第8話 変わりなし

Side:マニーマイン

 シナグルが抜けたパーティはいつもと変わりない。

 そうよ。

 何の役にも立ってなかったじゃない。


「マニーマイン、食料の買い出しに行ってくれないか」


 リーダーのバイオレッティから頼まれた。

 増えたのはこういう雑用。

 役に立たなかったは言い過ぎかも。

 ちょっとは役に立ってた。


 買い物リストを持って冒険者ギルドに行くと、そこは活気溢れていた。

 駆け出しが多数たむろしている。

 これなら大丈夫そう。


「生活依頼を出したいの。買い物の依頼よ」

「承りました」

「依頼料は銅貨10枚ぐらいで良いかしらね。相場より安かったら追加を払う」

「ではそれも依頼票に書き込んで下さい」


 書いた依頼票をFランクの掲示板に貼る。

 すぐさま依頼票が手に取られた。

 そして駆け出しのパーティが買い物をするために走り出す。

 私もあんな時期があったわね。

 懐かしいわ。

 あの時はシナグルも役に立ってた。


 生活依頼がいくら上手くてもそれじゃ暮らしていけない。

 虫の出るような安宿に戻りたいとは思えない。


 30分しないうちに買い物が終わった。

 シナグルがいなくっても大した手間じゃないわね。

 品物は相場より安くて高品質だった。


「私はCランクパーティ銀色の閃光のマニーマインよ。あなた達は?」

「斜断の一撃です」

「良かったから、次は指名依頼を出すわ」

「はい、お願いします」


 買った物を背負い袋に入れて、持てない分は運搬依頼を出した。

 パーティが泊っている宿に到着。


「早かったな」

「これお釣り」


 バイオレッティが買って来た物を検査する。


「マニーマインは有能だな。早いうえに、安くなった。シナグルのグズとは比べ物にならない」

「買い物なんて生活依頼を出せば良いのよ。何も自分でやる必要はないわ」

「だよな。シナグルなんて全然役に立ってない。それどころか足を引っ張っていた。なあそう思うだろ」

「私が有能なだけ。効率よくいかないと」


 自分で一生懸命やる姿勢は見てて好感が持てるけど、そんなのアピールされたってね。

 何事も効率が必要よ。

 効率よく大金を稼ぐ、これが第一。


 討伐に出た。

 行き帰りの全行程が1週間の旅。

 野営の時の料理番を誰にするかで揉めた。

 女性陣がみんなでやることになった。

 シナグルがいればと少し思ったけど、みんな口には出さない。


 次は携帯食中心にしましょう。

 携帯食も馬鹿に出来ない。

 スープの携帯食はお湯に溶かすだけだけど、かなり美味しいのを知っている。

 干し肉も、美味しい店は美味しい。

 穀物バーもきっと美味しい店があるはず。

 依頼を出せばたぶん1発で分かる。


 なんだ。

 シナグルがいなくってもなんの問題も起きない。


Side:シナグル


 あー、マニーマインは連絡してこないな。

 冒険者ギルドに伝言を残したんだけど。

 バイオレッティ達の説得に時間が掛かっているのかな。


 今なら、俺は雑用係兼、専属魔道具職人になれるのに。

 そうだ。


 冒険者ギルドは久しぶりにきたわけでもないのになぜか懐かしかった。


「伝言をお願いします」

「大銅貨5枚です」


 伝言依頼票に書き込んでいく。

 送り主、シナグル。

 受取人、マニーマイン。

 文言は『俺、魔道具職人の真似事ができるようになった』。


「あの前に出した伝言はマニーマインに見て貰えたか調べて」

「ちょっとお待ちを」


 受付嬢が記録を調べる。

 戻って来た。


「はい、届いてます」

「で返事は?」

「ございません」


 返事ぐらい寄越してもいいのに。

 でも、マニーマインはめんどくさがりな所があるから。

 あんまり、しつこく伝言をすると嫌がられるから、しばらくはやめておこう。


 そうだ。

 攻撃用魔道具もたくさん作っておこう。


 まずは火球だな。


 『fireball』で歌は『ラララーラ♪ララ♪ララーラ♪ラ♪ラーラララ♪ララー♪ララーララ♪ララーララ♪』だな。

 俊足とかあったら良いかも。


 『fleet footed』で歌は『ラララーラ♪ララーララ♪ラ♪ラ♪ラー♪、ラララーラ♪ラーラーラー♪ラーラーラー♪ラー♪ラ♪ラーララ♪』だな。


 がわを作るが一苦労だ。

 火球の魔道具はピストル型。

 昔からこうと決まっている。

 木で玩具感のあるピストルを作る。

 核石と溜め石をはめ込んで、導線で繋ぐ。

 核石から導線を伸ばして引き金に取り付ける。

 この引き金は魔石の粉が入っている。

 引き金に指を置いて起動の動作をすると火球が出る。


 俊足の魔道具は足環型だ。

 普通の紐に穴を開けた核石と溜め石を繋ぐ、そして導線を繋ぐ。


 核石に穴を開けるのは大変だ。

 歌を入れてからだと核石の歌が壊れてしまうから、穴を開けてから歌を刻む。

 なので普通の俊足の魔道具は、ネット状の紐で核石と溜石を固定する。


 それでも良いんだけど、穴を開けてみたかったんだ。

 今後もこういう工作が必要になるかも知れないから。


 日々勉強と工夫だ。


 師匠のマイストに頼まれた点火の魔道具のがわを作る。

 形は着火用ライターにそっくりだ。


 簡単な形だから、そんなに手間ではない。

 材料は四角い板と1センチぐらいの厚みの輪と棒だ。

 1センチぐらいの厚みの輪は中が空洞な木があるから、これを輪切りにするだけ。

 四角い板に核石と溜石をはめ込む場所を作るんだけど、四角い板は二つ用意する。

 ナイフで中を削って二つ合わせるのだ、そして糸を巻いて固定する。


 まあそんな感じで火点けの魔道具のがわを作る。

 マニーマインは早く返事をくれないかな。

 いつでも俺は準備ができている。

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