第45話 紅茶

◇ルクスside◇

 客室の中に案内された僕は────その客室の豪華さに、思わず足を止めてしまっていた。

 全ての家具がとても質の良さそうな白色と、ところどころに黄金色の模様が入ったもので統一されていて、ソファやテーブルが置いてあり、今は火の付いていない暖炉の上にはとても高そうな絵画が飾られていて、下には白と黄金色で模様の入っているカーペットが敷かれている。

 フェリシアーナ様はソファに座ると、足を止めていた僕にフェリシアーナ様は言った。


「ルクスくん、そのソファに座ってくれるかしら」

「は、はい!」


 僕は、フェリシアーナ様に言われた通りに、フェリシアーナ様とテーブルを挟んで対面にあるソファに座った。

 そして、フェリシアーナ様はフェリシアーナ様の後ろに控えているバイオレットさんに言う。


「バイオレット、紅茶を用意して」

「かしこまりました、お嬢様!」


 そう返事をすると、バイオレットさんは客室の外へ出て行った。

 ────その後、一分も経っていない間にバイオレットさんが部屋に戻ってくると、円状のトレイに乗せている紅茶の入った二つのカップを僕とフェリシアーナ様の前に置いた。


「え……!?も、もう淹れて来たんですか!?」


 僕がそう驚いていると、バイオレットさんは明るい声で言った。


「はい!私、紅茶を淹れるのが得意なんです!」

「す、すごいですね……飲んでみても良いですか?」

「もちろんです!」


 そう言ってもらえた僕は、紅茶の入ったカップに口を付けて紅茶を喉に通した。

 ……甘いのにしっかりと濃さを残していて、とても技術を感じる。


「とても美味しいです!」


 カップをテーブルの上に置いてそう言うと、バイオレットさんは一度頭を下げて言った。


「ありがとうございます!」


 僕に続けて、フェリシアーナ様もカップに口を付けて言った。


「美味しいわね、見事よバイオレット」


 フェリシアーナ様がそう言いながらカップをテーブルの上に置くと、バイオレットさんはまたも一度頭を下げて言った。


「ありがとうございます、お嬢様!」

「本当にすごいです、こんなに美味しい紅茶、シアナやフローレンスさんの紅茶ぐらいでしか飲んだことがありません!」


 僕がそう言うと、フェリシアーナ様とバイオレットさんは目を見開いて一瞬固まってしまった────かと思えば、フェリシアーナ様はすぐに口を開いて言った。


「ル、ルクスくん、フローレンスさんの紅茶を飲んだことがあったのかしら?」

「え?はい、ロッドエル伯爵家の屋敷にお招きした時に、飲ませていただきました」

「そ……そう」


 フェリシアーナ様の様子がおかしい……どうしたんだろう?

 そう思っていると、今度はバイオレットさんが言った。


「ロ、ロッドエル様!私の淹れた紅茶は、シアナさんやフローレンス様が淹れたものと同等……ということでしょうか?」

「はい、シアナやフローレンスさんの紅茶も本当に美味しいんですけど、バイオレットさんの紅茶もそれと同じぐらい────」


 僕がそう言いかけると、バイオレットさんは僕とフェリシアーナ様の前に置いてあった紅茶を手に持っていた円状のトレイに乗せて言った。


「すみません!もう一度淹れ直して来ます!」

「え……!?」


 そう言うと、バイオレットさんは僕たちに頭を下げて客室を後にした。

 そんなバイオレットさんのことを見て、僕はフェリシアーナ様に聞く。


「バ、バイオレットさん、どうしたんでしょうか?」

「あの子、案外負けず嫌いなのよ……紅茶の味で自分の仕えている主人と同等と言われたら、あの子は相当火が付きそうね」


 フェリシアーナ様は僕に聞こえない声で何かを呟いていたけど、とにかくバイオレットさんは負けず嫌いということらしい。

 僕は、ふと思ったことを口にする。


「フェリシアーナ様も、紅茶を淹れられることはあるんですか?」

「えぇ、あるわ」

「そうなんですね!いつか、フェリシアーナ様の淹れて下さった紅茶も飲んでみたいです!」


 僕がそう言うと、フェリシアーナ様は驚いたような表情をしてから、少しの間沈黙してしまった。

 ────僕はその瞬間、とても失礼なことを言ってしまったことに気づき、慌てて謝罪する。


「す、すみません!僕なんかにフェリシアーナ様が紅茶を淹れて下さることを求めるなんて失礼でした!」

「そんなことは思っていないわ……ただ、それができる時には────きっと、私とルクスくんの関係は、今よりももっと深いものになっているのでしょうね」


 そのフェリシアーナ様の言葉の意味はわからなかったけど、その言葉にとても強い想いが込められていることだけは伝わってきた。

 フェリシアーナ様の紅茶を飲ませていただけるとき……そのときには、フェリシアーナ様の言う通り、僕とフェリシアーナ様の関係は深いものになっているんだろうか。

 その後、紅茶を持ったバイオレットさんが客室に戻ってくると、僕とフェリシアーナ様はその紅茶を飲みながら楽しく過ごした。

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