第48話 喪失の終曲

Side:シナグル・シングルキー


 めんどくさいが強制依頼だ。

 グリフォンの100頭ぐらいの群れが出た。

 普通はここまでの群れにはならない。

 ボスはキンググリフォンらしい。


 空がグリフォンでいっぱいだ。

 街まで行って人間を襲うつもりらしい。

 街に人間が溢れていることを理解している。

 だが、頭がいいだけに予測がし易い。

 通り道がばっちり分かる。


 現在の俺のステータスはこんなだ。


――――――――――――――――――――――――

名前:シナグル

レベル:1024/65536

魔力:13926/13926

スキル:1/1

  傾聴

――――――――――――――――――――――――


 レッサードラゴンとか狩りまくったからな。

 ダンジョンでレッサードラゴンを定期的に狩ってくれと頼まれている。

 良いギルドの稼ぎになるそうだ。


 たまにエルダーとか現れるけど、サクっと殺している。

 核石も何千個と売り払った。

 正直、金はもう要らない。


 強さも要らない気がする。

 魔力は欲しいからレベルは仕方ないけど。


「ザコは他の冒険者に任せてあたいたちはボスをやろうか」


 ソルからの提案だ。


「ええ」


 マギナが杖をトンと地面に打ち付ける。

 地面から石の蔦が伸びていってキンググリフォンに絡みついた。


「キェェェ!!」


 キンググリフォンが叫ぶと、石の蔦は砕け散った。

 まあ、王の名前を冠しているだけあるか。


 俺はジャンプ一閃。

 キンググリフォンを切り裂いた。

 レベルが1000を超えると、普通の物理攻撃が必殺技だ。


 キンググリフォンは辛うじて避けて、被害を片方の羽だけに留めた。

 だが、墜落して、空は飛べない。

 地上ではソルが待ち構えている。


「【一撃必殺剣】」


 ソルに美味しい所を持って行かれたな。

 さて、逃げてないザコグリフォンを討伐しますかね。


Side:マニーマイン


 Aランクからの降格を掛けた依頼を選んでいたところに、強制依頼がきた。

 依頼の内容はAランクのグリフォンの群れ。

 絶対に駄目。

 でも拒否すると確実に降格でしょうね。


 武器はないけど出ない訳にはいかない。

 後ろの方で見物してれば。


 現場にはシナグルがいた。

 Sランクのソルとマギナを従えている。


 まだヒモの詐欺師をやっていたのね。

 マギナの拘束魔法は破られた。

 どうするのか見ていたら、シナグルが大ジャンプ、キンググリフォンに痛撃を食らわせた。

 嘘っ。

 私達だと、あの高さから落ちたら無事では済まない。

 何が起こっているの。


「シナグルはきっと実力を隠していたんだ」


 バイオレッティはそう言うけど。

 じゃあ、シナグルがSSSランクってのは本当なの。

 SSSランクがこの国に二人といないのはみんな知っている。

 じゃあ、モールス様がシナグル。

 えっ、そんな。

 頭の中が真っ白になった。


 私達はSSSランクになる素質を持っていた人を首にしたの。

 嘘、嘘、嘘、嘘という言葉で頭の中が一杯になる。

 もう何が本当か分からなくなった。


 バイオレッティも恥ずかしかったのかグリフォンを追うふりを見せて、私達は村に向かった。

 グリフォンがいない場所を選んだのにそこにはグリフォンがいた。


 ただ、冒険者がたくさんいる。

 でも装備を見る限りみんな格下。

 Cランク辺りね。


 グリフォンが家を壊し、中の人に襲い掛かろうとしている。

 他の冒険者のお前らが一番ランクが高いんだから行けよという無言の圧力。


「バイオレッティ、ここで逃げだら資格はく奪ね」

「くっ、分かってる。とにかく防御だ」


 家の中に飛び込み、村人への盾になる。

 武器はないのだから体で防御するしかない。

 くっ、グリフォン如きが生意気よ。

 こっちは5人いるのよ。

 本来なら私達の圧勝。

 だけど、睨んだぐらいじゃグリフォンは逃げない。


 私は自然と後退っているのに気づいた。

 腰が引けている。

 パーティメンバーは全員がそう。


 私達は逃げた。

 村人を残して。


 シナグルの幻が見えた。

 幻は追いかけて来たグリフォンの首を一太刀で刎ねる。

 そして、私達を引きずって、村人の所に戻した。

 気づいた、幻じゃないって。


「シナグル、俺達を馬鹿にしにきたのか?」


 バイオレッティがそう吐き捨てるように言う。


「いや」

「恨んでないのか」

「何を? あの時の俺は未熟だった。何も分かっていなかった。もっと視野を広げるべきだったんだ。過ぎたことだけど。お前らのことを恨んだことはない。ただ声が掛かるのを待ってた」

「済まなかった」

「俺に謝る必要はない。謝るなら失敗した依頼の依頼主だ。お前ら、ギルドで評判が最悪だぞ」


「俺達はお前が恨んでるって思ってた。違うんだな」


「ねぇ、シナグル、私との関係はやり直せるの」


 私は聞いてみた。


「マニーマインのことを好きだと俺は思ってた。でも違った。マニーマインに対して思っていたのは憧れだった。強さと行動力に惹かれたんだ。恋じゃなかった。もうマニーマインとは関係ない」

「何でそんなことを言うの」

「分からないのか。本当の報酬が何なのか。それを放棄したお前らの罪深さが」

「本当の報酬? なんのこと」

「後ろを見てみろよ」


 後ろ?

 後ろを見ると無事を笑顔で喜び合っている村人がいるだけ。

 そして中には私達を睨んでいる人もいる。


「ええと」

「彼らの笑顔が最高の報酬なんだよ」


 そうよ。

 私は笑顔を守りたくて、そして、感謝されたくて冒険者になったんだった。

 忘れていたのね。

 ああ、いまさらよ。

 私達は奴隷落ちする。

 いつからでしょう、それを忘れたのは。

 そこから間違っていたのね。


 モールスの伝言の意味が分かった。

 物に感謝して大事に使えということね。

 基本の心構えを忘れていたんじゃ技も鈍るわね。


 モールスからの魔道具の供給が途絶えたから、落ちぶれたと思っていたけど、そうじゃなかった。

 やり直したいけどもう無理

 全て終りね。


 私達は借金奴隷になった。

 何でこんなことに。

――――――――――――――――――――――――

 ここで第1部が終わりです。

 バイオレッティ達が惨めに死んでいくエンドも考えたんですが、奴隷落ちエンドにしました。

 そして、ほっこりじんわりエンドを最初に書いたんですがボツに。

 第2部はほっこりじんわり8割の、無双が2割で考えてます。

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