに褒めてくれていた燈彗と零夜。春樹が喧嘩を売った時は燈彗が真摯に相手になってくれていた。もはや燈彗と零夜は春樹にとって親のような存在だった。それには年下も年上も関係なかった。燈彗と零夜の人柄に感銘を受けた春樹は今までとは別人のように勉強を頑張るようになり、亜挫魅の仕事を手伝うようになった。燈彗と零夜は春樹にどの道に進むかを選ばせた結果、春樹は亜挫魅と言う組織に入ることを選んだのだ。春樹は今まで燈彗と零夜にしてもらった恩を返すために燈彗達、亜挫魅という組織に忠義を尽くしている。他の皆もそんな感じだろう。そして春樹は心の中で思いの丈をつぶやく。


(時々、両親のことを思い出して眠れない夜があるがその時は燈彗さんがくれたネックレスをつけたら信じられないくらいよく眠れる。次の日燈彗さんは絶対に俺の僅かな違いにも気づいてくれ、休みをくれたり一緒にゲームに付き合ってくれたりする。俺は、そんな優しい組織の為になら死んだっていい)


と、考えるくらい春樹は亜挫魅が好きなのだ。そして、春樹が少しだけ過去に浸っていると大暴れしている酔っ払いを発見した。春樹は殺意に満ちた状態で店員を殴ろうとする酔っ払いの腕を掴んだ。そして元ヤンである春樹のドスの聞いた声が店内に響き渡る。


「おい、てめぇよくも俺らのシマで好き勝手にしてくれたな。こんなに店をめちゃくちゃにして許されると思ってんのか。あぁ?」


「なっ、なんだよ!ちょっと遊んでただけじゃねぇかよ!それに俺に指図するんじゃねぇよ。俺らあの楼威啊の幹部だぞぉ?それにA級だぞぉ」


と、酔っ払いは春樹の殺気に気圧されながら負けじとイキる。その後ろでそうだそうだァー!と合いの手を送るだけの取り巻きまでいる始末。無論、その取り巻きは今春樹が手を掴んでいる酔っぱらいの取り巻きだろう。春樹はイキってる酔っ払いを掴んでいる腕を握力だけでへし折った。無論、能力も魔法も使っていない素の力だけを使った。使う程の相手ではないと、春樹は判断したのだ。骨を折った酔っ払いは、先程までイキリ喚いていたのに今は腕を抱えて床に転がり回っている。春樹はそれを見て滑稽なものだと冷たい視線を送る。


「ああああああああぁぁぁあああああああ!!

き、貴様っ!!何すんだよっ!!?」


「何って折ったんだよ。腕をな?そんなことも

分かんねぇの?」


「お前っ!!兄貴に何すんだよっ!?」


と言い、合いの手していた取り巻きの1人が能力を使おうとした。だが、そんな隙を春樹が許す訳もなく春樹はその前に取り巻きを能力を使い2人同時に首から下を凍らせ無力化した。それを見た他の取り巻き3人は外に逃げて行った。しかしそれも虚しく、春樹の能力で行動不能となった。これが春樹の能力の【氷を操る】なのだ。春樹は、ランクで表すとss-だ。階級のことは、また後ほど説明しよう。そして、春樹は室内で行動不能にした2人を担ぎ上げて店長に話しかけた。


「店長、終わりました」


「お、おぉ!春樹くん、君はこんなに強かったのか!また飲みに来てくれ。サービスするから」


「はい、そうさせてもらいます!...それより、店がこんなにめちゃくちゃに...すみません。もっと早く来れば...」


春樹は心の底から謝った。亜挫魅共々この飲み屋にはよくお世話になっている。そのため、春樹はもっと早く助けることができなく申し訳なし悔しいのだ。すると、店長はそっと春樹の肩に手を置きかすり傷を負いながらも優しく微笑んだ。


「なに、これくらいで済んだのは春樹くんと指揮をとってくれた君のボスだ。本当に感謝しているよ」


「.....そう言って頂き嬉しいっす!あ、俺は魔法で直せる程..魔法を扱えなくて。...なので、ボスが怪我も含めて直しに来ますので申し訳ないですがそれまでこの状態で待っててください」


「あぁ、わかった。それにしても敬語上手くなったね」


「ほんとですか!?俺、頑張って練習したんすよ!」


店長は嬉しそうに肯定してくれた。何故なら、レイリアの店長も春樹がグレていた過去を知っているためである。春樹は上機嫌で店長に挨拶をして2人を担いで店の外に出た。無論、外で凍っている3人も含めてである。

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