第5話 チャンス

◇シアナside◇

 ルクスが貴族学校に入学するまであと五日。

 この五日の間に、できる限りルクスとの関係を進めたいと思って自室で色々と考えていたシアナの元へ、黒のフードを被った長身の少女がやって来た。


「────お嬢様、少しよろしいでしょうか」

「待って、あと五日でルクスくんと婚約はできないとしても、できる限り関係を進めるために今色々と考えてるから後にして」

「そうもいきません、お父君からの命です」

「……お父様から?」


 そう言われて一度耳を傾けようとしたシアナだったが、この国の王である父とルクスのことを天秤にかけた場合に、シアナの天秤ではルクスの方が断然重要度が高かったため、すぐに耳を傾けることをやめた────が、そのことをわかっていた黒のフードを被った少女が言った。


「どうやら、お嬢様にお願いしたいことがあるとのことでして、そのお願いの内容を聞いてみると、お嬢様にとっても悪くない内容でした」

「……私にとっても?」


 そう言われて、今度こそ黒のフードを被った少女の言うことに耳を傾けたシアナに、黒のフードを被った少女は続けて言う。


「はい、どうやら、近々ある貴族学校の入学式で、王族としての挨拶を任せたいと」

「私に?……意図がよくわからないけれど、貴族学校での挨拶なんて私にとって何も良い話じゃ────」

「話を詳しく聞くと、その貴族学校というのはロッドエル様が通う貴族学校だそうです」

「っ……!ルクスくんの通う、貴族学校……?」


 シアナは、思わぬ機会が巡ってきて頭をフルで回転させる。

 シアナがメイドとしてではなく、第三王女フェリシアーナとしてルクスの前に姿を見せられる機会は限られている。

 それが一度増えるというだけでもシアナにとっては好機だが、それに加えて挨拶……つまり、ルクスの前で第三王女フェリシアーナとして話すことができる。

 そこで第三王女フェリシアーナという存在を、貴族学校の入学式の日に記憶に留めてもらうことができ、さらにその後の立ち回り次第ではフェリシアーナとしてルクスと関わりを持つことができる可能性もある。


「…… 私にとって大きなチャンス、ね」

「その通りです」

「……その話受けるわ、あなたからお父様に伝えておいてくれる?」

「知っての通り、本人に直接動いていただく場合は────」

「直接その本人、今回の場合は私がお城まで出向かないといけない、ね……はぁ、本当に面倒な制度……それじゃあ、今から行きましょう」


 その後、二人で屋敷の外に出ると、ルクスの姿があったため、黒のフードを被った少女はすぐに姿を消した。

 そして、屋敷から出てきたシアナに気付いたルクスが、シアナに手を振って言う。


「シアナ、庭の手入れをしに来たの?」

「ご、ご主人様!はい、そうです!ご主人様は何をしてらしたのですか?」


 そう言いながらシアナはルクスの方に近づくと、ルクスは目の前にある様々な種類の花を見渡しながら言った。


「うん、勉強の休憩がてらに、シアナがいつも育ててくれてるこの花を見てたんだ……この花を見てると、シアナがいつも頑張ってくれてるから、僕ももっと頑張らないとって思えるからね」

「きょ、恐縮です!ご主人様がいつも努力なさっていることは私が誰よりも知っているので、ご主人様はもっとお休みになられても良いと思います!」

「気持ちは嬉しいけど、そういうわけにはいかないよ……伯爵家の長男として生まれたからには、それ相応のことをしないと」


 ────シアナは、ルクスのことを伯爵家で収めてしまうのは本当に勿体無いと考えていて、本当に心の底からルクスは王になるべきだと考えていた。

 ルクスと婚約したいという気持ちもそこには含まれているが、この純粋な志と優しさを持っている人を、シアナはルクス以外に見たことがなく、シアナはルクスのそういった部分が大好きだからだ。


「流石ご主人様です……!」

「そんなに褒められるようなことじゃないけど、ありがとう……シアナに褒められると、何だかやる気が出てくるんだ、もう一回部屋に戻って勉強頑張ってくるよ」

「はい、応援しています!」


 そう言って、シアナはルクスが屋敷に入るのを見届けた。

 ルクスが屋敷に入ったことにより、黒のフードを被った少女が再度シアナの前に姿を見せた。


「……貴族の方にしては珍しく、本当にお優しい方ですね、ロッドエル様は」

「えぇ、ルクスくんは貴族じゃなくて、王になるべき存在よ……そして、私が唯一婚約したいと思っている男の子……その二つを達成するためにも、貴族学校入学式での挨拶は、絶対に今後に繋げてみせるわ」

「そうですね……影ながら、私も支援させていただきます」


 シアナはよりルクスのことを愛おしく想い、黒のフードを被った少女はルクスの優しさを再認識したところで、二人は一緒に王の待つ王城へと向かった。

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