【13】 【体育祭①】氷の貴公子の炎舞


 体育祭の日は爽やかな五月晴れであった。


 体育祭は、王都のコロシアムを借りて開催される。

 魔法が使用される競技もあり、結構な大規模である。

 保護者も観覧しにくるし、出店もあるので、ちょっとしたお祭り状態だ。


 開催の花火が上がり、学園長の話しが終わるとともに、聖火台に火が灯される。


 聖火台に火を灯す役目はルイスだった。

 家門の地位と、火属性である事と、成績や容姿の良さにより、その役目を与えられてしまった。


 月桂樹の冠をかぶり、古代の聖者の服だというやたら白くてダラダラ長い衣の服を着せられ、火属性魔法の炎をまとわせた剣で点火するのだ。


 聖火台は観客席の一部が舞台となっている場所に設置されている。


 その会場中の注目を集める場所で、炎を使った舞――炎舞を踊ることになる。

そして舞の終わりに点火するのだ。


 伝統だそうだ。

 ちなみに、体育祭における火属性というものは、これくらいしか活躍できる出番がない。


 他人からしたら物凄く名誉な立場であると言える。


 辞退したかったルイス本人の思いとは裏腹に、会場からは手拍子と、歓声がとんでくる。


 なぜ辞退しなかったのかって?



 ――その日、部活で絵筆を握っているところに、学院長がやってきて、引き受けてくれないかと打診されたのだ。


 断ろうと口を開こうとした時。


「ルイス先輩、学院長がわざわざ美術部室に来てまで勧誘されるなんて、すごいですね! おめでとうございます!」


 ――そう、傍にいたエステルが褒めてくれたのである。


「(……うっ) ……わかりました、承ります」


 エステルにしたら社交辞令だったかもしれない。

 だが、ルイスが引き受けようと思うには、その言葉には充分以上の威力があった。



 銀髪の美しい少年の炎さばきが会場中を魅了する。


「(恥ずかしい、泣きたい。……煙臭い。終わったらシャワー浴びないとな……)」


 そんな事を思いつつも、完璧に炎舞をこなすルイスは、老若男女を魅了した。


 ルイスが手振り身振りする度に、キラキラと汗が飛び散る。

 黄色い歓声が、ため息をともなって、ルイスは会場を沸かせることに成功した。


 最後に一礼すると、割れんばかりの拍手であった。

 クラスに割り当てられた座席でそれを鑑賞していたエステルも、魅入られていた。


「(先輩、すごいなぁ……)」


 エステルは昔、ルイスにひどい言葉を浴びせられはしたが、ルイスが学校で良い成績を納めて表彰されるのを見たり、美化した(とエステルは思っている)自分の肖像画を描いてくれたりと……最近の彼に関しては、先輩としては尊敬の念を抱くようにはなっていた。


 ルイス本人は『なんだこれ、オレは一体何をやっているのだ……』状態ではあるが、エステルがもし、そんなことを思っていると知ったら、何度でも踊るだろう。


*****


 ルイスが舞を終えると、選手宣誓、そして競技が始まった。


「1着!! カンデラリア=ジョンパルト公爵令嬢!!」


 箒(ほうき)レースは、マジックアイテムで各走者の箒から、カラーの付いた煙がでる。

 7人でレースするので、空に虹がかかるようだ。


「おつかれ、おめでとう」


 シャワーを浴びてきたルイスがタオルで自分の髪を拭きながら、一着をもぎ取り、クラス席に戻ってきたカンデラリアに言った。


「ありがとう。あなたの炎舞も素晴らしかったわよ」

「炎舞の話しはやめてくれないか……」

「あらあらどうして? そういえばあそこにいるエステルがキラキラした瞳で見てたわねぇ……(エステルのクラス席を指差す)」

「……。オレの舞は、おかしなところはなかったか?」

「炎舞の話やめたかったんじゃなかったの?」

「気が変わった。反省すべきところはなかったか」

「そう……? とても良かったわよ。その証拠に会場が沸いてたじゃない(くっそwwwwww)」


「エステルがそろそろ出番か」

「あら、そうね。席をたったわね……うわ」


 ――カンデラリアが、思わず『うわ』、と言った理由は、エステルの二人三脚の相手だった。


 エステルの相手は、9歳にしては背丈と横幅がありすぎる男子だった。


「……ちょっと、体格差がありすぎだろう。くじとはいえ、もうすこし考慮すべきじゃなかったのか?」


 ルイスが眉間に皺をよせて言った。


 体育祭の練習はローテーションで運動場を使用していたので、様子を見に行けることもなく、そのせいで部活も時間が合わなくてすれ違いが多かったので練習はどうだ、という話しもする事はなかった。


 ……こけないか心配だ。むしろ練習で何度も転んでるんじゃないのか、あれ……。

 

 ルイスはハラハラして、気がつけばクラス席の一番前に座り込んでいた。


「(あああ……尊い! なんて尊い姿なの我が子……!!)」


 そしてその背後で、その様子を見守るカンデラリア(ポーカーフェイス)だった。





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