狂行軍

ヒーズ

第1話:転生前と謎の女神との出会い

6歳の頃に、初めて刀に触れた。

そこからだ、私が武芸と言うモノに興味を持ち始めたのは。

武の道と学問の道には通ずるものがる。

それが最初の私の師であった、父の持論だった。

故に、武と最も親しい関係にある『歴史』を学んだ。

確かに、歴史を学べば学ぶほど、人間は何時、

どの時代であっても殺し合っていたことが分かる。

武と学問の道が通ずると言うことは、こういうことだったんだと納得した。

だがそれと同時に、現代に残っている武芸の『型』と言うモノに疑問を持ち始めた。

『温故知新』と言う言葉がある。古きを温め、新しきを知る。

素晴らしい言葉だ。だが、それを実行できている者は多くない。

その証拠に、父は道場の師範としては素晴らしかったが、それ以上は何もなかった。

人々に記憶される様な人でも、歴史に名が残る様な人でもなかった。

故に、私は18になると、早々に家を出て、山籠もりの生活を送った。

しかし、一人ではなかった。幾千もの偉大な師匠と共に過ごし、

研鑽を積むこととなる。

関羽師匠、レオニダス師匠、ハンニバル師匠、武田師匠、ボナパルト師匠、

他にも大勢の師と共に、何年もの間、山に籠って修行を積み重ね、

師匠を凌駕しようと研鑽を積み重ねた。

が、山に籠ってから暫くして、あることに気が付く。限界が来たと。

その時、師に言われた気がした。「実戦に勝る修行はなし」と。

私は山を下りることを決意したが、自国に留まる気はなかった。

『実戦』。師が言う実戦とは、模擬戦のことなどではない。殺し合いのことだ。

私は船を作り、海を渡って、残りは徒歩で『傭兵』が存在する国へと向かった。

私は、最大限の礼節を持って彼ら傭兵の一員になろうとしたのだが・・・。

彼らは弓と刀で傭兵になろうとしている私のことを馬鹿にし、

「侍ごっこなら祖国へ帰ってやりな」と門前払いした。

故に、その傭兵共を斬り伏せ、首を一列に並べてやった。

そして、始めて殺し合って、師が『実戦に勝る修行はなし』と言った意味が

よく分かった。

実戦とは、全ての神経を使い、あらゆる事態に備えなければならない。

特に、味方が少数で敵が多数の場合なら。

その後、私は幾度か他の傭兵の仲間になろうとしたが、結局は傭兵共の首を

一列に並べる羽目になってしまった。

そこで私は初めて疑問に思ったことがある。

『何故、私は自らを理解しようともしない相手と、仲間になろうとしているのか。

彼らの仲間になったとして、彼らに背中を預けてよいものか』と。

私は、一人で研鑽を積み続け道を選んだ。

のだが、そう決めた日から、何故か他の傭兵組織から勧誘されたり、

狙われたりするようになった。

私は不思議に思い、襲ってきた傭兵共の一人から、事情を聞きだすことにした。

すると、私は幾つか有名な傭兵組織を潰していたらしく、その情報が傭兵界隈で

出回って以来、私のことを『傭兵狩り』と呼び、恐れ、尊敬し、妬んでいたらしい。

私のことを勧誘してきた者は、恐れ或は尊敬の念を持ち、

襲ってきたものは妬み或は名声を求めてのことだと言う。

そういった彼らの行動と先の疑問とが相まって、私は一人で行動することを

更に強く欲するようになった。

戦場から戦場へと渡り歩き、多種多様な軍と傭兵を相手し、

何百という戦を生き残った。

いつしか私は『侍の亡霊』と呼ばれ、傭兵界隈以外でも有名になる。

有名になり始めると、私の祖国から『取材をしたい』と言う、

ジャーナリストが大勢押し寄せて来た。

しかし、あまりにもいい加減な奴らばかりだったから

「帰れ、帰らないと首を叩き斬る」と脅し、追っ払ていた・・・のだが、

私の言葉をただの脅し文句だと言って、帰ろうとしない者もいた。

故に、言葉通りにそいつの首を叩き斬ったら、そいつの後に控えていた奴らが、

血相を変えて逃げ出していった。

その後からだな、一切『取材したい』と言われなくなったのは。

そうして、伝説となった俺は・・・病で死ぬことになる。

丁度、67の時だった。体にガタが来て、昔の様に素早い動きも、

豪快な戦いも出来なくなった頃だ。

戦場になった国の風土病を患い、あっけなく死んでしまった。



「いやぁ~、君、よく頑張ったよ!うん」


死後、私は真っ白な空間の中に立っていた。

しかし、そこにいたのは私一人ではなかった。

謎の女が、裸体のまま私に微笑みかけていたのだ。

それに、訳の分からないことも言っている。

「よくやった」だの「転生してもらう」だの・・・

この変態の女は、もしかすると『神』と言う奴なのか。


「ブッブー!私は『神』ではなく『女神』ですし、変態ではありませーん!!

そもそも、服を着る文化って、人間が勝手に作ったモノだし!

君達だって、サルだった頃は裸だったじゃん!

はっ!まさかもう忘れちゃったの?裸だった頃の記憶?」


私の思考を読み取ったであろう女神はそう言うと、ギャハハハと女にしては下品な

笑い声を上げた。女神は暫く笑った後、また勝手に話を始めた。


「貴方は死にました。歴史上稀に見る武芸の神童でありながら、

病によって死にました。情けないですねぇ~。」


私の最期を侮辱するかの様に、ヘラヘラとしている女神に腹を立てた私は彼女に

斬りかかろうとする。

が、謎の力によって、私は刀に手を掛けることすら叶わなかった。

すると、ヘラヘラしていた女神の態度が一変し、私のことを鋭く睨みつけた。

無論、私も彼女のことを鋭く睨みつける。

私の行動を反抗的と受け取った彼女は、人差し指を上に向けた後、下に向ける。

すると、私の体に今までに経験したことがない程の重力が圧し掛かった。

女神は地面に倒れ込む私のことを見て、またしてもギャハハハと下品な笑い声を

上げる。

敵を前に倒れるのは武人にとって一番の恥。私は、圧し掛かる重力に反抗して

立ち上がろうとする。

が、そんな私を見て女神は「立ち上がっちゃ駄目だよぉ~」と

更に重力を圧し掛かけてきた。

しかし、私は腰に提げていた刀を鞘ごと取り、それを支えに全身の筋肉を

使って立ち上がる。

そして、先程とは比較にならない程の鋭い眼差しで女神を睨みつける。

すると、女神はヘラヘラとした表情から一変、

悪魔顔負けの恐ろしい笑みを浮かべた。


「ああ、私の力に反抗する精神と力、

それを持ち合わせている貴方は最高の『駒』ね。

これであのクソ野郎の『駒』に対抗できる!!

・・・貴方のその精神と力を認めて、特典を上げるわ。

貴方は地球とか言う、稀にしか良い駒を生み出さないゴミ惑星から生まれた、

歴史上最良の駒なんだから、簡単に死なないでよね」


訳の分からないことをほざいた女神は続けて「行ってらっしゃぁ~い」と言った。

次の瞬間、私の足元に大きな穴が開き、私の体は穴の中に引きずり込まれる。

それと同時に、私の意識は完全に飛んでいた。

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