第4章 最強の男

第13話 スピード計測の原理

Side:マギナ

 私はマギナ。

 天才魔法使い。

 一応、女。

 だけど、魔法使いに性別など関係ない。


 私にできない魔法はないと自負している。

 全属性魔法のスキルがなくても恐らく可能だと思う。

 なぜなら、スキルに頼って魔法を使うのは3流も良い所。

 魔力を自在に操り、無詠唱で全属性の魔法を繰り出してこそ1流。

 私は超1流だけどね。


 ふむ、魔法の速度を上げるには、風の魔法を重ねる。

 魔力で魔法の後ろを押す。

 他に手は。

 いっそ転移させれば。

 いや、転移は少し構築に時間が掛かる。

 本末転倒だ。


 狭い所に力を集中させると一点から物凄い勢いで噴き出す。

 これを魔法に応用すれば。


 ところで、魔法の速度はどうやって測るの?

 距離を測っておいて、到達時間から計算する。

 じつにめんどうね。

 1秒より細かい時間を測る時計がない。

 なぜないのよ。

 時計職人、1流の仕事をしろ。


 物のスピードを測る魔法。

 何属性になるのか。

 物の動くスピードを測る原理は?

 くっ、分からない。

 こんなのでは超1流を名乗れない。


 母の形見のペンダントを触る。

 これは本来ならオルゴールの魔道具なのだけど、核石が壊れていまは使えない。

 くっ、落ち着くオルゴールの音があれば、こんな難問とは呼べないものなどすぐに分かるのに。


 私は、文献を漁り始めた。

 3日、漁ったがそれらしい文献はない。

 腹が鳴る。

 そう言えば液体以外のご飯を食べてない。


 ふらふらと街へ出る。

 くっ、こんな時に限って食べ物の屋台がない。

 あったが、商品の串肉は焼けてないみたい。

 大人しく屋台の前で待つ。


 子供がフラフラと歩いてきて倒れた。


「君、どうした?」

「お腹減った」

「店主、この者に串肉を」

「まいどと言いたいが悪いことは言わないやめときな」

「なぜ?」

「そんなのだとたかられるぜ。ほら言わんこっちゃない」

「ごはんくれるの」

「ごはん」

「ううっ」


 別の子供がたくさんきて指を咥えたり、潤んだ目で私を見てる。


「店主、ありったけ、肉を焼け」

「その考えは嫌いじゃないが、そんなんじゃあんた破産するぜ」

「私の金よ」

「まあそうだが」


 肉が次々に焼かれ、子供達が凄い勢いで食べていく。


「いいか。魔法を極めるのだよ。そうすれば、金など腐るほど手に入る。使いきれないほどね。飯も腹いっぱい食える」


 子供達は食いながら盛んに頷いている。

 こうすれば魔法使いが生まれるでしょう。

 一人でも魔法使いが生まれれば、魔法が発展する。

 速度を測る魔法を生み出す者が生まれるかもね。

 他の誰も考えつかないような魔法も。


「売り切れだ。もう材料がない」

「あっ、食うのを忘れたてた」

「あんた良い奴だな」


「金ならある。次の屋台を探すよ」

「見てたよ」


 男が近寄ってきてそう言った。


「あんたも浮浪児に恵むなというつもりか」

「偉い。あんたは偉い」

「偉くはないさ。魔法使いの裾野を広げる活動よ。この浮浪児の中に一人でも魔法使いが生れて、魔法の真理を解き明かしたら、素敵なことだと思わない」

「別に理由なんて良いさ。行為が偉いんだ。俺はシナグル。魔道具職人だ」

「マギナ、超1流天才魔法使い」


「パンを持っているから一緒に食おう」

「ご相伴にあずかるとしましょう」


 二人でベンチに腰掛けてパンを食う。

 パンには野菜、肉、チーズ、ウインナーが挟まれていて、美味い。

 食事には気を使わない方だが、これは美味い。

 白いソースが独特。

 食べたことのない味。

 なんでしょう。


「この白いソースの作り方を知っている?」

「俺が作った。卵黄と塩と酢を混ぜ、少しずつ油を混ぜる。この時焦らずにゆっくり入れていくのがコツだ。かき混ぜるのは大急ぎでな」

「ふむ、あなた物知りね」

「まあそれなりにだな」


「分からないと思うけど、聞きたいの。速度を測る原理は何だと思う?」

「そんなのドップラーの原理でしょ。近づいてくる物と逃げていく物では、音が発せられても音の高さが変わって聞こえるんだよ」

「ほう、【無属性魔法】、魔力放射。ふむ、魔力を当てると速度によって返ってくる波長が変わる。これは凄いことを聞いた。報いたい。どうすれば良い?」

「そうだな。速度を測る魔道具の入手依頼を出してくれ」


 魔道具ギルドの受付は閑散としている。

 仕事が少ないのね。

 冒険者ギルドだともっと盛況だから。


「スピードを測る魔道具を作ってほしいのですね。この依頼だとランク無しになります」

「依頼金は金貨10枚出しましょう」

「分かりました。では手数料として金貨1枚を余分に頂きます」


 依頼の掲示板の目立つ所に依頼票を貼る。

 なぜランク外はFランクの場所なの。

 このような超難問はSランクの場所に貼るべき。


 シナグルの手が伸びて、私が貼った依頼票を剥がした。

 この男なら、この依頼も容易いのでしょうね。


「シナグル、魔道具を作る所が見たい」

「いいぜ」


 魔道具の工房はわりとシンプルだ。

 道具もさほど多くない。

 ナイフと漆喰とヘラとハサミと接着剤。


 そして、シーソー型の魔道具。


「ラララ♪ララーラーラ♪ラ♪ラ♪ラーララ♪、ラーラーラ♪ラララー♪ラーラ♪」


 シナグルが歌を歌ってシーソーを押す。

 そして、攻撃用魔道具のがわに核石と溜石をはめ込んだ。

 導線を繋いで、魔道具を空の鳥に向けて使う。


「できたぞ」

「大事に使わせて頂くわ」


 速度を測る魔法は既にあるが、魔道具でできれば便利。

 二つ同時に魔法を操るのは骨が折れるから。

 この魔道具もいずれ壊れる。

 シナグルが生きている限りは直してくれるのでしょうね。

 シナグルが死んだら、この魔道具も形見になる。

 私は知らず知らずのうちにペンダントを弄っていた。


 なぜ人は死んでいくのでしょう。

 この男には死んで欲しくない。

 よし、鍛える。


「シナグル、魔法の試し撃ちにダンジョンに行きたい。嫌とは言わないでしょうね。納品した魔道具を試さないと、受け取れない」


 そう理由を付ければこの男は断らないでしょう。

 この男に魔法スキルが生えたら良いなと思う。

 この男なら私のライバルになれそうね。

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