開闢の剣
神里
序章 『錯綜迷宮選抜編』
第1話 「レイス学園と無名の剣」
まえがき
はじめまして、神里です。
序章始まります。
二章までは殆ど完成してますので添削しながら掲載します。
全体通してだいぶ控えましたが、グロさやショッキングな部分が抑えきれない第13話。これは親友の男の子の大事な過去編なので、遭遇したらしんどいですがお読みいただきたく。ただ申し訳ない気持ちでいっぱいです。
評価やいいねフォロー等、励みになります。
ご挨拶にもいきますので仲良くしてください。それでは。
序章『錯綜迷宮選抜編』 開始
××××××××××××××××××××
覚束ない記憶の渦中、黒の視界。
光がなくては確かめる術もなかった。
きっと肉体は消え去り魂だけが残っている。
――最期の光景は銀座駅の構内だった。
いつも通り乗換の最中で電車が来るのを待っていて、人工的な電光飾や弦楽器の聖歌がやけに煩かったのを覚えている。通勤時間で逸る足音の陰影が自分を孤独にさせたのか、それとも寒い季節が原因なのか。
不意に情緒が乱れた。
肝心な所で同じ間違いをする様な人生を振り返り、幼稚園時代から大して努力もしない中高一貫校までの生温い出来事を思い出していく。
鮮明に描かれる最後の光景。
それは空間の裂け目から現れた黒装束。
『刃は己の心を示す』
時間は停止し空間だけの世界が広がった。
『天上へ至る為やるべき事を成せ』
2026年12月24日
××××××××××××××××××××
入学式。
ふぁ。と何処かで気の抜けた声がする。
「とまぁ、簡単に言うと空気中の
総勢3000人は居るであろう屋内では新入生歓迎の講義が催されていた。体育館にも近い講堂で端には舞台があり、スピーチ台が置かれた先を全ての人が見ている。
「魔法は体内の甲状帯を媒体にしていて、全ての人が基礎を使えます。生まれ持った才能を必要としない代わりにそれらを応用する魔術には家系と遺伝がつきものです」
舞台の上に立つ教頭、グェン=レミコンサスは40代とは思えない。
艶のある髪をかき上げて爽やかな笑顔で説明を続けていた。
顎まである銀のワンレンボブがセンターで分かれ、赤い瞳は情熱的な切長。目元に黒子をつけた嫌味のない美丈夫。色ボケハンサム教師の異名は、妬み嫉みの多い男子生徒の小言から生まれた物だ。
「そしてもう一つ大切なのが本題である“
グェンはやや力強く発言したのち、一拍置いて全校生徒を見た。
「一人に一本だけ与えられる世界の恩恵。新入生の皆さんには本日選定式をしてもらいますが、上級生は既に全生徒が得ています」
少しだけ遠くにいる在校生を一度見やり、すぐ舞台手前にいる新入生に視線を送る。自信と気品に満ちた瞳は生徒に緊張感を与えた。
「この精霊剣は人により
グェンの講義が続く中、新入生の一部では隣同士が細い声で雑談をしている。その内容は様々で多くがこの先の不安や期待の念を声色に込めていた。
「おいアンタ」
大勢のうちの一人が周りに聞こえないように言葉を発した。
長い金髪をオールバックにして後ろで結んだ少年が、隣の生徒へと話しかける。翡翠の眼は表情や感情を宿さず右側にいた黒髪の少年を捉え、瞳に映る相手が目を合わせる。
「何?講義中だけど」
黒髪の少年は髪と同じ色の目を気怠げに開けたまま答えた。
「あのグェンって教頭の精霊剣、名は分かるか?」
「知らない」
そうか、と金髪の少年が呟くと話を続ける。
「なんでもテスカトリポカと言うらしい」
「へぇ……それで?」
「いいや、知らないならそれでいい」
ぐっと引き込まれそうなほど見つめてくる緑の目を、眠たそうな表情のまま返す。期待には応えられなかったのかそれ以上金髪の男が会話をすることはなかった。
暫くすると話を続けていたグェンが長話はこれくらいにして、と講義を紡いだ後に最後の言葉を告げる。
「それでは30分後この場所で“
ふぁ。と再び黒髪の少年アオイコウキは間抜けた欠伸をした。
――25分後。
これは純粋な睡眠不足であった。
反骨心や反抗的な態度が根底にある訳でもなく、素直な寝不足。おおよそ充分な睡眠をとったはずのコウキにとって、入学式早々に睡眠の質が悪く頭が回らないのは不覚だった。
「選定式はここでやるんだっけ」
ぼそっと呟きながら、黒い髪を片手でわしゃわしゃと掻いて眠気を紛らわす。
周囲の新入生は講堂の中心に運び込まれた大きな宝石に興味がいった。無色透明で3メートルほど高さがある長方形の立方体は天井照明を煌びやかに反射させている。
「あれが“忠義の石”か。確かモノリスの欠片に構築式が埋められてて、触れて加護を授かると文字が浮かび上がるとか」
眠くて仕方ない目を擦りながら、円になる人混みの中心にあった忠義の石と配られた羊皮紙の説明書を交互に確認する。
巨大な宝石のその傍にはグェン=レミコンサスか控えており、約束の時間が来るのを待っていた。
「おいアンタ」
沢山の女子生徒が熱い視線を送る教頭の姿を見ていると、後ろから声が聞こえる。
「またか。一旦、名前でも交換しないか?」
金の長髪に緑の瞳。
先ほどの集会で話しかけてきた少年がそこにはいた。中性的で端正な顔立ちにハッキリした声色。それでいて表情が少ない。やや傾いた眉はデフォルトで怒りの感情があるように見えるため損をしそうだなとコウキは評価する。
「……僕はキオラだ。キオラ=フォン=イグニカ。名乗ったのだから名乗れ」
「えっと、そうだね。俺はアオイコウキ。コウキでいいよ」
デフォルト不機嫌野郎キオラ。なんて皮肉を思いながらもコウキは握手のために右手を差し出した。キオラはその手を見るまでもなく、ごく普通に無視して話を進めた。ショックだ。
「さっきは試すようなことをしてすまない。非を詫びる」
「……もしかして不器用?」
表情と態度とは裏腹の言動に新しい感情が生まれそうだとコウキは思った。ただでさえ頭が回らないのだから今はとても絡み辛い。
「邂逅のよしみだ。今回の選定で同じ階級になった暁にはライバルとなろう」
「ん、ああ、そうだね。……階級?」
「知らないのか」
想定外の単語に「全く」と返すとキオラは真顔のまま応える。
「精霊剣には能力の他にクラスがある。
こんなことは常識だ。等と補足しながらキオラが説明する。何でも普通に教えてくれるのだから、無愛想だけど優しい人なのかもしれない。
「なるほど、つまり同じクラスになったらよろしくって事が言いたい訳か」
「不躾に言うならそうだ」
「不躾て」
やっぱりただの失礼な人だとコウキは決定付けた。眠気をどうにか抑えながら、今のうちに気になる点は抑えておくべきだと考えて集中し話を続ける。
「階級って言うからにはヒエラルキーでもあるのかな」
「それは無い。単純に色によって加護の方向性が違う事で学習方法も異なる。大まかだが色による相性は存在する。しかしそれも魔法で補える範囲だ」
「つまり火系の精霊剣は水系に弱いけど水を防ぐ魔法があれば対等な位置になるような話?」
ほう、と感心したような声でキオラは呟く。
「黒眼黒髪と、この辺りの人種では無いというのに理解力はあるようだ」
「いやまぁ分かるよ、キオラの説明も丁寧だし」
「つまりそう言う事だ。因果関係については今後授業で習うだろう」
「詳しいね、どうして?」
単純な疑問をぶつけてみることにしたコウキは相手の出方をうかがった。キオラはやや間を置いて話を続けた。
「よそ者には分からないが、僕の姓であるイグニカとはここ一帯の地主の家系だ。殆どの親戚がこの学校を卒業して王に仕えている。幼少期より教育を受けている所為でこの学園のことも他者より理解できている」
「へぇ」
庶民上がりの自分にはよく分からない話だ、と他人事を溢してキオラを見た。彼が話をする姿はどこか忌々しそうにも見えるが、なんせ無愛想で本意が読みにくい相手だ。深く考えるのも失礼だとコウキは考える。
「ヴァーリアは元々帝国だった国が人種問題で分裂した独立国。故に移民、特に黒髪のアンタは庶民なら生きにくいだろう。強く生きることだ」
「心配してくれるのか?そんな時代でも無いよ」
ぱたぱたと手を振って返事をしていると、その時は来たようだ。
忠義の石の側にいたグェンが2回ほど拍手をしたことがキッカケとなり騒めいた空気が鎮まった。
多くの視線は教頭へと向けられる。
「これより“選定式”を始めます。事前に与えている番号を読み上げるので、該当者は前へ出て来てください。――1番、ミア=ツヴァイン」
グェンが呼ぶと生徒は返事をして円の人混みから現れた。
「はい教頭」
目を見張る記念すべき最初の一人。
それは小さな少女だった。
銀髪の長い髪と華奢な手足、グレーの瞳が特徴的な女子生徒だ。新入生と在校生が囲むこの講堂で、特に緊張もせずに歩いている。
まるで人形のような顔立ちはどこか艶かしい印象さえ与え、一歩進むたびに揺れる艶やかな髪を自然に目で追ってしまう。
「アレが今期の主席だ」
隣で同じ光景を目にするキオラが言った。
「主席……凄い子なんだろうな、なんか容姿とかも」
「見た目に惑わされるな。痛い目を見る」
「と言うと?」
「アレは戦闘狂ツヴァインの家系だ。ギフテッドの“
キオラの言葉にいまいちピンとこないコウキがありきたりな疑問を抱く。それを察したのか、金髪の少年は補足するように説明を続けた。
「おおかた剣を2本持てば誰でも二刀流と考えるだろうが、そういった話では無い。ツヴァイン家はその全ての人間が、本来は一人に一つしか与えられない加護を二つ同時に取得する。更にアレは――」
続けようとしたキオラの言葉は、集団の驚きの声にかき消された。
見れば円の中心で忠義の石に触れた少女。そしてクリスタルのようなその宝石に浮かび上がった青白い光の文字。
名前や家系が記されている文の最後には確りとこう書かれていた。
『――天上へ至る銘 彼の者に加護を授ける』
『光 天空の剣 ゼウス』 『闇 冥界の剣 ハデス』
異常な光景だった。
次第に騒めきが広がっていく。
様々な言葉が飛び交う人混みだったが、それら全ての概念は“驚き”に統一されていた。
「ゼウスとハデス……。たった一人に二つ同時?」
眠気が吹き飛ぶほど驚きを隠せないコウキは、まさに開いた口が塞がらない状態だ。コウキのような庶民でも“御伽話”の一部くらいには理解がある。
王国分離戦争を終わらせた異名ゼウスの天空剣。そして名だけが先行するハデスの冥界剣。何も精霊剣の基礎を知らない人間すら知っているネームドアイテムだった。
そしてキオラが驚くコウキの隣で呟いた。
「アレはツヴァイン家の最高傑作と呼ばれている」
××××××××××××××××××××
選定式が順調に進んでいきコウキにも分かったことがあった。
まず、1番以外は成績順不同であることだ。これは主席の後の2番の人間からしたら気が気では無い。成績のコントラストで消えてしまいたくなるはずだ。自分でなくてよかったと安堵した。
次に、与えられる加護は家族構成や環境も反映されているという点だ。評価基準は定かでは無いが、所謂名家には名家と言われる程度の“言葉だけでも強そうな”加護が与えられていた。
それを裏付けたのはキオラの存在だった。『光 不眠の剣 ヘイムダル』と記入されていた時、ミア=ツヴァインほどでは無いがどよめきが生じた程だ。ミア同様、本人は何一つ驚きさえしていなかったが。
最後に、
――光属性は白色を示し自由と解放を意味する。
――炎属性は赤色を示し闘争と本能を意味する。
――水属性は青色を示し鎮静と理性を意味する。
――闇属性は黒色を示し混沌と束縛を意味する。
其々の意味に近しい能力が与えられるそうだが、能力の詳細は公開されない。どうやら本能的に理解するらしい。こればかりは加護を授からないと分からない話なのではとコウキは思った。
「325番、アオイコウキ」
そしてついに自分の時が来たとコウキは覚悟した。眠気で緊張することもないが、大勢がいる中で恥を晒すような事はしたくないらしい。
「はい」
小さく返事をして、人混みをかき分けて円の中心へと向かう。宝石から半径10メートル離れた位置で人だかりになっていたため、今はグェン以外の人物がいなくて視界良好だ。
やや早足で歩き、忠義の石の前で立ち止まった。
思ったよりも緊張している事を、小さく震える指先が伝えた。
そして、宝石に触れたその刹那。
「――ッ!?」
ジジッ、と。
比喩などではなく視界に一瞬のノイズが走った。
体感にして1秒にも満たない時間。目にしていた全ての光景に砂嵐が流れ体の力が抜けそうになり、間髪入れずに全てが元に戻った。
慌てて首を振るが、それ以降は何も起こらなかった。
「今の、なんだ……」
疑問に思う事も多かったが、特に大きな影響を受けたわけではないため触れた手を離す事はない。透明な石から次第に青白い光の文字が浮かび上がる。
途中の内容は全ての生徒とさして変わらない。
アオイコウキの出生、ごく普通の両親の名までが浮かんでおり、いつも通りお約束の文章で締められる。
『――天上へ至る銘 彼の者に加護を授ける』
そう、途中までは全ての生徒と変わり映えしない光景だった。
「なんですか、これは?」
初めに言葉を発したのはコウキ本人でもキオラたち生徒でもない。グェン教頭だった。忠義の石を眺め、珍しく美丈夫は不穏な表情を隠しきれていなかった。
そして違和感は周囲に伝播し、ミアやキオラの時とはまた異なる騒めきが広がっていく。気にも留めず雑談に花開いていた人々が視線を一つにしていった。
「これって……」
異変に気づいたのはコウキ自身も同じだった。思わず漏れた懐疑的な一言がキッカケとなり、更に多くの人が話を始める。ざわざわ、ざわざわとそれは大きくなっていき、全員の思いを一つにするかのような一言がグェンから発せられる。
「文字が……読めない?」
『◯ ◯◯◯◯ ◯◯◯◯◯』
それは600年の歴史を誇るレイス学園でも異例の事態だった。大賢者が生涯をかけて残したとされる忠義の石に“特別な事”が起こっていたのだ。
「賢者バランが残したこの忠義の石に……前の道を行くと……いいや、それにしても」
驚きを隠せないグェンがぶつぶつと何かを呟いていた。額には冷や汗があり、この結果よりも彼の方が心配になるほどだ。しばらく教頭を眺めていると、役目を終えた忠義の石は文字を写す事を辞めた。
それが引き金となり我に返ったグェンが、額の汗を拭いながらセンター分けの髪をかきあげる。試さなければならない、そう言いながら視線を石からコウキへと向ける。
「……アオイコウキ君」
「は、はい」
「抜剣を許可する」
「と言いますと……」
「早く抜くんだ」
ただそれだけ告げるグェンにコウキは困惑した。意味がわからない。剣を抜く事がおそらく加護の力を見せろと言っている事までは理解できる。
しかし、方法が分からない。
そもそもグェン教頭が説明したがりの人間であることはこの1時間で明らかだ。だと言うのに結果だけを要求する姿勢が焦りを感じて信用できない。ファンタジー小説で言えば、まるでグェンはボロの出た悪人のような姿勢だ。
「お、俺には分かりません」
「もう既に持っているはずだ」
「ですから、抜剣の方法の話です」
「なんだって……?」
焦燥を隠せないグェンの顔が益々不安要素を刺激する。何かがヤバい、そんな気持ちを胸に教頭を見るとその美丈夫さえも鬼の形相に見えてきた。
おそらく彼は自分に敵意や不信感からなる何かを見ているのだろうが、それはコウキも同様であった。
「君は……どうやって合格したんだ?」
「えっ?」
「何故抜剣を知らない」
「………………」
「記憶はどうだ、両親の名は?」
「………………なぃ」
「出生は?地位は?この国の王の名は?」
「………………覚えて……ない、です」
「あぁ、今納得した」
コウキの立場は逆転した。
頭が真っ白になる。
ここにくるまでの明確なエピソード記憶が何一つ思い出せないのだ。ぽろぽろとこぼれ落ちるように、あったはずの記憶は振り返るたびに無くなっていく。
そんな姿を囲うように見る生徒たち。コウキが自分とは何かとそう思うたびに、彼らが何を見ているのか分からなくなる。
ここに居るのにここには居ない浮遊感。焦燥。離れそうになる自我をなんとか留めて、また離れそうになって胃液が込み上げ、そして再び留めた。
「アオイコウキ君。君は何だ?」
「俺は……俺です」
「そうか。では――」
この学校を立ち去れ、不当な入学者だ。そう言われてもおかしくない状況だと判断した。しかしグェンは言及する事もなくコウキの肩に手を置いた。
「君は君だ。それを忘れないことだ」
「えっ……」
「まずは抜剣してみせなさい。腕を宙に伸ばし、剣を想像するんだ」
冷静になったグェンが切長の眼を合わせてそう言うと、抜剣の際の基本的なジェスチャーをして見せた。宙を切るように横に振り払われたグェンの右手。そこから小さな光が発生した。
光は次第にその量を増やし、剣の形を作り出していく。そして瞬く間に輝きを無くし、虚空から刃を持った武器が現れた。
「これが精霊剣だ」
おぉ、と周りから感嘆の声が上がる。
グェンの剣は柄から鋒までが鈍い紫色をしていた。刃はやや波打ち、全長は85センチとロングソードにも近い堂々とした面構えで、異様な存在感は見ているものを誘い込む妖しさを纏っている。
「異名を名乗る際は決闘の時。私の剣はある意味で有名だからご存知の方も多いだろうけど、今回はマナーなので避けさせてもらうよ」
そして彼が柄から手を離すと同時、床に落ちそうになる精霊剣は光と共に消失した。
一連の流れを見ていたコウキは剣が自分の意思で現れる事を知り、右の掌を見つめる。忠義の石に触れる前と後とでは異なる感覚がある。おそらくこれが加護で、願えば現れると本能が自覚させた。
「さあ、やってみなさい」
「……分かりました」
願えば届く、信じれば現れる。都合の良い言葉を思い浮かべながら右腕を前に差し出した。光から剣が生まれる感覚をイメージする。集中して覚悟を決める。目を閉じて第六感に触れる。
呼吸を整える。
全身に鳥肌が立つ。
毛穴がぐっと広がる錯覚。
――来る。
ひゅう、と。手の周囲を小さな風が舞った。
それは光と成って徐々に刀身を形作っていく。
刹那に現れる剣の重量感、同時に光は弾け飛んだ。
顕現する、アオイコウキ唯一無二の精霊剣。
ゆっくりと目をあけ、それを確認した。
「これは」
「おめでとう、それが君の加護が成した剣だ」
再び周りの生徒から感心の声が上がった。おそらく新入生が抜剣するタイミングの速さでいえば校内一で物珍しかったのだろう。加えて、その特徴的なコウキの剣にも理由はありそうだった。
「真っ黒で、長身の剣?……でも、軽い」
「珍しい形だが、恐らく刀というものだろう」
「これが刀……」
「あぁ、私も見るのは初めてだが……加えて全てが黒いとは」
稀有な形や色である事はコウキにも想像ができた。軽量だが重厚感のある無名の精霊剣。色は深い黒、光の当たる部分は黒曜石のように鈍い質量を感じさせて、柄まで漆黒の刀だった。
コウキは一度振り上げた右手を下ろし、再びグェンに視線を寄せた。反応するように刀からコウキに視線を変えるグェンが「とまぁ」と会話を切り出した。
「アオイコウキ君。君の精霊剣には名前がないが、タイプを確かめる術は何も忠義の石だけではないんだ」
「俺のこの刀について知ることができるという話ですか?」
「そう、例えば
「乱共鳴?」
今日は新しい単語が多い上に疑問も多い。幸いにも頭の回転が遅いわけではないコウキは、思考をリセットさせてグェンの話を聞くことにした。彼としても自分の精霊剣について知れるのは今後の事を考えて必須案件だ。
「古くから4つの
「なるほど、理解しました」
「早くて助かるよ。乱共鳴の条件は一つだけだ。自分の精霊剣に他人が肌で触れた時、同じタイプだった際それは起きる」
「今からこの刀に教頭が触れて確かめる、と」
「そうだ。私のタイプが闇タイプ、つまり
ここでグェンが抜剣を許可した理由を悟る。
乱共鳴を確かめる事でそのタイプだけでも判明させようとしていたのだ。コウキは変に疑っていた自分を少し責めたくなった。
そしてコウキの精霊剣は本来無名ではない。
表示された言語が解読不能なだけであって加護自体はしっかりと受けている。この黒い刀がその証拠と言える。故にタイプは存在するし能力も存在するだろうとグェンは考えた。コウキ自身もまた、そこに理解を示した形となる。
「とまぁ、触れて確かめて見るが……いいかね?」
「はい、よろしくお願いします」
「では行かせてもらう。乱共鳴は脳内で微振動が起こるような感覚だ。人的被害は無いが、少し不愉快であることは理解してもらおう」
それでは、とだけ伝えてグェンがコウキの刀に触れる。
手を伸ばし長い頭身へと右手を近づけていく。
触れる刹那、異変は起こった。
「――ッ!?」
「――ッ!?」
視界が大きく歪んだ。
音もなく生まれた幻覚のような違和感。
くらくらと横に揺れて、偶に宙に浮く錯覚。
貧血にも似た症状のそれはコウキとグェンの両者を蝕んだ。
直ぐにグェンがゆらめく視界を振り払うようにして剣から手を離す。
「――、今のが」
「あぁ、乱共鳴だ」
「思ったよりも不愉快ですね。体に異常はなさそうですけど」
「安心してくれ。普段生活していて他人の剣に素手で触れ合う機会もないから、今後は滅多に経験することもないはず」
冷や汗を拭いながらグェンが話をすると、再び自分の刀を見る。引き込まれる漆黒が光を吸収反射しながら輝いている。グェンもまたその光景を見ながら話を続けた。
「刀は刃が片方にしかなく、刃でない方で切ることを峰打ちと言うそうだよ。鋒は鋭利で刺突にも優れるが、平たく薄いので両断する方向がセオリーだろう」
「そうですね、おそらく定石通りの使い方を元にタイミングや技術を……」
ん?と。
疑問を抱いたのは他でもない、コウキだ。
「えっと……教頭?」
「どうした、アオイコウキ君」
「これ、どっちが刃ですかね。鋭利な部分が見つかりません」
「――っ!!」
ともあれ、コウキの精霊剣は闇で確定し選定式は続くのであった。
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