第三章 8


   (大廊下でクローディアスが祈っている。背中しか見えない)


クローディアス  罪を清める雨を降らせていただけないものか、それをしてくださらないというのなら、やはり少々面倒な男は遠くへ飛ばしてしまい、いつものように偽の手紙によって罪をかぶせて、存在をもみ消す他はない。

 そこまで追い詰められているのだ。ああ、人間という罪深い生き物がこうして困っているのも、いつまでも許しを与えてくださらないお方の責任では。

 いやいや、もっと単純に願いたい。大いなる神様のお力で、あいつが変な粉を吸い込んで、死んでしまっていればよかったものを。

ハムレット (声をひそめて)見つけたぞ、この人非人めが。……今こそ、今こそ罪の重さを思い知るがいい。

クローディアス  ああ、どうかどうかお願いいたします。ぜひともあいつが苦しみ、のたうち回って、もがきますように……。

ハムレット  うっ(何かに気づく)、……あの姿、あの背中、あたかも、三蔵法師殿の祈りのお姿に瓜ふたつ。

 たった今も、おそらく孫悟空殿の快癒を祈っておられるに違いない。あの毒蝮そのもの、人でなしの下郎に、今こそ正義の刃を振り下ろす好機だというのに……。

 今こそ復讐を遂げる絶好の……(振り上げた剣を落とす)、あああ、(頭に手をやって)痛い、痛い! (のけぞって倒れる)痛い! 

 止めてくれ、こうも締め付けられては、痛ーい! 

 あっ、ああ! 頭が割れてしまう! 

 痛い、痛い、やめて、止めてくれ! あーっ!


   (クローディアス、気づかずに退場)


 ハムレット  助けて! 痛い、痛ーい! 痛い、やめてくれ、助けてくれ……



   (気絶する)


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