第9話 熊さんに~~~

「右手に漫画を、左手にコーラを!.......ってあれ?俺……ネットカフェにいる?」


 俺は異世界の森で場違いな格好をしながら歩いていることに気づく。


 今まで異世界転生漫画の主人公の中でこんな格好で冒険に出かけるものがいただろうか。いや、いるわけがない。誰が見る?そんな主人公の漫画。能天気すぎるだろう、この格好は。


「この格好で行くのは冒険じゃなくてネットカフェの個室ルーム。はぁ。何やってるんだろう?俺ってなんか、ダサいな~。恥ずかしくなってきた」


 高校もろくに行ってない。浪人生だった2年間も特に漫画読んでただけ。転生してもこの有様。


「なんかいいこと1個ぐらい起きんもんかなー。おっ、今週の『やったれ、船橋くん』はなかなか面白いな。ヤンキーに囲まれてるところから…ほうほう」


 コーラのおかげで元気になった俺。情けないとは思っていても何も始まらないと思い、サタデーを読みながらどんどん森の奥へと進んで行った。そして










「……ここどこ?」


 俺はしっかり迷子になっていた。


 やらかしてしまった。川を見つけるまでは良かったが家の帰り方が分からない。20歳になって迷子。ああ、ほんと恥ずかしいことばっか……?


 悶え、恥ずかしがる黄泉であったが、川の上流の方から音が聞こえてくるのに気がつく。



 パシャ…………パシャ……パシャ……。



 なんの音だろう。水を弾くような音が聞こえる。水の流れる音とは少し違う、水遊びでもしてるかのような音。

 俺は急いで音のなる川の上流へ行ってみることにした。そしてそこで見たものは異世界転生したんだな、と俺にちゃんと気づかせてくれる、この異世界で初めての動物と出会うことになった。


 茶色い丸みを帯びた耳が茶髪の頭に乗っかる。

 胸と腰には茶色い毛皮でできたような布が巻かれる。

 おしりには白い小さなポンポン。

 それ以外の部分は俺と変わらない肌色の皮膚。


 見たことあるようで実は無いような、その可愛らしい生き物を俺はこう表現しよう。




「擬人化クマクマ少女きたーーーーーーーーー!」




 異世界バンザーイ、神様バンザーイ!俺の目の前にいるのは川で魚を取っている、なんとも可愛らしいクマ耳の幼げな少女。所々に動物らしいパーツが付いてるのが見てわかる完全な擬人化クマさん。女の子クマさんって、ああ、ああ、ああああああああぁぁぁーーー!!!


 黄泉の喜びは最高潮へと到達。黄泉にびっくりするクマ少女を目の前にしてもおかまいなしにバンザイしながら大声で叫ぶ。


 黄泉は漫画をこよなく愛す。バトルもの、SF、ミステリー、コメディー、スポーツ、恋愛もの、歴史と全てのジャンルを愛する黄泉。基本、内容を重視して読む派と自分では思っているが可愛いキャラはやはり別腹。ストーリー性は関係なく可愛いキャラは大好きなのだ。


 黄泉は気持ち高ぶりながらクマ耳の少女に話しかける。


「お嬢さん(はぁはぁ)!名前は(はぁはぁ)なんて言うのかな?」


「だ、誰ですか?はぁはぁ言ってる。こ、怖いですー」


 こ、怖いですーだって、超可愛いこの子!……いや、怖がせたらダメだ。大人の対応、大人の対応っと。


「怖がらせてごめんね。俺の名前は伊集院黄泉。君の名前は?」


「い、いじゅ?えっと、私はミーナって言います。お兄ちゃんはヒューマン?」


「ヒューマン?ああ、ヒューマンね!そうそうヒューマンだよ」


 お兄ちゃん呼びキター。やっぱり可愛いなこの子!ヒューマンってこの世界でも人族であってるのかな?

 俺はミーナがやっていた魚取りを手伝いながら少し話をする。


 ミーナは『ナードベア』という種類の熊の獣人で、歳は26歳。聞いた時は歳上っ!と驚きはしたが、異世界に来てるんだから小さな少女でもそんなこともあるかと、漫画知識の高い俺はすぐ受け入れることができた。でも見た目通りの歳下少女であって欲しいと思ったのもあるし、歳上にタメ口で話すのもいかがなものと思う俺であった。


 会話ができるのも不思議だったが、この世界にはしっかりとした全種族が使える共通語が存在するらしく、ヒューマンだろうが獣人だろうが魔族だろうが会話が可能。俺の日本語がミーナに伝わるのは共通語が日本語なのか、神が言ってたこっちに来る時の能力調整ってやつなのか?まあ、会話できるって知れたのはいいことだ。


「えっと、魔族ってのもいるの?」


「何言ってるのお兄ちゃん?いるじゃんいっぱい、ほら!」


 俺の疑問にキョトンとした顔しながらミーナは空を指さす。そしてまた俺は異世界転生したという事実に気付かされる。


「うわ……すげーーーーー!」


 青い空。白い雲。燦々さんさんと輝く太陽とそれを横切る黒い影の大群。俺の世界でも漫画やアニメでよく見る生き物。


「ワイバーンだ!!」


 逆光で影しか見えないが、影の形からでも想像がつく程の迫力。長い首、2本の足、大きな手のついた両翼の羽をバサバサと上下させ飛んでいく群れのワイバーン。


 森の中しか歩いてなくて空を見上げる暇もなかった俺には分からなかったが……そうか………………これがこの世界か!!!


 黄泉はこの新しい地球『ドランアース』でどうしていくのか。今は分からないことも多いが、自分が見たことのある漫画のようなファンタジー世界が今目の前にある。楽しくなりそうな予感でワクワクが止まらくなるのだった。


「魚も取り終わったことだし。運ぶの手伝うよ」


「ありがとうヨミお兄ちゃん。私の村ね、すぐ近くだから!」


 俺はミーナに手を引かれ異世界初めての獣人村『ベアルピス』へ行く........?



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