忘れられた遺跡 6
「アンドロイド…ホムンクルス…。」
自分のこのボロボロの姿を見て、その事実を咀嚼する。
彼女が言うには、この体を構成する全て───正確に言えば、いまこうやってコア・シェルフの中に居る俺ではなくて、未だステラ・ハートの前に、ぼけっと突っ立っているはずの俺の本体の方───は、すべて人工物で出来ており。
皮膚や筋肉に加え、骨や関節、毛や爪、瞳や脳などの一つ一つのその全てが、例外なく精巧に製造されたものであって。
それらは一つ一つが、人間が“魔力”を扱うのに最も適したボディとして存在したらしい。
他にも、何たらかんたらと説明があったものの、少し専門的になって来て良く分からなかったので、そこまでにしてもらって。
取り敢えず、俺の体がそのような、ある意味で“機械的”な体である、ということは理解した。
そしてそれに付随して、シロネの正体も教えてもらった。
彼女は、いわゆるサポートAIのようなものであり。実際にこの体を動かす主人格である俺を補助したり、時には相談したり導いたりする役割を持った存在、と言う事らしい。
それにしては、普通の人間と話しているような、そんな印象も受けるが。まあ、こんな体を作れる文明で生まれたAI、と言う事を考えれば、そんなものなのだろうと納得する。
そうやって言われた事を整理していると。彼女は取り敢えず、と言って、話を始める。
「さて。ここで行うべき説明は以上となります。積もる質問は山ほどあると思いますが、それはまたの機会にしましょう。」
そう言うと彼女は、少しくどいと感じるかもしれませんが、もう少しだけお付き合いください、と言い。
俺の体をギュッと抱きしめて───ぇえ?
あ、暖かい、柔らかい、あ、あ、あ。
久々に感じた人間の温もりに───例えそれが、俺の中の精神的な交わりであったとしても、自身の頬に熱が登ってくるのを感じて。
恥ずかしさからか、興奮からか、カチッとその場で固まっていると。
シロネは、その状態から涼しげな顔のまま、話し始める。
「これから、貴方をここ、コア・シェルフの世界から“現実”の世界に精神を戻すのですが。現実とこの場所とを行き来したい場合には、私を呼んでくださればいつでも出来ますので、気軽にお声がけください。」
そして、行きますよ〜と掛け声をかけられたすぐその後。
先ほどの興奮は何処へやら、まるで全身麻酔をかけられた時のように、すうっと意識が遠のいていき。
──────
───
「ぬぅわ!!」
そんな変な事を叫びながら目を開けると、そこは先ほどまでいた図書館ではなく。
白く光り輝く巨大な星───ステラ・ハートが浮かぶ、あの広大な空間を持つ遺跡の中であった。
ああ、戻って来たんだな。
そう思うと同時に、先ほどまであった温もりを思い出して。
一人ってこんなに寂しかったっけと、そんな事を思っていると。
『───』
頭の中に、何か囁かれているような感じがする。
『───。き───。』
それは丁度、先ほどまで良く聞いていた少女のような声であって。
良く聞いてみようと、それに深く意識を傾けると。
『あー、聞こえてますか?聞こえていますよね。』
それは、確実にシロネの声であって。
『こほん。ええと、すみません、シロネです。まだまだこの体の機能が復旧できておらず、こうして音声だけのガイドとなっている事、お許しください。』
「お、おお〜。シロネさん…。」
先ほどまで感じていた寂寥感はすっかり消え失せて。テンションは完全に先ほどまでと同じくらいに爆上がりし、ついつい表情をニコニコとしてしまう。
『ふふ。寂しい思いをさせてすみません。それと、シロネさん、じゃあなくて、シロネと呼び捨てにして下さって構いませんよ。』
「え、ええ?そう?うーむ。それなら、そう呼ばせてもらおうかな。えーっと、その、シロネ。」
『はい。黒羽様も、これからよろしくお願いしますね。』
姿は全然見えないし、場所もステラ・ハートの目の前とはいえ薄暗いしで、良い雰囲気とは決して言えなかったが。
それでもそういった楽しい交流を彼女とし終えた後。では、本題に入りますね、と言って、彼女は話しだす。
『まずは、その姿を何とかする所から始めましょうか。』
シロネはそう言うと、説明を始める。
『先ほど貴方がこのステラ・コアと触れて、力を得た現象───正確には、魔力共振同期型選択的回復シーケンスというんですが───それによって、貴方は既に、プリセットで用意されている幾つかの、いわゆる“魔法”が使えるようになっている筈です。』
「ま、魔法…!」
なんというファンタジーな響き!
ああ、おそらく錬金術というものが無ければ、ハマっていたのはこっちだったかもしれないと思えるくらいには俺が大好きなものの一つだ。
そんな魔法が、今の俺にも使える…だって?
これはめちゃくちゃワクワクして来たぞ!
『それらを使うためにも、初めに“魔力”を扱う感覚を理解しましょう。』
そう言うと、彼女は、少し右手を前に突き出してみてください、という。
なるほど?と、良く分からないままその指示に従って、右手を突き出す。
『まずは私がお手本として、魔力を今から右手に集めてみます。その感覚から、自分の中にある魔力を認識してみてください。』
そう言うと、いきますよ〜と喋りながら、むむむっと力を入れるような声を出す。
すると、その瞬間。
自分の中から、何かモヤモヤとした力が移動するのを感じたと思うと、それは右手に段々と集まっているような感覚がして。
あー、なるほど。これが魔力っていうやつか。
自身の中にある謎の力───すなわち魔力を、しっかりと意識する事が出来るようになった。
『お、筋が良いですね。そうです。それこそが、魔力というものです。』
そしてそれによりもう一つ、俺がコア・シェルフに触れた時に感じた、力が
あれは俺の体の中に、大量に魔力が送られていったという事だったんだな、と今気付いた。
なるほど。
前世は魔力とかいうものが無かった世界で生きていたからか。こうして魔力というものを認識するようになった途端に、この感覚が違和感となって、魔力をかなり自分の中で正確に捉えられているような感じがする。
『では次に、それを自分の体の中で、移動させてみましょう。』
そう言われて、その違和感である魔力を移動させていく。
右手、左手、頭、足、胸。全身に、ゆっくりとだが確実に移動できているのを感じとり。自分が魔力をしっかりと動かしているのを認識する。
アニメやマンガでは、こういった魔力の運動は早ければ早いほど魔法の速射に有利だったりする訳だが…この世界ではどうなのだろうか。
そんな事を考えていると、シロネはエクセレント!と言って、次です、と続ける。
『今度は、その魔力を自身の体から切り離してみてください。』
全部じゃあダメですよ。一部で良いですからね、と付け加える彼女に、あ、はい、と言いつつ。
体の中にある魔力のうち、四分の1程度をもぎり取って、そしてエイッと、手のひらから魔力を飛ばす。
うむ、感覚だから分かりにくいけど、なんかできている気がする。
そう思うと、素晴らしいです!とシロネは言って。次が最後ですと、彼女は続ける。
『今度は、自分のものでは無い魔力を感じ取ってみてください。』
自分のものでは無い魔力、すなわち自分の外にある違和感、という事か。
今までの性質を考えると、基本的にそれは目に見えないものっぽいわけで。うーん、ちょっと分からないな…。何か分かりやすい例があれば良いんだが。
そう思うと、シロネは、そうですね…と言って。あ、ステラ・ハートがあるじゃないですか!と、こちらに提案する。
『どうですか?アレに手を突っ込む勇気はありますか?』
「いやあ、流石にちょっと。」
人間の感覚的には、何か光ってるところに手を入れたくはないというか。そこに手を入れたが最後。次の瞬間には真っ赤に焼けて、ドロドロに溶けてそうな感じがする。
って、もしかして。
「この、何となく熱く感じるこれがまさか、このステラ・ハートの魔力…?」
ちょうど合点したその時、かちりとパズルのピースがハマったのか。自分の中で魔力というものの全貌を完全に捉える事ができるようになり───そして、それは違和感としてではなく。
オーラのような、何となく流れのあるふわふわしたものとして、認識する事ができるようになったのである。
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