第18話 処罰

 シアナたちが向かった場所は、ザーデン侯爵家の屋敷。

 近くまでは馬車で移動すると、あとは自分の足でその屋敷へと向かい、黒のフードを被った少女の先導でザーデン侯爵家の屋敷に潜入し、処罰対象────ザルド・ザーデン侯爵の居る部屋にゆっくりとドアを開けて入った。

 するとそこには、机と向き合って椅子に座っているザルドの姿があったが、ザルドは怒った様子で足を振動させて頭を抱えていた。


「あいつ!伯爵家の分際で、初日から俺に楯突きやがって……あんな弱気なやつが伯爵家なんて、この国はやっぱりもう終わりだな……さっさと別の国を探して、この国の内部情報を交換条件にして侯爵なんて地位じゃなく公爵……取引の仕方によっては王族の関係者って方向に持っていくことだってできるかもな……へへ、そうなったらあの伯爵家のやつも終わりだ……そんなに待ってやらなくても、明日に適当に濡れ衣を着せてやれば────」

「私のことをこの短い間にここまで怒りの感情を抱かせたのは、あなたが初めてよ」


 シアナは、ザルドの背後からザルドに対してそう言葉を送った。


「っ!?女……?誰────」


 驚いたザルドはその声の方向に振り返ろうとしたが、その行動をシアナの次の言葉が止めた。


「振り向かないことをお勧めするわ、振り向いたらあなた────死ぬから」

「し、死ぬ……だと!?お前!この俺を誰だと思ってるんだ!」

「愚か者……いいえ、愚か者でももっとマシだわ────あなたは、この世で一番してはいけない罪を犯したのだから」

「つ、罪だと……?……まさか、お前、あの交渉のことを知ってるのか?」


 その言葉を聞いて、シアナは一つため息をついた。


「あなたが本国の情報の一部を他国に売ることを条件に、その国の公爵の爵位を得る取引を持ちかけたことは知っているわ」

「っ……!」


 それを聞いた瞬間に、ザルドの顔は一気に血の気を引いたが、シアナはそんなことなんて全く気にした様子もなく続ける。


「でもね、私にとってはそんなことどうでもいいの……あなた程度が持ってるような情報なんて大したことないでしょうし、そんな大したことのない情報であなた程度に公爵の地位を与える人間がいるとしたら、そんな愚かな国も対して脅威にはならないわ……あなたは、そんなことよりももっと大きな罪を犯したのよ」

「そ、それ以上の罪なんて、犯した覚え────」

「犯したわ」


 どうにか虚勢を張って反論しようとしたザルドだったが、シアナの強い口調と声音、そしてその声に込められた強い怒りに思わず身震いした。

 だが、シアナはまたもそんなことがどうでもいいように話を続ける。


「あなたは、私にとって一番大事な存在、私が生きている理由そのものを傷つけた、何の信念もなく、ただただその下らない意地だけで……そのせいで、私にとって一番大切な彼が、そんなことをする必要は全くないのに、自分を責めて、今までの努力が崩れたと錯覚し、自分の立場を疑っていた」

「な、何の話────」

「私にとっては彼が全て、彼のためなら喜んで国を差し出すし、彼が望むなら私の身も心も全ては彼に差し出す……あなたは、私にとってそれほど大切な存在を傷つけた────わからなくても結構よ、あなたのような愚か者に、この大きな愛情という気持ちが伝わるとは思ってもいないし、伝わってほしくもないもの……私はただ、あなたがどれだけ愚かなことをしてしまったのかを宣告しただけ」


 シアナの放つ言葉の圧力によって極度の緊張や恐怖、不安を抱えたザルドは冷静な判断能力を失いながら言った。


「はぁはぁ、誰だか知らねえが、女のくせに生意気なんだよ!」


 そう言って振り返ろうとしたザルドのことを、シアナはザルドの目がシアナのことを捉える前に剣で斬り伏せた。


「振り向いたら死ぬと忠告したのに、言葉も聞けない獣になってしまったのね……なんて、振り向かなかったとしてもルクスくんにあんな発言をした人間のことを見逃すはずなんてないけれど」


 そして、シアナはザルドの亡骸を無機質な目で見ながら言った。


「処理しておきなさい」

「かしこまりました、お嬢様」


 シアナがそう言うと、身を潜めていた黒のフードを被った少女がシアナの隣に姿を現してそう返事をし────黒のフードを被った少女がその処理を終えると、静かな夜の中二人は一緒にロッドエル伯爵家の屋敷へと帰り、屋敷に帰ったあとはフェリシアーナとしてこのロッドエル伯爵家の屋敷に行ってルクスと距離を縮める計画を少しだけ進めてから眠りについた。

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