僕は女が好きだ!って言ったら変態扱いされた世界で、強面騎士団長が溺愛してくるんだが?!

由友ひろ

第1話 ここはどこ?

「ねぇ、翔月。来週日曜日なんだけどさ……」

「来週?来週は、ミナと映画に行く約束してるけど」


 事後のマッタリした時間、できれば今はあまりベタベタして欲しくない。そんな気持ちが勝ってか、つい素っ気ない口調になってしまった。


 女の子の柔らかいおっぱいとか、プリンとしたお尻とか、全体的にプニプニした感触は大好きだし、大抵は誰とでも腕組んだり腰を抱いたりしてくっついていたいタイプなんだけど、唯一放置しておいて欲しい時間ってのがある。


 まさに今がそれ。いわゆる賢者タイムってやつ。

 男なら、まぁ理解してもらえるんじゃないか?


 僕は相川翔月あいかわかつき、二十歳の普通の大学生だ。たまに大学に行き、サークル活動とバイトに忙しい、いたって普通の大学生だと自分では思っている。

 友達も、男友達は数少ないが、女友達はけっこう多い。自分で言うのもなんだけど、二重の大きい目に可愛らしい顔立ちは、中性的でそこそこいけてると思う。かっこいいよりは可愛らしいタイプのせいか、女子に警戒心を与えないよねってよく言われる。

 だからって無害な訳じゃなくて、据え膳は美味しくいただいちゃうし、女友達とセフレの境界線は限りなく曖昧だ。


 経験人数はそれなりにあるけど、彼女がいたことはない。


 でも、別に二股とか三股とかしている訳じゃないし、「好き」って言ったり、ましてや「付き合おう」なんて言ったことないから。

 色んな女の子と仲良くしているのもオープンにしているから、みんな僕はそういう奴だってわかってるんだって思っていた。


「は?何それ」

「何で?駄目なの?ミナとは、だいぶ前から約束してるし、アイちゃんに報告しなきゃいけない理由ないじゃん。女の子同士の友達に、わざわざ違う友達と遊びに行くこと言わないでしょ?彼氏彼女でもあるまいし」

「ちょっと、意味わかんないんだけど」


 アイちゃんはベッドから下りると、床に落ちていた下着をサッサと身につけ、水色の花柄ワンピースを一人で着る。いつもは、「ファスナーがあげられないからお願い」とか言いながらおねだりしてくるのに、全然一人で着れるんじゃん。


「もう帰るの?気をつけてね」

「まじ、最低!」


 アイちゃんは、枕を僕に叩きつけてラブホテルの部屋から出て行ってしまった。


 だってさ、ご機嫌とる意味もわからないし、まだ僕は素っ裸なのに追いかけて行くのもね。

 第一、付き合ってるって勘違いさせるような態度をとったつもりもないんだけどな。まぁ、最近は連チャンでアイちゃんとラブホテルには来たけど、たまたまそんな流れになったというか、女子に「(ラブホ)行く?」って聞かれたら、断る男子はいないんじゃないかな。


「ダル……ッ」


 素っ裸でベッドから下り、ガラス張りで丸見えの風呂場へ行く。ベッドサイドに人はいないから、無駄に丸見えなだけだけどさ。それにしても、一人でラブホテルの風呂を使うのは初めてだな。


 お湯をためるのも面倒くさいから、シャワーでサッと汗を流した。洗面台でドライヤーをかけ、軽く髪型をセットすると、着てきた洋服に袖を通した。休憩で入っただけだから、そろそろ出ないと延長料金が発生してしまう。


 スマホと財布をポケットにしまうと、一人でラブホテルから出た。

 もう最終電車は終わった時間だからか、ラブホテル街を抜けると人通りはあまりなくなる。


 家までは二駅だから、タクシーを使うのももったいなくて、僕は黙々と歩いた。


 途中、歩道橋を上っている時スマホが鳴った。アイちゃんかと思って見たら、ミナからの着信だった。


「はいはーい、ミナ?どした?」

『あれ?翔月まだ外?』

「そだよ。今までアイちゃんと遊んでた」

『アイと?そういや、さっきアイから不在着信きてたな。なんだろう?』

「なんだろうね」


 僕と映画に行くことに対しての電話だろうけど、知らないふりをしてとぼけた。


『それでさ、映画なんだけどね』


 ミナが話しだしたその時、僕の背中に衝撃があった。強く押され、僕の身体が宙を浮く。

 僕は歩道橋の一番上、これから階段を下りようとしているところだった。


 全部がスローモーションみたいに見え、僕は手すりを掴もうと手を伸ばしつつ落下した。階段を転がり落ちている時、僕の視界には水色の花柄ワンピースのスカートだけが焼き付いていた。


 ★★★


 身体中痛くて目が覚めた。

 真上に見える天井には見覚えがなく、ここがどこだかわからなかった。


 僕は歩道橋のてっぺんから突き落とされて……。あのスカートって、やっぱりアイちゃんだよな。あそこから突き落とすとか、下手したら死んでたし。いや、逆によく生きてたよな。それにしても、さっきまでキスして抱き合ってた男に、よくあんなことできるよな。


 まぁ、二度とアイちゃんと遊ぶことはないな。


 それより、ここはどこだ?ここは病院のベッドかな?


 首だけを横に向けると、そこには金髪の男がいた。


「ウワッ!」


 あまりに男が至近距離にいたものだから、びっくりし過ぎて飛び起きてしまい、身体に激痛走り悶絶する。


「どうした?!大丈夫か?!」


 ベッドにつっ伏して寝ていた金髪男が身体を起こし、その三白眼気味の赤い瞳と視線が合った。


 なんていうか、顔の造りは整ってはいると思うのだが、いかんせん顔が怖い。幼児ならば号泣すること間違いない迫力がある。


「ハ……ハロー」


 外国人だからと言って、必ずしも英語の国の人とは限らないだろうが、他の言語を知らないのだからしょうがない。かといって、英語が堪能という訳では全くない。

 というか、男が日本語を話したことにも気づかないくらい、この時の僕はかなりテンパっていた。


 男はベッドの横に椅子を置き、それに座っていたようだが、そのままの体勢で眠り、ベッドにつっ伏してしまったようだ。

 中年までいかないが、三十は超えているだろう。シャツを着ていてもわかる筋肉質な身体で、首筋とかチラッと見える大胸筋とかムッキムキだ。座っているからわからないが、多分身長も高そうだ。


 看護婦……にはどうやっても見えないが、ベッド横にいたということは、僕の看護をしてくれたんだろうか?


「あの……」


 ここはどこで、僕は何でここにいるんですか?と英語で聞こうとしたが、単語すらでてこない。


 一応、大学受験をして、有名所ではないにしろ補欠合格したんだけどな。授業でも英語の選択してるけど……、出席したの一日だった。サークル活動とバイトで忙しかったし、他にも女の子達と色々……。


 自分に自分で言い訳しつつ口ごもっていると、男が自分を指さして口を開いた。


「カイルだ。俺の名前はカイル・グリーンヒル」


 俺の名前?なんだ、日本語じゃん。バリバリの外国名だけど、日本語話せるんだ。だよな、ここ日本だし、日本語で普通に話せば良かったんだ。無駄に焦っちゃったじゃん。


「カイルさん?僕は相川翔月。カツキです。僕を助けてくれたのはカイルさんですか?ここは……病院じゃないですよね?」

「助けたっていうか、まあ、道端に倒れていたから、騎士団診療所に運んだ。手当をしてくれたのは、診療所の医師で、そこには置いとけないから、俺の部屋に連れてきた」


 キシダン診療所って病院に運ばれたのか。入院設備がないから、カイルさんの部屋に連れてきてもらったと。やっばりカイルさん恩人じゃん。保険証持ってなかったけど、治療費とかどうしたのかな?カイルさんが立て替えてくれたんだろうか?


 などと色々と考えていたら、カイルさんが何故か慌てだした。


「いや、別にやましい気持ちがあって連れ込んだ訳じゃないから!気絶している相手に手を出したりしないし。そうだ、洋服!いや、洋服は治療の時に看護婦が着替えさせていたから、脱がせてない証拠にはならないか」


 何をそんなに慌ててるんだ?別に男同士で気にすることでもないだろうに。見知らぬ女の子を拾っちゃたら、そりゃ身の潔白を主張するかもだけど。


「別に気にしないですよ」

「え?」

「男同士じゃないですか。別に裸見られたってなんてことないでしょ」

「……」


 カイルさんの口がポカンと開き、彫像になったかというくらい動かなくなってしまった。


 もしかして、宗教上の理由とかで同性にも肌を見せたらいけないとかあるのかな?そうだとしたら、カイルさんのシャツ、だいぶ前が開いちゃってるけど、いいのかな?


 この時僕は、ここが日本でたまたま外国人のカイルさんに助けられたんだくらいに思っていた。




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