六眼の王~全てのスキルを奪う

パンパース

第1話 愛の強奪

今日も負けた。

中学に上がって一年が経つ。

みんなは式神と契約を交わし実力を付けている中、俺だけは式神と契約できずにいた。

普通、生まれた時に式神と契約するはずだが稀に歳を経ってから契約する者もいるらしい。

しかしそれでも一歳や二歳の赤ちゃんの時期に契約を交わすのが基本だ。

俺の下にはいくら経っても式神が来ることは無かった。


「あらロイ、おかえり」


母親からの返事を無視し、俺は自室へと走っていく。


「ちょっと、手洗いしなさい!」


その怒声にイラつき、壁をドンと叩いて舌打ちをする。

自分が出来ないこと、そのイライラを母親にぶつける。

理不尽なことはわかっているが、些細なことでイライラが止まらなくなる。


「どうして俺だけ…」


神様から見放されたのだろうか。

信じているわけではないが、ずっと夜の数だけ願ってきた。

明日こそ式神が来ますようにって。

いつからだろう。

そんなことを願うことなく眠りにつき始めたのは。



「ご飯よ!」


その声に目が覚める。

時刻は19時。

いつの間にか眠っていたのか…

俺は頭を掻きむしりながら一階に出向き、食事をとる。


「ねぇ、学校はどうなの?」


「……」


「友達とはちゃんとやれてる?」


「うるさい」


「なによ、聞こえないけど」


「うるせえって言ってんだろが!!」


俺は食べてる箸を母親に放り投げ、再び自室に戻る。

週に一回、母親と飯を一緒に食う時間がある。

それ以外の日はいつも仕事で帰ってこれないため、俺は一人で飯を食う。

無駄なことだとはわかっている。

しかしこのストレスを発散しないと爆発しそうなのだ。

そう意味の分からないことで自分を正当化しないとどうしようもなない。

無様で滑稽?

もうそんなのとっくの昔に考え、捨てた。


「もういっそのこと…死んじゃおっかな、」


深いため息を吐く。


「式神持ってない雑魚が」

「おーい、雑魚w」

「近寄るなよ、」


何度も聞いた同級生の声。


「なんでこんなこともできないんだ?」

「式神がないのを言い訳にするな」

「お前、どうやって生きていくんだよw」


何度も笑っていた担任の教師。


「可哀そうな子ですわねw」

「式神がないって本当ですの?w」

「うちの子があんなんじゃなくてよかった」


同級生の親が俺の母親に向けていた言葉と笑顔。

悪夢にも出てくる俺の敵。

あぁ、うるさい。

もう黙れよ。


「キャァァァァァアアアア!!!!」


「なんだ!?」


大きな地響きと共に家が揺れる。

いや地面が、世界が揺れてる。

窓ガラスの割れる音、母親の叫ぶ声、地響きの声が混ざる。


「クソ、」


明かりが消え、真っ暗な世界と共に瓦礫が身体に降り注がれる。

その時察した。

家が、崩壊したことを。


「ハァハァ」


「ロイ!大丈夫!?」


「…何があったんだ、」


「分からない…」


日頃から鍛えているため、家が崩壊しても死ぬことは無かった。

ただ、俺の右足は潰れた。


「足…」


「いいから、どうすんだよ」


心配する母親に舌打ちをし、俺は頭を掻きむしって苛立ちを見せる。

俺たちが住んでいる場所は辺りに人は住んでおらず、山の中。


「ちょっと、何よあれ…」


震える声。

母親の指さす方へ目を向ける。


「なんだ…あれ、

 は?」


この目に映るそれはこの世のものとは思えない光景であった。

数は千を超えているだろう。

有象無象に湧き出ているそれは、

醜く遠くからでもわかるそいつらの名は悪魔。


「なんであんなに…」


悪魔は群れても二匹や三匹。

あれは万ほどいる。

明らかに規格外。

山里の下は火が燃え上がってる。

聞こえては来ない悲鳴が聞こえる。

そして背筋が凍る。


「おい、あの悪魔たちこっちに来てるぞ…」


「え、」


「あいつは何してんだよ、」


「なに、あいつって?」


「親父に決まってんだろ!!」


俺は勢いよく母親の胸ぐらを掴み睨みつける。

 

「お父さんは…」


「英雄なんだろ?

 なぁ?

 何してんだあの親父。

 必要な時に居ないなんて英雄でも何でもねえじゃねえか」


母親は黙り込んで俯く。



「逃げろよ」


「何を…」


「逃げろって言ってんだろ!!」


「無理よ!!

 ロイを置いては逃げれない!」


「バカ言ってんじゃねえ! 

 老い耄れババアに心配される程弱くねえ」


嘘だ。

式神も使えない俺が使える母親より強いわけがない。

身体能力も賢さも才能も、すべて負けている。

ただ、それでも意地を張りたかった。


「いいから行け!!!」


痛む足を食いしばって俺は母親をぶん殴る。


「無理よ、私は…」


母親はそう言うと式神を召喚する。

青い光が母親を囲い、目の前に大剣を持った剣士が現れる。


「おい…」


「アイル様、ご要望は」


「ジンクス、彼を…ロイを守って」


「承知しました」


「待て…クッ、」


ロイは足に激痛が走り歯を食いしばる。

嫌な予感がした。

辺りが暗くなる。

いや、何かの陰に入ったとすぐに分かった。

それは雲でもない。


「ミツケタ」


翼の生えた黒紫色の化け物、悪魔。

終わった。

その悪魔は母親の目の前でニヤついてる。


「オンナ、ダ」


「や、やめ…」


ロイは立ち上ろうとするが、片足が使えない。


「おい、俺の…母さんを守ってくれ」


「ダメよジンクス。

 息子を連れて逃げて」


「わかりました」


「待て、待ってくれ」


「どうした?」


「母さんを助けてくれ、頼む!」


「主の命令は絶対だ。

 それを叶えることは出来ない」


「なんで…」


ロイはジンクスに抱えられ、山の奥に走っていく。


「いや、やめろ!

 とまれ、止まってくれ! 

 とまれっつってんだろ!!」


しかし止まらない。

母さんの身体が小さくなっていく。

遠くなっていく。

いやだ、

もう会えなくなるなんて嫌だ。

お願いします

神様

もう逃げません

戦います

向き合います

だから、

だから俺に力をください。

もう逃げないから

俺が英雄になるから。


「母さんを助けてくれえええええ!!!!!!!!!」


悪魔に抱えられる母親の姿。

服が破かれていき、行為を始める。

噛みしめる唇は血を吹き出し、目から血が流れる。

あぁ、地獄ってこういう事か…


「ブハッ!!」


ロイは唐突に投げ出される。

ロイを抱えていた式神は、

母さんの式神はいつの間にか消えていた。

それが何を意味するか。


「くそ、くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお 

 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

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