第7話 森の中の一軒家

「つきました。ここがご紹介した物件です」


 宿屋から歩いて30分あまり。一軒家を所望する『鋼の魔女』ことエルフのリサにおすすめ物件を紹介する。銀貨一枚の賃金で。


 その場所は距離にして約3キロほど。森林の中にある一軒家だった。猟師を営む老人が、3年前までひとりで暮らしていた住まいだ。

 所有者は老人の息子さんだけれども、もう20年近く前に街へと引っ越し、指物さしもの職人をやっている。


 ギィィィィィィィ……


 俺とリサは、きしんだドアを空けて一軒家に入る。

 物件は2階建ての1LDK。屋根裏付き。しかもこの世界では珍しい風呂までついてある。


「どうです? 部屋の中もほとんど傷んでいない。なかなかの物件だと思いますけど?」

「ふーん。悪くないじゃない」


 リサが締め切った窓をガラガラとあけると、家の中に木漏れ日が入り込んで来て、ふわりとまったホコリがキラキラと輝いている。


「うん。森の中なのに日当たりも悪くない」

「そりゃあもう! 前に住んでいた猟師がしっかりと開拓をしていた物件ですから!」


 とっとと仕事を終えたい俺は、ひたすらに物件を褒めちぎる。

 ホンネを言ってしまうと、こんな不便なトコロ、とても住んでらんないけれども。


「決めた! ここにするわ! 金貨2枚までは出すって持ち主に交渉してくれないかしら?」

「ご成約、ありがとうございます!!」


 やた! 契約成立だ。あとは指物職人のせがれに条件を相談すればいい。こんな不便な一軒家、金貨2枚なら、ふたつ返事でオッケーしてくれるはずだ。


 労働時間約1時間で銀貨1枚なら、かなり美味しい仕事だ。


「さてと、今度は生活用品を買ってきてちょうだい! 入用なものはここに書いてあるから!」


 そう言うと、リサは控えめな胸元から4つ折りにした紙をとりだす。


「は? いやいやいや、そこはご自身でやってくださいよ!!」


 さすがの無茶振りに、俺は首を左右にブンブンと振る。


「あら、たったこれだけの仕事で銀貨1枚もらおうだなんて、いい根性してるわね」


 そう言いながら、リサは「ぷちん」と銀の髪を数本引き抜く。

 まさか、この女、俺のことを縛り上げる気か?


「わかりました。わかりました。暴力反対! 買ってきますよ、買ってきますってば」

「そう。だったら、さっさとお願いね。要件のメモは巾着に入れてあるから」


 は? いつのまに??

 俺は慌てて巾着を開く。ほんとだ、さっきリサの手元にあった紙切れが俺の巾着の中にしっかりと入っている。


「それじゃ、今日中にお願いね」

「は? もう日が陰ってきてるんですけど? いくらなんでも無茶振りじゃないか!?」

「いいから! さっさと行く!!」


 リサは銀髪を抜く仕草をする。


「わかった! わかった!! わかりましたよ! 行けばいいんでしょう! いけば!!」


 俺は、ブツクサと言いながら、大急ぎで一軒家を飛び出した。

 急がないと、もたもたしてたら完全に日が暮れてしまう!!

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