模写コンクール

森林木 桜樹

1「模写」

「上手くいかない。」


私立七夕たなばた中学校には、代々伝えられている行事がある。

七月七日、七夕に、学校の敷地内に植えられている竹林がある。

竹林の自分が決めた竹の一房に、両手で覆い、願いを込めると叶う。

竹林には、ご神体もあって、とても神聖な場所だ。


その中学に通う一年生の少女が、その行事に参加していた。

周りを見ると、とても多くの生徒が、自分の決めた竹を決めて、儀式をしている。

少女もしている。

願い事は、一つだけ。


『私は、不破芽衣ふわめいといいます。私立七夕中学一年生です。美術部に入っていまして、今度のコンクールで、優勝まではいかなくても、入賞まで取りたいです。よろしくお願いします。』


不破は、手を竹から離した。




夏休みになった。




コンクールは、夏休み中に仕上げるものであった。

自宅にある自分の部屋で、美術部の顧問によって配られた、木枠に紙が張られているキャンパスを目の前にしている。

キャンパスは、少し大きく、中学生が登下校の道を持って帰るのは、大変であった。

学校で使用していいとしている軽トラックがあり、それに乗せて、各美術部員の家まで美術部顧問と、美術部部長が配った。


コンクールの名前は『模写コンクール』。

過去に作成された絵画の中から、自分が模写出来そうな絵を選んで描く。

自分が書く絵画は決定していて、書類も書いて顧問に提出完了しているから、変更は出来ない。


そもそも、美術部には入る予定はなかった。

本当なら、帰宅部にしたかったのだが、この学校では部活は必須。

運動系は、苦手だから入らない。

文科系は、吹奏楽と科学部と美術部だけだった。

吹奏楽は、楽器を自分で買わないといけなく、お金がかかる。

科学部は、実験材料を購入しなければならないから、お金がかかる。

消去法で、美術部しかなかったのである。


美術部もお金がかかるかな?って思ったが、そうではなく、今まで授業で使ってきた画材を使用しても良かった。

美術は、詳しくなく、絵画で唯一知っているのは、誰が作成したのか分からないが、「ひまわり」位しか知らなかった。

よく、美術の教科書の表紙になっていたり、理科の教科書でもひまわりを育てる授業でも、載っていたりしたので、記憶にある。


美術部に入ってからは、壁に色々と絵が飾られているから「叫び」や「モナ・リザ」は、そういえば見たことがある程度だ。

誰の作品か、どんな画材を使っているか、どの時代に作られたのか等、知らない。

本当に美術は初心者といっていいほどの、素人だ。


美術部の普段の活動は、美術史の本を見たり、風景画を描いたり、漫画を読んだり、描いたりする人がいた。

不破は、美術室にある漫画を読んでいた。

漫画を読んでいるだけではと思い、適当に、漫画のキャラクターの顔を見ながら、適当な紙に書いて遊んでいた。

それを、漫画を描いている部員が見る。


「右利きの人って、顔が左向き描きやすいのよね。」


その一言を貰った。

確かに、今描いた絵は、左向きが多く、描きやすかった。


そんな部活だから「結構ゆるいのでは?」と思っていたけど、七月になってから、コンクールの宿題が出され、困っていたのである。

コンクールの題材を決める為に、絵画一覧を見ていると、目に留まったのは『真珠の耳飾りの少女』だった。


バックが黒色、バストアップ、顔が左向き、一人であるし、植物とかもない。

一発でその題材に決めたのだ。


しかし、真珠の耳飾りの少女は、奥が深かった。

まずは、肌の質感。

まるで、ここに居るかのような熱が伝わってくる。

頭に巻かれたターバンは、風が吹けば、やさしく揺れるようなやわらかさ。

耳飾りの真珠は、光沢が出ていて、大切に扱われている感じがする。

それに、美人で、瞳がこちらを向いて、唇も艶やかで、引き寄せられる。

これらを、表現して、描くのか。


模写コンクールには、一つだけ救いがあり、どんな画材を使っても良いとなっていた。

不破は、小さい頃に使っていた絵具と色鉛筆とクレヨンを選択していた。

理由は、自分の家にあったからだ。

なるべく、お金を使いたくなかった。

中学生になってから、お小遣いは増えたが、それでも将来の為に、大切に貯めておきたかった。


将来の夢は、災害派遣チーム内の栄養・食生活を支援する人になりたかった。

本来なら、調理部があったら入りたかったのだが、この学校はなかったから、帰宅部でと思っていた所に、部活は必須と聞かされたからだ。


キャンパスに向かって、隣に題材を置いているが、どの位置から描き始めたらいいのか、わからなかった。

鉛筆を持って少し描いて見るが、違う気がする。


それで困ってしまった。


「どうやって描けばいいの?」


すると、いきなり窓から二つの光が、飛び込んで来た。

窓は締まっていたが、無視して、通り抜けて来たが正しい。

不破は、眩しくて目を細め、ゆっくりと開くと、そこには黒色の光と、白色の光があった。

大きさは、手のひらに乗る位である。

少し怖くなったが、こんな事で逃げてしまっては、人を助ける事など出来ないと思った不破は、少しずつゆっくり近づいた。


「もしもーし。」


話しかけると、黒色の光と白色の光から声が聞こえた。

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