13. 揺らぐ大神

 物音が静まった所でシャンセは漸く門扉を開いた。

 開けたくはなかったが、今の渾神は機嫌が悪い。八つ当たりの被害が怖いので仕方なく開けた。

「あら、おはよう。遅かったわね。もう朝よ」

 渾神は血に濡れた拳を拭きながら、微笑みかけた。どうやら〈神術〉は使わず素手だけでキロネ達に制裁を加えたらしい。それはそれで恐ろしいことだ。

「〈神術〉なんて高尚な物を使ってやるのも腹立たしいわ。私、本当に怒ってるのよ」

「同じ言葉を貴女にも言って差し上げたいですよ」

 思わず嫌味で返してしまった。慌てて口を塞ぐ。

 渾神はきょとんとした顔をしていたが、悪戯を思い付いた子供のように、にやりと笑った。

 そして、唐突にシャンセの頭を撫でる。

 シャンセは驚いて身を引いた。

「ふふ、お世辞でも騙しでもなく、私は貴方が侍神でも良かったのよ。頭が良いし、反骨心も強い。意外と純粋だしね。結構、気に入っていたわ。アイシアの婚約者だったことを除けば」

「……」

 疑念の眼差しを向けるシャンセに苦笑して、渾神は目を伏せ胸元に手を置いた。

「ありがとう。アミュを守ってくれたのね。貴方がアミュの『先生』で本当に良かった」

 穏やかで温かな微笑だった。子供を慈しむ母親のようだ。渾神のそんな顔は未だ嘗て見たことがない。

 きっと彼女の心は今、愛情で満たされているのだろう。

「……ふざけるな」

 シャンセは呻いた。

「愛だと? お前はどれだけ他人からそれを奪ってきた! 『アミュを守ってくれた』? お前の下僕など、誰が誠意で守るものか! 利用する為だ! 私を利用したお前の大切な者。ただその為に、私は……でなければ、誰がそんなもの……」

(アイシア……!)

 心の中で叫んだ。

 気付かぬうちに涙が溢れ出し、止まらなくなっていた。自分が情けなくて遣り切れなかった。渾神を殴り倒してやりたかった。

「それ、うちの子の前では言わないでよ」

 渾神は溜息を吐いた。困った表情を見せてはいたが、その割に余り応えてはいないようだ。

「アミュをどうするつもりだ」

 掠れた低い声でシャンセは問い質す。

「侍神にするつもり。それ以外にはないわよ」

「利用するつもりか。こんな子供まで」

「利用じゃないわ。ただ、側にいて欲しいだけよ」

「反体制の神が天帝の敷いた制度を受け入れると?」

「別に私はあの子のこと、嫌っている訳じゃないのよ。私自身があの子が神族の王になることを望み、そうなるよう仕向けた訳だし。それに、なかなか良い制度だと思うわよ、侍神って。神が完全ではないことを認めるってことでしょ? それは不完全にして不確定たる《渾》を認め、受け入れたということよ」

「……《渾》なんて、本当に存在するのか?」

「何ですって?」

 渾神は眉を潜めてシャンセを睨む。それに張り合うようにシャンセは彼女を睨み返した。

 その疑問はずっと以前からシャンセが抱いていたものだ。

 渾神の神力は余りに強大過ぎる。同位の外神、否、最上位神の光神や闇神よりも強いときている。

 また、影響範囲も広い。《元素》と《顕現》――つまりは全ての存在の境界は例外なく曖昧で不確定だ。それらを遍く支配する《渾》という概念。

「お前は誰だ」

 シャンセは憎しみの篭った悪鬼のような形相をしていた。

 質問してはいても、彼はきっと既にその答えを確信している。そして気付いている。彼女と彼女の《元素》の、傲慢極まりない本質に。それ故の怒り。

(聡い子だわ)

 ずっと憎かったのだろう。憎んで憎んで、憎しみだけを糧に今まで生き続けていたのかもしれない。よくアミュの前で平静さを保てたものだ。或いは、自分と同じく渾神の犠牲者となった少女に同情していたのだろうか。

「今は仲間割れしてる場合じゃないと思うんだけどねえ」

 渾神は項を掻き、シャンセに背を向けた。

 そう、今はそれどころではないのだ。

「そろそろ、来るわよ。脱出準備はちゃんと出来てる?」

 そうして遥か上空の〈封印門〉を見上げ、渾神はまた、にやりと笑った。



   ◇◇◇



「ん?」

 同刻、自室で寛いでいた日神カンディアはただならぬ気配を背中に感じて振り返る。

 背後に立っていたのは白天人だった。確か、メリル・カンディアーナと言ったか。白天人族の王女の一人で侍神候補者でもある。

 彼女が成人した折に一度だけ謁見を許したことがあったので顔は知っているが、それ以降は先日の神宴まで一度も会ったことがなかった。白天人族はメリルを愚鈍と恥じ、公には出さなかったからだ。実際、余り愉快ではない噂を多々聞くものだから、日神がメリルに対し抱いていた印象も決して良いものとは言えなかった。それ故、侍神候補者に選ばれたと聞いた時には大層驚いたものだ。

 そういう問題児であるので、許可なく神の居室に足を踏み入れるようなこともするのかもしれない。

 日神は手を振り、ぞんざいに言い放つ。

「痴れ者が。お前に我が居室への入室を許した覚えはないわよ。早く立ち去りなさい」

 しかし、相手は全くの無反応だった。無礼も良いところだ。

 日神は大きく溜息を吐き、神殿兵を呼ぼうとメリルに背を向けた。その瞬間、日神は背中に強い衝撃を受けた。

 痛みを感じて胸に手をやれば、滑った感触がする。手を胸から離し、恐る恐る掌を見る。その後、胸部を見下ろす。

 すると、自らの身体に水晶の柱の如く透明で美しい剣が穿たれているのが見えた。

「――なっ……?」

「申し訳ありません、日神様。でも、これは世界の繁栄と安寧の為。どうかお許しを」

 艶めいた声だけが聞こえる。

 相手を背にしているので顔は見えない。だが、恐らく笑っているのだろう。そういう声音だった。

「あんた、何言ってるのよ……」

 剣の正体に考えを巡らす余裕もなく、怒りと恐怖が日神の身体を無意識に震わせる。

 そして次の瞬間、〈大祭剣〉は金色の光を放ち始めた。

「ぎゃあああああっ!」

 己の内に食い込み、《元素》を揺るがす力に日神は悶絶した。



   ◇◇◇



「がっ……!」

 ただ事ではない声を上げて天帝が倒れたのを、側仕えの天人達は驚愕の眼差しで見届けた。

 同僚でありながら、主神の前でさえ不仲さを隠さない白天人族と黒天人族が、この時ばかりは一緒になって駆け寄る。

「天帝……? 如何なされました!?」

 そう問われても、天帝自身にも咄嗟に判断が付かない。ただ、内面を抉るような痛みに襲われたことくらいしか分からなかった。

 天人達の表情に宿る不安を感じ取り、天帝は無理にでも立ち上がろうとする。

 世界がぐらぐらと揺らいだ。足元が覚束ない。

 意識を手放しそうになった次の瞬間、今度は強く突き上げられるような感覚に襲われた。

「ぐっ、あ……」

「天帝っ!」

 跪き、吐血する。

 天人達は悲鳴を上げた。

「誰か天帝を寝台へ! それから、医神と薬神をお呼びしろ。早くっ!」

 その声が何処か遠くのもののように聞こえる。室内を彩る装飾の煌めきがやけに目に刺さった。

 しかし、ぜいぜいと息を吐き床に伏せながらも、天帝の思考は不思議と冴え渡っていた。

 二度目の衝撃の正体は容易に理解できた。懐かしい神気、神力の匂い。

(渾神……。いや、渾侍の娘が外に出た)

 最初の衝撃で天帝の体力と神力が削られ、〈封印門〉の効力が弱まった。その隙を突いて〈封印門〉を破壊したのだ。それも、天帝が万全の状態でも容易に〈封印門〉を破り得る渾神の神力ではなく、渾神より劣る渾侍の力で。まるで彼女の覚醒を見せ付けるが如く。

 天帝は深く後悔する。天界から隔離するための〈封印〉は逆に渾侍を守り育てる揺り籠となり、完全な覚醒を促してしまったのかもしれない。心の何処かで渾神が動くまでは猶予があると油断し、判断を迷ったのが間違いだった。渾神出現を確認した時点で、災いの芽は即座に潰すべきだったのだ。

 ぎりりっと、天帝は歯噛みした。

(それに加えて、最初の衝撃……)

 魂の中枢の更に奥――《元素》の海へと意識を集中する。

 波打っていた。荒らされていた。嘗てない程に。

(誰かが《天》に接続した?)

《天》を侵した者がいると、《顕現》たる天帝の肉体が警報を鳴らしていた。

 しかし、そんなことが可能だろうかと理性の部分で疑う。確かに、嘗て《顕現》神でないにも関わらず《元素》を操る者はいた。いたにはいたが、彼女は既に――。

 そう思いながらも、天帝は《天》を深く探る。

 不意に、ある場所で生温い風を感じた。幻影のようなものが意識の端を掠める。

(あの娘は……)

 影は何かを探しているようだった。

 あちらこちらを飛び回り、ふと《天》の一角に目を留め、笑った。

 そして、《天》の向こう側のある場所へ向かって、抜けて行こうとしている。

(駄目だ!)

 それは忌まわしい過去。包帯を取れば今でも血と膿が湧き出してくるであろう傷跡。天帝が神族の王となる以前に奥深く封じ込めた場所だ。

(駄目だ! その先は……!)

 声を上げる力も最早無く、《天》を蹂躙された天帝はその意識を奪われた。



   ◇◇◇



 景色が陽炎のように揺らぎ、続いて天界という存在そのものがぱちぱちと明滅する。まるで油の切れた灯火のようだ。

 今まで経験したことのない怪現象にシーアは戦慄し、体勢を崩して転倒しそうになった。

 しかしながら、すんでのところで闇神が受け止めた。

「申し訳ありません……」

 シーアは少し照れたように闇神から離れた。

 天帝と話をしてから、どうも不自然に闇神を意識してしまう。自分はこれから闇侍にならなければいけないというのにこんな軟弱さでどうするのか。

 否、それ以前にシーアはその話を一体どう切り出したら良いかという時点で悩んでいた。天帝は闇神が当然の如くシーアを侍神にするものと思い込んでいるようで、援護射撃はないらしい。

 つまり、シーアはその気もない闇神を自力で何とか説得しなければならないということだ。

 文字通り頭を抱えて唸っていると、闇神が空を仰いで呟いた。

「《天》が揺らいだ」

「え?」

 呆然と宙を彷徨う目が事の深刻さを物語っていた。

 シーアの脳裏に天帝の疲れ切ったような微笑が浮かぶ。嫌な考えが鋭い痛みを伴って胸を襲う。

「天帝は……?」

 その問いから間を置かずして、第二波が襲った。初回の怪現象とは違って物理的な衝撃が大きかった。轟音と共に床の敷石が粉々に吹き飛び、辺りが一瞬にして粉塵に覆われる。

 それに呼応するように闇神が突然大量に血を吐き、膝を突いた。 

「闇神様!」

 シーアは敷石の欠片で足が傷付くのも構わず闇神に駆け寄り、彼を抱き起こした。

 闇神はか細く呻いた後、また少量の血を吐いた。

 立て続けに襲い来る不足の事態にどう対処して良いのか分からず、縋る思いでシーアは闇神の背中を擦る。咄嗟にはそれしか思いつかなかった。

 幼少の頃に大戦を経験し、戦後以降も多くの神族と接してきて、神が磐石な存在ではないということは十分理解しているつもりだった。しかし今この瞬間の、大切な者を失うこととは別種の心許なさ。神の喪失に対する不安がこれほどのものとは思ってもみなかった。今にも消え入りそうな様子の邪神にさえ、神族というだけで縋り付きたくなってしまう。

 そんな闇神の身体が震えていた。寒いのだろうか。一向に止む気配がない。動揺の余り、シーアは泣きそうになった。

 誰かに救いを求めて叫ぼうとした、その時だ。

「外か」

 粉塵の中から声が聞こえた。何処かで聞いたことのある声だ。記憶の糸を手繰る。

(まさか……)

 シーアは息を潜めた。捕食者を警戒する草食動物のように注意深く様子を窺う。恐怖とほんの少しの期待に胸を震わせながら。

 次第に視界を覆う粉塵が晴れてくる。

 そして一陣の風が吹き、彼の姿が露になった。

 墨染めの衣に漆黒の髪。端正な、どこか自分に似通った顔立ち。

 彼の名はシャンセ・ローウェン・ヌッツィーリナ。永獄の中に失われた筈のシーアの兄だった。

 ずっと待ち望んだ帰還だ。愛して憎んで、死を望んだこともあった。

 けれど、今は熱い涙が溢れて止まらない。

 シーアは思わず叫んだ。

「兄上!」

「その精気……シーア、か?」

 感極まって答えが返せない。

 すると、シャンセは静かに微笑んだ。

「ああ……久方ぶりだね、シーア。大きくなった。触れさせておくれ。私が確かに天界へ戻ってきたのだという実感が欲しいんだ」

 手招きに答えてシャンセに近寄ろうとした瞬間、闇神が再び噎せ返った。シーアは青褪めて闇神の背中を擦った。

 先程より落ち着いては見えるが、顔は土気色で息も絶え絶えという様子だった。脱獄者に気を回す余裕もないようだ。

 シーアは冷静さを取り戻す。油断してはならない。シャンセは敵だ。アミュを騙し利用して、天帝や闇神をこんな目に合わせたのだ。

 ふと、シャンセの足元を見れば一人の少女がうつ伏せに倒れていた。

 アミュだった。

 以前と変わらない、小さな背中だ。けれど、その気配は以前のものとは全く異なっていた。

「覚醒……したのね」

 罪悪感に襲われる。

 思い出した。自分もアミュを利用しようとしていたのだ。

 その結果、アミュは渾侍となり、帰郷の夢は恐らく叶わなくなった。

「いや、どうかな。多分違うんだと思う。もう去ったけど、彼女の身体を依代に渾神が降りていただけだからね」

「依代? あの方はアミュを侍神に望んでいたんじゃなかったの?」

「相性が悪いのかもしれないね。アミュはずっと地上人の世界に帰りたがっていた。つまり、変化しないことを望んでいた。けれど、渾神は変化を望んでいる。そこで折り合いが付かなくなり、渾侍としては機能し難くなってるんじゃないかな」

「じゃあ、渾神がアミュを諦める可能性も……」

「あるかもしれない。でも、持久戦になると思う。アミュには是非いつまでも折れずに抗い続けてもらって、この世にはお前の思い通りにならないこともあるのだと、あの性根の曲がり切った女神に思い知らせてやってほしいよ」

 心底不愉快そうな顔をして、シャンセはアミュを見下ろしていた。

「思い知らせる、か」

 その言葉にシーアは笑う。方向性は真逆だけれど、何だか自分と天帝の関係に似ているような気がした。

「アミュは兄上の分身なのね」

「うん? ああ、そうかもね。私の代わりに渾神を痛い目に合わせるんだ」

 シャンセも笑った。

 笑いはしたが、シーアが抱きかかえている男を見て、途端に冷たい顔付きになった。

「シーア、〈星読〉で見たよ。闇侍になるのかい?」

 シャンセの冷淡な表情の訳にシーアも気付いた。黒天人族の王太子であったシャンセは、長い間天帝の側に仕えてきた人間だ。天帝と闇神が友人関係にあったことを知っている可能性はあった。

「まだ、天帝のことをお恨み申し上げているの?」

 そう、尋ねてみる。

「《光》側の指導者として人々に《闇》側を憎悪するよう仕向けておきながら、裏では《闇》側の最高位神と親交を結んでいたから。だから、天帝に不信感を抱いて反逆したの?」

「違う」

「じゃあ、何故?」

「見てしまったからだよ」

「……?」

 宙を睨んだシャンセの表情が更に嫌悪で歪んだ。

「起こってはならなかったものを――」



   ◇◇◇



 一面の白い空間。その中心に古びた扉が一つ浮いていた。

 そこはメリルが知る天界の情景とは少し異なった空間だった。

 天界の一部でありながら、他とは切り離された世界。ずっと、天帝が隠し続けてきた場所だ。

 でも、その理由を彼女は知らない。疑問にも思わない。

(〈封印門〉……?)

 そう、神宴の折に地上人の少女アミュを永獄へ封じたあの〈神術〉に酷似していた。

「あ!」

〈封印門〉の隙間からは金色の光が無数の針のように漏れ出していた。

 メリルはそれが光界の光――自分を温かな世界へと引き戻してくれる神の輝きだと気付いた。

 そして、確信する。やはり、自分の立てた仮説は正しかったのだ。

《天》は《光》より生じた《元素》だ。つまり、《天》は《光》と根底で繋がっているということになる。

 また、光界は《光》の《顕現》であり、〈大祭剣〉の効果の一つは神と《元素》の連結を強化しその神力を増大させるもの――更に踏み込んで言うなら《元素》と《顕現》の接続を無理矢理抉じ開けるものである。

 故に、〈大祭剣〉の力でまず《天》に接続し、《天》を経由して《光》へと至り、更にその《光》から本来ならば門を閉ざされ干渉できない筈の光界へ、《光》と光界の接続を無理矢理拡張することによって渡ることが可能なのではないか、とメリルは考えたのだ。

 しかし、その考えを実行に移すには一つ問題があった。天帝の肉体を媒介にしようにも、メリルの立場ではその姿を拝見することすら困難だろう。まして、側に近付くことなど夢のまた夢だ。

 だから、メリルは日神カンディアに目を付けた。《日》は《天》より生じた《元素》であり、日神は白天人族にとって天帝以上に身近な存在でもあったからだ。少なくとも天帝の身辺よりは警備が甘く、白天人族の王女であるメリルの権限をもってすれば、許可を得ずとも何とか側に近付けるだろう。

 こうして、メリルは日神の肉体を媒介として《日》に接触し、《日》から《天》《光》を経由して光界へ抜けようとしたのだ。

 だが、光界に出る前にこの〈封印門〉に阻まれてしまった。

 流石は天帝と救世王女が開発した〈術〉だ、とメリルは感嘆するが、ここまで来てしまえば後はどうとでもなる。

(この〈祭具〉、効力が大きすぎて一度に二つの用途では使えないんだわ。さっきはただ《元素》の海を渡るのに集中していたから、〈封印門〉に弾かれてしまった。でも、今度は〈封印門〉を突破することに集中すれば……)

 愉悦の喘ぎが漏れ、勝利の狂笑が白い世界を犯した。

「ああ光神様、早くお助けしなければ……!」


 ――貴方の侍神はこの私!


 メリルは勢い良く閂に〈大祭剣〉を突き立てた。


 ――かんっ。



   ◇◇◇



 脳裏に響く一つの金属音が天帝の意識を呼び戻した。

 覚醒の夢心地を一気に通り過ぎ、感情と理性が急速に昂ぶる。

(浅はかで欲深いばかりの小娘が――!)

 かっと天帝は目を見開いた。

 金色の千里眼は憤怒に打ち震え、愚かな反逆者の姿を完全に捕捉する。

「消えろっ!!」

 耳を劈く音を立て、大雷がメリルの身体を打ち抜いた。

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