第12話 「女をグーで殴るタイプ」



『豚野郎がふざけんじゃ無いってんですよッッ!!』

『そうか?ハハハ、んならダルマにでもしてやるよ、ドチビが』



『ぐっっっ』

『オイオイ、まだ片腕だけだぜ?次の“拘束”はこうだ。三肢の切断。これで行動の完全拘束だ。泣いて降参でもしろよ』



『お前なんかに……何が分かるってんですか』

『知らねーよ。てめぇみたいな奴をこの後売り飛ばせない事が残念で仕方ねぇ。そろそろ時間だ。対価はもらうぜ?』



『……ゃぁ……ぃやぁ……ごめんなさい……ごめ――』

『ハハハハハハハハッッ!マジでダルマだこいつ!!』



『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいご』

『失せろ』




 個人待機室。


「――――、」


 コウキは生徒手帳で何度も映像を見ていた。途中放送制限が入り回避されていたが、ぐちゃぐちゃに切断されたプラハの身体とその頭を踏むバキラ=グラスコの姿がそこにはあった。


『バキラ=グラスコ君には気をつけなさい』


 迷宮でのグェンの言葉が過ぎる。


 すると部屋のディスプレイが光りだした。第一試合の全てが終わった事を告げており、コウキはバキラの映像を見るのを辞める。映し出された情報を眺めながら思考した。


 画面に映るのは第二試合に進んだ選手たちだ。


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【本戦トーナメント状況】


第一ブロック

 黒・アオイコウキ B/男

 黒・リリィ=ベルン B/女


第二ブロック

 白・ミア=ツヴァイン S/女

 青・レイヴィニア=コトル B/女


第三ブロック

 白・ラン=イーファン A/女

 黒・バキラ=グラスコ B/男


第四ブロック

 青・シュウメイ A/女

 白・ハオ=ロイドゲート D/男


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「シュウメイは勝って当然か。このハオって生徒は確かAランク相手だったよな……DランクでもAに勝てるんだな」


 他のブロックに意識を向けてはいるが、未だにバキラに注意の言葉が反響してしまう。だが今は自分のことに集中するしか無い。第二試合の一戦目がコウキである以上、やるべき事は次に勝つ事だ。


「俺は3位以内に入らないと仲間たちと居れない」


 今は他人を気にする立場にない。

 だが平気で命を弄ぶバキラの顔が浮かぶ。


「アイツの事を憎しむ余裕なんてない」


 言葉にすることでバキラへの怒りを忘れようとした。


『それでは一ブロック第二試合、一戦目を開始します』


 コウキは自分の立場の弱さを痛感しながら余分な感情を捨てる。否、捨てきれないまま進む。込み上げる怒りを殺しながら会場へと歩いて行く。


 ――死んだ方がいい命なんて五万といる。それでも命を弄ぶような事をしてはいけない。それは魔獣と同じだ。


 心で思うと、楽しそうに笑う顔が瞼に張り付いた。

 燻る心の内を沈めるようにして今回の相手の特徴を考えていく。


「ナナミは確かミオス先生の子で、シュウメイは防御最強と言ったけど……アレはどう考えても完全敗北だったんだよな」


 初戦の映像で、黒髪メッシュにハーフツインの小柄な少女リリィに負けたナナミの顔を思い出した。恐ろしい事にナナミは気持ちよさそうに昇天していた。


「完全に死にかけてたくらいだ。じゃなきゃアレだけ果てた顔は出来ないはず。能力も生徒手帳で変化系ということしか分からない。ナナミも気の毒だな」


 実はコウキはナナミのマゾ性癖を知らない。


「気をつけよう」


 ――そう覚悟を決めてからステージへ上がる。


黒色ノアールアオイコウキ!そして黒色ノアールリリィ=ベルン!』


 湧き上がる歓声とたくさんの視線を浴びながら定位置に着く。アナウンスが各第一試合よりも大きく叫んで会場は盛り上がりを見せた。


「……」


 対戦相手は同じ黒色ノアールの女子生徒。

 ハーフツインの小柄な少女が、ニーハイの裾をあげている。

 仕草はわざと人目を集めるような振る舞いだ。必要以上のドールメイクと不適な笑みを浮かべたリリィはコウキを楽しそうに見ている。


 面識が無いためコウキは疑問に感じた。


「リリィさぁ、あの戦い興奮したんだ〜〜!せんぱい」

「…………ん?」


 試合開始前、口元に手を当ててニヤニヤと笑うリリィが話しかけてくる。諸々意味が分からないコウキが疑問を浮かべると、端正な顔の少女は話を続ける。


「あぁ、さっきのモサ男の話じゃないよ?夜の方、夜の」

「……」

「ふふ。小柄な男の子真顔で殴り続けてたでしょ?その時思ったの。ああこの人歪んでる〜〜って」

「…………」


 居たのか。とコウキは心の中で思った。

 口に出さなかったのは、今のコウキはある事情により心を許さない者全ての“視線”に気付くはずだからだ。どういった原理で見ていたのか知らないが、情報は伏せるべきだ。


「リリィさ〜〜めっちゃ可愛くて賢いから、皆より一つ下だけど入学したの。でもほんっとつまんないからサボってたしイケメンも居ないから病んでたけどやっと面白そうな事できてこの瞬間が楽しみすぎてさぁ。というのもリリィね、左手で顔に触ると生き物の過去を抽象的に知れるんだよね〜〜。絶対の絶対あの人の過去を知りたいって思ってたからも〜〜今が最高なの、しかもリリィの剣の“対象”になる事までわかってるし」

「……」


 つらつらと絶え間なく話し続けるリリィにコウキは不快感を感じた。全く知らないのに一方的に強く興味関心を向けられる事は初めてだった。


「切りすぎちゃうから動かないでね?」

「お前さ」


 不快なあまり、コウキは返事をした。

 リリィは言葉が返ってきた事に喜びを示す。


「なぁに?」

「言うほど可愛くないな」

「………………………………………………………」


 リリィが黙った。

 聞こえていたのだろうか、観客までもが黙る。


 しばらく顔色が見えなくなるリリィは肩が震えた。独りでに「りりぃは天使だからわかんない」等と呟き続け、震えはすぐに収めていった。


 そしてコウキに満遍の笑みを返す。


「殺すねっ」


『第一戦――、開始ッ!』


 沈黙の中、火蓋が切って落とされた。


「――“秘蔵ひぞう”ヤタガラス」


 油断はできないと即座に動いたのはコウキだ。


 バックステップで距離を取りながら転移魔術を行使。

 黒の短い双剣、八咫烏ヤタガラスを両手に掴んだ。


「四式――“風燕かざつばめ”」


 両手に双剣を抱えるコウキが体勢を低くし風魔法を帯剣した。造剣ヤタガラスは空気抵抗をほとんど受けない軽量さと硬さを兼ね備える剣だ。


 この特徴から四式の欠点である操作性を解決させる。つまり、風魔法帯剣を維持したたまま戦うことを可能とさせた。


「疾」


 ドッと。足に強化魔法を施して一気に距離を詰める。

 足場を翻し現状の最高速度で向かう。

 剣の展開から間合いに入るまでの時間を大幅に短縮出来たコウキに対し、リリィはゆっくりと自身の精霊剣を彼に向けるだけだ。


 あまりにも隙だらけだとコウキが思った。

 瞬間。


「ヘラの愛」

「――ッ!?」


 開始数秒、コウキの身体は動かなくなった。


「「「「……………………」」」」


 突然の事に観客までもが黙り込む。

 何も始まらず負けたナナミの時とは異なる光景。


 戦闘が始まる予感がしていた筈なのに、それが全く叶わない。


「……」


 ――待て、これは何かマズい。


 コウキが強く感じた。ぴくりともしない身体に対してもそうだが、もっと異なる非常に場違いな感情に焦った。


「ふふ、せんぱい」


 一歩、また一歩。

 ゆっくり進むリリィが短い精霊剣を持ってやってくる。その目は一点を見つめており、見つめられるコウキは目を逸らす。


 なぜ恥ずかしがっているのか頭で考える。

 動こうとしても身体は別人かのように反応しない。


「ねぇ、リリィのこと好き?」

「――、」


 言葉に固まったまま、コウキの心臓が跳ねる。

 直ぐに近くまで来たリリィはコウキの耳元で再度同じことを囁く。


 そして精霊剣の切先で彼の頬を薄く切り、滴る血に触れた。


「……す…………っ」

「嘘つかないでね」

「――好き、だ」


 コウキは脳内で“何かが違う”という事までは理解できるが、リリィの所作や言葉に身を委ねる方が心地良いと感じた。


 完全に相手の能力にハマったと、気付くことすら無かった。


「うん、じゃあリリィも好き。どう?ヘラの能力」

「……凄いな。とても心地良い」

「でしょ?リリィの事をほんの少しでも愛せる人は皆こうなるの」

「そうなんだ」

「座って?」

「うん」


 奇妙すぎる光景に見ている人間たち全員が息を呑む。


 コウキは言われるがままヤタガラスを雑に放り投げてその場に座った。眺めたリリィは笑顔のままで応える。


「正座でしょ?」

「あっ、ごめんなさい」

「ごめんなさい?すみませんでしたリリィ様だよね?」

「すみませんでしたリリィ様」

「いいよ?じゃあ、まず右手を前に置いて」


 コウキは従って床に右手を置く。

 するとリリィも側で座り込み、絡みつくように左の手を添えた。


「ぁ」


 柔らかでくすぐったい感覚にコウキは胸が高鳴る。女性に対してここまで高揚する事が過去にあっただろうか。それ程まで愛しくて切ない感情を肌身で感じる。


「手、あったかいね?」

「リリィは冷たいな」


 リリィとの距離が近い。

 ずっとコウキの目を見る大きな瞳に見惚れてしまう。愛せば愛す程多幸感で満たされる。目と鼻の先にある唇が、艶かしく動いた。


「せんぱいと、もっと繋がりたい」

「――、」


 凄く愛しい、心からコウキはそう思った。

 握られている手に少し力が入る。


「声出さないでね?」

「え、う――ッッッッッッ!?」


 グサッと。

 リリィは自分の掌ごとコウキの手を貫いた。


「ぁぐ」

「声出さないでって言ったじゃん。血の禊なんだから」


 引き抜いてもう一度。否、何度も手を串刺しにした。

 その度に痛みでコウキの神経が狂っていく。痺れるような痛覚の嵐に冷や汗が浮かんだ。ぐちゃぐちゃになっては治癒で戻され再び刺される。


 何度も何度も何度も、治癒を施されて繰り返す。


「ッ!? ――ッッッ!!!!」

「ぁあ……最っ高ぉ……」


 グサッ、グザッ、グサリ。

 どんどん粘着質になる音だけがその場を支配する。

 同じ痛みの繰り返しにコウキの感覚が鈍っていった。


「繋がりっ……共感っ……痛みっ……」


 刺す度にリリィの頬と唇が小刻みに震えた。


 首から伝う稲妻の様な快楽が少女に喜びを与える。頬が染まり瞳が潤み続ける事で分かち合う痛み、この工程がリリィにとっての一体感を齎しただただ気持ちが良かった。


「リリィはっ……可愛いっ……そうでしょ!?」

「ぐっ……傷つけて……ぁが、ごめん……!!」


 ぐちゃぐちゃと抉る刃物。痛みを共感しながらコウキは戦闘前の発言を思い出す。そして心からの謝罪をした。申し訳ありませんと言う気持ちはリリィにも伝わった。


「あっ……はぁはぁ…………、一つになってるねいま」

「ぅああ……手がっ」

「ふふ、乱共鳴も起こせばもっと気持ちいいかもね」


 治癒が追いつかなくなり、リリィがコウキのボロボロになった右手を持ち上げた。真っ赤に染まった指を絡めてにっこり笑う。


 その目に光はない。


「でもまずは、過去を見せて」


 そっと。

 ぼたぼた落ちる血まみれの左手をリリィが伸ばした。

 コウキは痛みで狂いそうになりながらも、その光景が尊く美しいものに見えた。こんなに美を集約させた生き物がこの世に存在していたとは驚きだった。


「返事は?」

「うん」


 勿論このまま身を委ねる。

 そうする事で彼女が喜ぶならコウキとしては史上の喜びだった。


 遂にリリィはコウキの頬に触れた。


「――ッッッッッッ!!!!」


 同時、リリィが気絶した。


 少女はギフテッド“情読み”を保有している。

 これにより触れた者の記憶やエピソードを一つのエネルギーとして抽象的に感じ取る事ができる。具体的に知るのではなく、膨大で曖昧な光景のみが集約し感覚として共有される。


 だが、これまで一度も気絶などした事はなかった。

 莫大な過去の情報か或いは壮絶な過去か。若しくは身体と魂が一致してないことによる反動か。何にせよ訳を知る術はない。


「――、」


 しばらくしてリリィは意識を戻す。

 頬が赤く染まりその瞳は揺らいでいる。

 他人の歩んだ記憶を諸に感じ取って一気に高揚が増していた。


「――っはあ!……なにこれ…………何これ何これ何これ!?最高すぎッッ!!一体どんな生き方をしてきたの!?ああああああああやっばまだ震えが止まらないんだけど……もっと見たい知りたい得たい盗みたい共有したい欲望が止まらない頭おかしくなりそう」


 リリィはその場で頭を抱えて蹲る。


 感じたことのない感覚に躁状態となり、慌てて胸ポケットから薬を取り出して噛み砕く。バリバリと小さな口が動き、輝く瞳でコウキの方を見た。


「ねえ!?こんな事してないでもっと…………」


 え?と呟く。

 少女はその光景を見て呆然としていた。


「…………あんた誰?」


 喜びから一転。怪訝な顔をする。

 苛立つ眉の先に居たのはコウキではなかった。


「あるじの危機」

「――、」


 白い髪に毛先が黒になった少女がそこには居た。

 リリィが慌てて精霊剣を持とうとする。

 しかし右手に持っていた剣がないと気付く。


「え?何……どういう」


 状況が読めない。

 全く読めないがおかしい事だけは分かる。左右を見渡すがコウキが居ない。いるのは小さな白い少女。そして無くなった剣。


「は?」


 だがすぐに居所を理解する。

 目の前の少女がリリィの精霊剣を握っていた。


「……それリリィのなんだけど。返せよメス」

「あるじの危機」


 何を言ってるのかコイツは。そんな顔で少女を睨む。だが予期せぬ事態である事には変わりなく、不安にかられるリリィがより現状を分析しようとした。

 しかしその必要は無かった。


「これは使役召喚。思念体ガノ=ケルニアス。魔獣だ」

「――ッ!?」


 背後からの声に振り向く。

 座ったままの彼女を見下ろす少年の姿があった。


「これで能力は使えないだろ?再顕現させても無駄だ」

「なん……」

「気絶してくれたから動けた。正直、駄目かと思った」


 少女の驚愕した顔。

 それを見るコウキは極めて冷たい目だ。

 渦巻く感情を押し殺しながら話している様に見えた。


「やれ」

「はい、あるじ」

「ぇ」


 瞬間。

 ズドズドッ!と二回大きな音がした。

 前方からの衝撃でリリィの両手に激痛が走る。


「――ぁがッ!?」


 少女の両手には鋭い骨が刺さっていた。刀の様なそれらは関節を大きく抉り全く両手が動かない。直ぐに目の前の小さな少女がやったものだと理解する。


「おいおい、声を出すなよ。禊なんだろ」


 ズドズドズドズドッ!と。

 何度も鈍い音が鳴る。


「――ッだぁ痛い!痛い痛い痛い痛いっ!」


 最も簡単に彼女の両腕は鋭い骨まみれになった。

 唸り、蹲り、その場に倒れて痛みに悶える。


「あぁう……ああああ、痛ッ痛い熱い痛くなる何これ!!」


 脳を焼く様な激痛はただの痛みではなくガノ=ケルニアスに見られる神経毒の一種だった。痛みに強くても薬で麻痺させても、リリィはこの強力な毒で思考が停止する。


「あるじ、もういい?」

「あぁ」


 容易な役目を終えたガノ=ケルニアス思念体がコウキの元まで歩くと、リリィの精霊剣を床に置いて虚空に消える。


 剣を見て思い出したコウキに怒りが込み上げる。


「おい何蹲ってんだお前」

「痛い痛い痛い何この骨!?痛いよ……」


 暴れて涙ぐむリリィの側に行きコウキが馬乗りになった。2人の目が合うと、痛みよりコウキに気付いたリリィが笑う。


「ハイになってるとこ悪いけど……いま猛烈に虫の居処が悪いんだ。能力が解除された時吐いちまったよ。不愉快すぎてな」

「……あは。はははっ!?でも“愛す余力”がある人じゃないとリリィの能力は通用しない!つまりせんぱいも満更じゃ――、ぁうっ」


 がしっと片手で少女の顔を押し付けた。

 もうこれ以上こいつの与太話を聞く必要は無い。


「人の感情使って何遊んでんだよブス」

「ぁ…………かっ………………」


 息苦しい少女はそれすらも嬉しそうに笑う。

 コウキはこの流れが気持ち悪くて仕方なかった。


 実際は容姿も声も所作も、何一つ嫌いなところはない。彼は今日初めて見た目や中身ではなく“理解できないものの恐怖”を知った。


 ――コイツの能力で心が複雑だ。


 そもそもあんな能力があるなら一撃で倒す事だってできたはずだった。それをしない事や記憶に対する執着、人間性や価値観の相違が入り乱れて最近で一番疲れたと言っていい。


 だが、全てをやり返そうとも思わなかった。

 だから傷だらけの拳を強く握る。


「悪いけど……、一発ぶん殴る」

「あはっ」


 拳を顔面に振り下ろす。


 ゴッッッ!!!と言う音で背後の床も砕けた。

 リリィの足が一瞬ビクッと伸びてそのまま脱力する。


「――――、」

「……もはや勝った気がしないな」


 笑いながら気絶する少女を確認。

 コウキは言葉を残して立ち上がりその場を去った。


『勝者――アオイコウキッ!!』


「「「「ォオオオオオオッッッ!!」」」」


 静寂だった会場は一気に賑わいを取り戻す。

 ガミアの時よりも精神的ダメージを感じたコウキは一旦待機室で眠ろうと決意しながら出入り口に向かっていく。早く此処から去りたい、そんな気持ちしかなかった。


 観客席ではノアールの一行がその姿を見ていた。


「……ありゃ、コウキまたしんどそうだったねぇ」

「た、確かにね……なんかちょっとコーキ恥ずかしそう」


 見ていたエリエリですら茶化しにくい状況にテイナが苦笑いを浮かべる。


「いやはや☆テイナてっきり怒ってるのかと思ったよ〜杞憂だったようでござ」

「あのメスガキはアタシもぶん殴らないとなぁ〜、拳で」

「あっ」


 テイナの笑顔を見てエリエリは硬直した。


「この観客の前だったからな。コウキもしんどいだろう」

「ネイ君、そう言えばマリード君はどこ?」

「あぁ。仕事があるから何とかと言ってた。テイナたちによろしくとの事だ」

「ほーん。マリード氏も忙しいね」


 エリエリが適当に返してライラを見る。


「ライラは今のどう思った〜?」

「どうも何も無い」


 こっちは平常運転らしい。


「でもさーあれだにゃ〜、なんっちゅーかその、記憶見れるって事は喪失以前の記憶も見れたってことかのう」

「どうだろうか。ギフテッドは明確な線引きがでなかったりする能力も多い。本人のみぞ知る上に、本人も言語化できなかったりするからな」

「確かに。曖昧だよねえなんか」


 エリエリとネイが会話したところで話の流れは終わり、次の試合のアナウンスが流れ始める。


 コウキは次が準決勝。

 トーナメントはいよいよ折り返し地点だった。


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