第11話 お嬢様

◇シアナside◇

 過去にパーティーで一度会った時以来に第三王女フェリシアーナとしてルクスと話して独り言を呟いているシアナの元に、黒のフードを被った長身の少女が現れる。


「────自分にとって大事な日なのに自分のことじゃなくて私……シアナのことをここで一人になるまでずっと考えてくれてたなんて、ダメよルクスくん、そんなに優しくされたら私ルクスくんのこともっと大好きになっちゃうわ……」

「お嬢様、先ほどのロッドエル様との会話はご奮闘なされましたね」


 黒のフードを被った少女は、シアナに対してそう労いの言葉をかけた────が、シアナはそれが聞こえていないように独り言を続ける。


「ルクスくんは、言ってた通りちゃんと王族ってところだけじゃなくて他のところも見てくれた上で私に敬意を払って片膝をついたりもしてくれてたけど、私としてはやっぱりもっとルクスくんと親密な仲になりたいから、あんなに堅くなっちゃうルクスくんのことは今後どうするか考えないと……あと、私も少し緊張して堅く話しすぎたかもしれないから、もう少し私自身も柔らかい口調で話すことを意識したりしないといけないわよね」

「……お嬢様、先ほどのロッドエル様との会話はご奮闘なされましたね」


 黒のフードを被った少女は、再度シアナに対してそう労いの言葉をかけた────が、シアナはまたもそれが聞こえていないように独り言を続ける。


「今日ルクスくんと話したことで色々と改善点は見られたから、今後もたくさん第三王女フェリシアーナとしてルクスくんと関わっていく上で必要なことを早く考えないといけないわ……考えないといけない、けど────ルクスくんが、ルクスくんが私のことを綺麗って言っていたわ!はぁ、今も私の脳内ではルクスくんが私のことを綺麗って言ってくれているわ……どこを見て私のことを綺麗と思ってくれ────」


 シアナが独り言を続けていると、ふと目の前に居る少し怒った様子の黒のフードを被った少女がシアナの目に映った。


「あら、あなた居たの?」

「……ロッドエル様の言葉はずっと響いているご様子ですが、私からの労いの言葉は一切響いていないようですね」

「仕方ないじゃない、だってあのルクスくんが……そう!あのルクスくんが、私のことを綺麗って────」


 何度も同じことを繰り返して言おうとするシアナの言葉を、黒のフードを被った少女は少し怒っていたこともあって珍しく遮って言う。


「それはもうお嬢様の独り言でもお聞きしましたし、私もその会話を聞いていたので説明は不要です」

「そう……そうよね」


 シアナは一度心を落ち着けると、普段通り落ち着いた様子で黒のフードを被った少女と話し始めた。


「あなたから見て、今回の私とルクスくんの接触はどうだった?」

「かなり良かったと思われます、お嬢様が独り言でも仰っていたように改善点は見られましたが、緊張状態だったことも加味すれば満点とも言えるでしょう」

「私もそう思うわ……今回の一番大きな改善点を挙げるなら、やっぱりルクスくんに綺麗と言われたときね」

「そうですね、あの時はお嬢様の口角がやや不自然に上がっていました」


 黒のフードを被った少女にそう言われると、シアナは慌てた様子で自分の顔に軽く触れながら言った。


「やっぱり……!?ル、ルクスくんに変だと思われてないかしら……?」

「ロッドエル様は特に気づいていない様子だったので、その辺りは心配ないでしょう」


 シアナは少し安堵すると、自分の顔から手を離して言った。


「そう……そういうところがルクスくんの良いところだけど、心配なところでもあるわね……心配と言えば、まだルクスくんは入学祝いパーティーに参加してなかったから現段階では心配ないと思うけれど、ルクスくんに近づいてきた女は居た?」

「はい、一人だけですが居ました」

「え……!?」


 シアナとしては、あくまでもなんとなくの確認のために聞いたものだったが、黒のフードを被った少女の発言を聞いて素直に驚愕した……が、その驚愕は一瞬のもので、すぐに驚愕の感情から、問題点を見つけて冷静に対処する脳へとシフトさせて言う。


「その女の特徴は気になるけど、今こうしてる間にもルクスくんに近づこうとしてる女が居るかもしれないから、私はルクスくんの後を追って入学祝いパーティーに参加するわ……」

「……お嬢様が許されているのは挨拶だけでは?」

「入学祝いのパーティーに参加することなんて、サプライズとでも言えばなんとでも説明が付くわ」

「……承知しました、私は引き続き任務に当たります」

「えぇ、お願いね」



◇ルクスside◇

 入学祝いパーティーの会場に到着した僕は、辺りを見渡す。

 そこには、食べ物を嗜みながら会話をする人や、ダンスをする人、音楽を楽しんでいる人など、様々な人が居た。

 ……本当に、ここには貴族の人しか居ないんだということがわかる。

 でも、僕だって伯爵家の長男で、シアナの主人だ……情けない姿を見せるわけにはいかない。

 そう意気込んで料理がたくさん置いてある場所に足を運んだ僕は、とりあえずお皿を持って料理をお皿に乗せようとした────その時。


「まぁ、ルクス・ロッドエル様、先ほどぶりですね」


 隣から僕の名前を呼ぶ聞き覚えのある声が聞こえてきたため、その声の方を向いてみると、そこにはさっき入学式の前に出会った青髪の少女が居た。


「あぁ、こんにちは……えっと、お名前をお聞きしても良いですか?」

「これは失礼しました……私は公爵家の────」

「ルクスくん、少しいいかしら?」


 青髪の少女が名乗ろうとした時、僕たちの後ろからまたも僕の名前を呼ぶ、またも聞き覚えのある声がしたので後ろを振り返ってみると────そこには、僕に微笑みかけてくれているフェリシアーナ様の姿があった。

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