第3話 狭間の空間での攻防

 由香がドヤ顔で時空跳躍魔法の説明していると、家の中で食後の昼寝をしていたはずのマリルが血相を変えて相棒のもとにやってきた。


「もも! ヤバい、ゲートが開くぞ!」

「変身だね! 由香さん、行ってきます!」


 ももはすぐに変身して魔法少女ピーチになると、すぐにゲートの出現場所に向かう。由香は後輩の頼もしい後ろ姿を見送りながら、彼女達の無事を祈るのだった。



 その頃、無事に狭間の空間への跳躍に成功したアリスは、すぐにトリの気配を探る。彼と同じ次元に来た事で、気配はすぐに察知出来た。


「なるほど、あの監獄ね。よっしゃぁ~っ! トリりん待ってろ~」


 アリスがトリを察知出来たように、トリもまた相棒の存在を敏感に感じ取る。その表情の変化から、監視していたキースもこの次元に招かざる客が紛れ込んできた事を察した。


「おかしい。この次元に部外者が入り込むだなんて……」


 彼女はズレた眼鏡をくいっと直す。その直後にこのエリアの扉が開いた。


「やあキース、久しぶりだねえ」

「嘘?! あんたは魔法を使えないはず! 一体どうやって……」

「このステッキのチ・カ・ラ!」


 動揺する彼女に、アリスは由香から借りたステッキをこれみよがしに見せつける。状況を確認しようと身を乗り出したトリは、そのステッキを見て目を輝かせた。


「パパのステッキホ! 例外があったホね!」

「お、ちゃんとそこにいたね。トリを確認!」


 アリスはトリパパのステッキをしまうと、改めて自前のステッキを生成する。トリを目視出来る距離にいたため、それは簡単に達成された。


「マジカルチェンジ! 魔法少女りりす!」

「しまったーっ!」


 変身した彼女を見たキースは、すぐに空中を泳いで現場を離脱。今の状態では勝てないと速攻で判断したのだろう。そのスピードは水中を泳ぐイルカと同程度で、すぐにりりすの視界から消え去った。

 りりすは遠ざかるイルカを追撃する事なく、まずは捕らわれのトリを開放する。


「助かったホ」

「なんでこんな事になったの?」

「僕が夜の空の散歩をしていたらいきなりゲートが開いて、捕まってしまったホ」

「あー、そんなこったろうと思ったわー」


 話を聞いたりりすは、棒読みリアクションをした後に大きくため気を吐き出した。トリは少し気を悪くしたものの、自分の不手際が原因なので何も言い返せない。

 とにかく、これで無事に目的も達成出来たと言う事で、彼女は元の世界に戻ろうとステッキを振る。


「マジカルー……」

「どうしたホ?」

「次元壁が開かない。キースが鍵をかけたねこりゃ」

「どうするホ!」

「あいつを倒すに決まってんじゃん!」


 キースが逃げたのはただのフリだったようだ。頭脳派の彼女はトリを助けに魔法少女が現れると言う事も想定していたのだろう。流石は四天王一の頭脳派なだけはある。

 トリを連れて監獄を脱出したりりすは、すぐにキースを探す。


「あれ? 待ち伏せしてると思ったのに」

「りりすはキースと戦った事はあるのかホ?」

「ないよ。実力ならあーしの方が上だろうけど、あいつが得意なのは搦め手だからなあ。苦手なんだ」

「だと思ったホ」


 トリが呆れる中、狭間の空間全体にキースの声が響く。


「リリス、よく聞きな! 今ディオスが人間界に向かってる。あんたはここで自分が守るはずだった街が崩壊するのを指を咥えて見ているんだね」

「嘘?!」

「ディオスは四天王一番の破壊者! あんたは素人魔法少女を守りに残したみたいだけど、果たして何秒持つのかな?」

「りりす、マズいホ!」


 トリの視線がりりすの胸に刺さる。ここで時間をかけたら街が危ない。いや、それ以前にピーチが危ない。何しろ、ディオスは四天王の中でも最強の存在だからだ。

 一刻も早くピーチのもとに駆けつけなければいけないプレッシャーの中、りりすはステッキを強く握る。


「……無理を通せば、道理は引っ込むんだよね」

「何をする気だ? 何をしても無駄だぞ」

「無駄かどうかはやってみないと分かんないっしょお!」


 彼女は狭間の空間の中心部に向かってステッキをかざす。そうして、ありったけの魔力を注ぎ込んだ。そのあまりの高密度の魔力に、周囲の空間が徐々に歪み始める。

 この次元組成の異変に気付いたキースは、次第に声から余裕が消え去っていく。


「や、やめろ……。そんなデカいの使ったら世界が壊れるゥ!」

「マジカルエクスプロージョンフルバーストォ!」


 りりすが放った超新星爆発に匹敵する爆炎魔法は、キースが作った人工異空間を瞬く間に粉微塵に破壊し尽くした。


「こんなデタラメな話があってたまるかーっ!」


 狭間の空間が消え去り、虚無に満たされた世界の中でキースの嘆きの声だけがずっと響き渡る。そこにはもう魔法少女とマスコットの姿はなかった。

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