封印
効いている、効いている。
まあ、リンもリンで辛そうだが。
あれだけ霊力を込めて吹けば、そうもなるか。
『わりと無茶してんな』と溜め息を零すと、俺は祭壇へ手を伸ばした。
今のうちに準備を終わらせよう、と思って。
御神体……正解に言うと、ソレになる予定のものだが。
とにかく、子狸と人間を繋げる媒介はこれか。
木製バージョンの御札に名前を掘っただけの代物だが、確かに物凄い力を感じる。
『人の願いや祈りが込められているな』と分析しながら、俺はソレを手に取った。
封印の媒介として使えそうなことを確認し、急いで床に置く。
そして、自身の人差し指を軽く噛みちぎると、御神体の周りに文字や記号を描いた。
「ぐっ……させる、ものか!」
封印のための陣だと察したのか、子狸は俺目掛けて炎を放つ。
が、リンの風で掻き消されて終わり。
『ならば!』と結界や封印の要である悟史を襲うものの……こちらも返り討ちに遭った。
いよいよ為す術がなくなってきた子狸は、
「っ……!斯くなる上は……!」
今ある霊力を全て振り絞って、納屋ごと潰しに掛かった。
物理的に。
こんな大技を……現世に直接干渉するような行為をすれば、本人も無事じゃ済まないのに。
『穢れが溜まって、最悪悪霊墜ちだ』と考えつつ、俺は冷静に陣を書き上げる。
最後にロウソク立てを御神体の横へ置き、顔を上げた。
「リン、子狸を連れてこい!」
「おや?やっとかい?遅かったね」
クスリと笑みを漏らし、リンはもう一度笛を吹いた。
先程よりも強く、長く。
すると、天井から何か降ってくる。
リンはソレを『はい、パス』と言って蹴り、陣の中に放り込んだ。
「おまっ……マジで容赦ねぇーな」
グッタリしている様子の子狸を見下ろし、俺は苦笑する。
と同時に、待機していた悟史へ視線を向けた。
「封印の儀式を始めろ!」
「おっけー」
人差し指と親指で丸を作り、ニッコリ笑う悟史は御札を構える。
「我は土の加護を授かりし、春月の遣い。内と外の境界を隔てる者。全てを封じ、縛り、押さえつける力を今ここに────彼の者の存在を、自由を、意思を禁じたまえ」
厨二病の好きそうなセリフを淡々と述べ、悟史は一歩こちらへ近づく。
と同時に、御神体の横へ置いたロウソクは勢いよく火柱を上げた。
まるで、悲鳴を上げるかのように。
恐らく、子狸の霊力が大き過ぎたのだろう。
でも────何とか、御神体へ封じることに成功する。
わりとギリギリだったな。やっぱ、有り合わせの道具で封印するのはリスクが高かったか。
『危ねぇ……』と危機感を抱きながら、俺は子狸の宿った御神体を持ち上げる。
「悟史、使った御札をコレに貼れ」
「了解」
投げ渡した御神体を見事キャッチし、悟史は御札を貼る。
『こんな感じかな?』と尋ねる彼に、俺はコクリと頷きロウソクの火を消した。
「とりあえず、外に出んぞ。子狸のせいで、倒壊寸前だ」
中からでも分かるほど傾いた納屋に、俺は眉を顰めた。
「チッ……風来家の人間も運んでいくとなると、マジで余裕ねぇーな」
「いやぁ、すまないね」
眠っている部下の襟首を掴みつつ、リンは『引き摺ってもらって構わないから』と述べる。
人数が多いので、いちいち担いだり下ろしたりするのは大変だと判断したようだ。
もしくは、自分がそんな重労働をやりたくなかっただけか……。
『こいつの場合、後者っぽいな』と肩を竦め、俺は近くのやつの腕を適当に引っ張った。
途中で脱臼とかするかもしんねぇーが、納屋の下敷きになって死ぬよりマシだろ。
などと考えながら、俺はリンや悟史と共に眠った奴らを運び出す。
そして、何とか全員脱出を終えた途端────納屋は倒壊した。
物凄い砂埃を上げて。
「うわぁ……マジで危機一髪だったな」
「少しでも遅れていたら、巻き込まれていたね」
「祓い屋の仕事って、本当にスリリングだね〜」
『ヤクザの仕事より、よっぽど危険だよ』と言い、悟史はスーツのジャケットを脱ぐ。
さすがにちょっと暑かったらしい。
「あっ、そうだ。これ、忘れないうちに渡しておくね」
そう言って、悟史は子狸が封じられた御神体を差し出した。
独りでにカタカタ動くソレを前に、リンは『封印を破ろうと必死だね』と笑う。
「確かに受け取ったよ。二人とも、お疲れ様」
『助かったよ』と素直にお礼を言い、リンはふと空を見上げた。
「あとのことはこっちでやっておくから、二人はもう帰るといい」
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