十一月十日


 お姉様、電話に出てください。至急、電話に出てください。なんのために着拒を解いたと思っているのですか。ベロベロに酔ったあなたからダル絡みされるためでは断じてない!


 確かに、内見に行かされている間、私の部屋は無人だったでしょう。

 だからといって、その間に帰省して少しずつ人の荷物を纏めていたとはどういうことでしょうか。

 「今遠くにいるから内見にいけない」とあなたが言うから、心優しい私は胸を痛めて代わりに内見に行ったのです。それが実際は近場のマンスリーを借りていて、自分でも内見に行っており、さらに人の部屋を漁っていたとは。帰って報告を書いては寝ての生活だったから気づかなかった! どうりで不動産屋が「一緒に来ないのか」と訊くわけです。嘘つき!


 しかも母と父も説得済みとはどういうことですか。

 「ニートになって五年のお前も雇ってくれる上、荷物もまとめてくれた。感謝しなさい」と言われました。なぜ感謝しなくてはならないのですか、私は頼んでいない。物件の契約書もなくなっているではないですか、泥棒!


 それから、雇うってなんのことでしょうか? まさかお姉様、私を雇おうとしてますか? 冗談はやめてください。

 冗談といえば、契約書の代わりに引き出しに入っていたシフト表はなんでしょうか。月月火水木金金となっていました。冗談が過ぎます。それとも表記間違いですか。だとしたら、こんな凡ミスをするような慎重さに欠ける社長の下で働きたくありません。私はあなたと違って慎重に物事を進める性格です。今は慎重に仕事先を選んでいるのです。そして慎重な人間はあなたの部下にはなりません。


 そもそもあなたが具体的にどんな仕事をしているかも知りません。コンサルってなに?

 そんな状態なのに、労働契約書の写しにはなぜか判が押されていました。確かに実印は母が管理していますが、私のサインはどこから写し取ったのですか、私文書偽造!


 私はここに職業選択の自由を主張します。人権を我に。断固として戦う所存です。あしからず。



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