理由

「理由を聞かせてもらおうか?」


 客間にアレックスを引っ張り込んだ俺は、まず尋ねた。


「パーティーに招待されたので、正装して出席しただけですが」


 アレックスは、わざとらしく目をそらす。

 俺は女を壁際まで追い込んで、その両側を腕でふさいだ。

 やらしい意味ではない。

 このアホを逃がさないためだ。


「だけ、じゃないだろ。お前がドレスアップして現れたらああなるって、わかっていたはずだ。同僚の婚活を邪魔して楽しいか?」

「えー……とぉ……」


 貧弱な王相手だ。アレックスが本気を出せば俺の腕なんか、すぐに振りほどけるだろう。

 しかし、彼女はそこから動こうとはしなかった。

 力量差がありすぎて、下手なことしたら俺に怪我をさせてしまう、とか思ってるんだろう。好都合だから、つけこませてもらうが。


「言え。白状しなければ、ホールに引き返してお前との婚約を発表するぞ」

「それは嫌です」

「……だったら吐け」


 アレックスの緑の瞳をのぞき込む。

 う、と一瞬息を詰まらせたあと、彼女はゆっくりと頬を赤く染めた。


「今日のパーティーの目的って、お見合い、じゃないですか」


 よかった、そこはちゃんと理解してたんだな。


「それで……事前に探ってたら、陛下狙いの貴族令嬢も何人かいらっしゃって……」

「俺?」


 そういえば、アレックスを王妃に、という話は俺が決めただけのことだった。

 当然ジオネル伯をはじめとした地方貴族は知らない。

 この機会に地方から王妃候補を送り込んできてても、おかしくないんだった。

 アレックスに振り回されすぎて、完全に忘れていた。


「陛下は王様ですから……そういうお話があるのはわかってたんです。わかってたんですけど……ご令嬢たちが、そういう目的で、あなたに触れるのかと思ったら……いてもたってもいられなくなって」

「それでいっそ全員自分の虜にしようとしたのか」


 こくり、とアレックスはうなずいた。

 その顔は耳まで真っ赤だ。


「アホだろお前」


 言ったら、アレックスは珊瑚色の唇を、むうっととがらせた。


「だ……だって、なんか嫌だったんです! 嫌だったんだからしょうがないでしょう!」

「いくら嫉妬したからって、手段がおかしい」

「嫉妬って……!」

「違うのか?」

「ち、ちがいません、けどぉ……」


 膨れた頬に手をそえる。

 なめらかな肌をなぞって、唇に触れた。


「俺を独占したいなら、すればいい。一言、王妃になると言えば、お前以外誰も俺に触れなくなる」


 ふる、とアレックスは金髪の頭を横に振る。


「嫌です。私は……陛下を独占したいんじゃなくて、私が陛下に……」

「俺に、なんだ?」

「これ以上は教えません」


 だから、何がどうしてこのタイミングで拗ねられるんだ。

 意味がわからない。


「おい……んっ」


 追及しようと顔を寄せたら、唇をふさがれた。

 甘い柔らかさに一瞬思考が途切れる。

 抵抗しようにも、体にアレックスの腕が巻き付いていて、逃げられなかった。さっきとは逆の構図だ。決定的に違うのは、体力面で俺が絶対にアレックスに勝てない、ということだ。

 吐息をキスで貪られ、強制的に思考が溶かされていく。

 求められるまま、その夜も俺はアレックスに溺れた。


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今日は2話更新です!

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