第43話 重要事項

◇バイオレットside◇

 シアナがルクスのことを王城に招く前日の夜。

 バイオレットは、シアナの自室でシアナと一緒に計画の見返しを行なっていた。


「────以上が、今回ルクスくんのことを王城に招く計画の全てよ……疑問点や改善点はあるかしら?」


 そう聞かれたバイオレットは、落ち着いた声音で答える。


「ありません……今回の計画で重要となってくるのは、やはりお嬢様とロッドエル様が客室で紅茶やお菓子を楽しみながら雑談をなさって客室から出た後、ですね」

「そうね、そこからがとても重要よ」


 今までは、言葉を交わすことで関係性を深めてきたルクスとシアナだったが、今回の計画はそれだけに止まらない。

 言葉を交わす────以上の関係性へと進展させる、それが今回の計画の目的。

 シアナは「だけれど」と続けて言った。


「その前にもう一つ、あなたがルクスくんからお洋服の好みを聞き出すこともとても重要よ」

「はい、承知しております」

「それならいいわ、私は念の為にルクスくんの様子を見てくるわ」

「そうですか……私も、念の為ロッドエル様の前日の心理状態を理解しておいた方が良いと思いますので、会話を聞かせていただきます」

「そうね、それが良いと思うわ」


 その後、シアナはルクスの部屋へと入り、ルクスと話し始めた。



◇ルクスside◇ 

 僕が自室で勉強をしているとシアナが僕と少し話をしたいということだったので、シアナのことを部屋に招いた。

 すると、シアナが僕に話しかけてくる。


「ご主人様、お勉強の最中に申し訳ありません」

「ううん、気にしなくていいよ……シアナが話したいことっていうのは何かな?」

「はい、ご主人様は、明日フェリシアーナ様のお誘いで王城に行かれるのですよね?」

「うん、そうだね」

「その……お気持ちなどは、大丈夫でしょうか?」


 気持ち……あぁ。

 どうやら、シアナは僕のことを心配してくれているみたいだ。


「確かに、王城に行くっていうことにはとても緊張するけど……会いに行く人があの優しいフェリシアーナ様だって思うと、緊張感も少し薄れてくるんだ」

「っ……!や、優しい、ですか?」

「うん!フェリシアーナ様は本当に優しい人だよ!」

「そ、そうなのですね……」


 シアナは、何故か頬を赤く染めていた……そうだ。


「そういえば、明日はバイオレットさ────じゃなくて、えっと……フェリシアーナ様の侍女の人も居るらしいんだけど、その人とももう少し話してみたいんだ」

「侍女の方、ですか……どうしてお話してみたいんですか?」

「その人も、僕がフェリシアーナ様と気兼ねなく過ごせるように優しい言葉をかけてくれたりして、とても優しい人なんだ……だから、その人とも話してみたいんだ」

「なるほど……明日はその方も居らっしゃるのでしたら、きっとお話できると思いますよ」

「うん、楽しみだね」


 その後、僕はシアナと雑談をして過ごした……明日王城に行くっていうことで少し緊張していたけど、シアナと話していると不思議と緊張も解けて、僕は今、ただただ明日が楽しみになっていた。



◇バイオレットside◇

 ルクスとシアナが雑談に入ったタイミングで、バイオレットはシアナの自室に戻っていた。

 そして、さっきのルクスの言葉を思い出す。


「その人も、僕がフェリシアーナ様と気兼ねなく過ごせるように優しい言葉をかけてくれたりして、とても優しい人なんだ……だから、その人とも話してみたいんだ」


 バイオレットはその言葉を思い出して、小さく呟く。


「ロッドエル様……私は優しいのではありません、任務でそうしただけなのです」


 ────バイオレットは、人生でルクスを含めた二人以外の人物に優しいと言われたことがない。

 そして、自分が今まで行なってきたことを考えても、自分のことを優しい人間だとは思えないし、そう思ってはいけない。


「私は、あなたと話したくありません、ロッドエル様……本当の私がロッドエル様に露見すれば、きっとロッドエル様は私のことをお嫌いになります……ですが、任務ですので、私はロッドエル様とお話させていただかなければなりません……」


 バイオレットは珍しく気分を落ち込ませていたが、自分に任務だと言い聞かせて、明日も第三王女フェリシアーナの侍女、バイオレットとして偽りの姿でルクスと接することを決めた。

 そして翌日────この日が、バイオレットにとって生の分岐点となる。

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