【KAC20242】とある夫婦の一日

麻木香豆

🏠

「いらっしゃいませ」

 住宅案内係の山本がとある若い夫婦とその子供を案内する。


「お家見に来ました」

 夫の方がそう言う。

「ようこそお越しくださいました。来場記念としてこちらのプレゼントをどうぞ」

 山本は何かが詰まった紙袋を妻の方に渡す。

「ありがとうございますー。あなたぁ、もらっちゃった」

「これこれ、中身は家で開けなさい……それよりも今日は家を見に来たんだぞ」

「はぁい」


 妻は山本から渡された名簿に名前を書く。お世辞にも良い字ではないが。


「増山康二 佳苗」


 山本の案内で増山夫婦たちは家の中を内覧する。

「わぁー広い」

「こちらはリビングです」

「台所も綺麗だわー」

 佳苗は台所に喜びテンションが上がっている。康二はハイハイと苦笑いしながら部屋を見渡す。


「カウンターキッチンですのでお子さんの様子もしっかり見られますからね」

「それはいいなぁ」

 康二がそう言うと佳苗の顔は曇り、小声で言った。

「私は孤立式のキッチンがいいのに」


 康二は台所の横のスペースを指差した。

「あの、このスペースは?」

「ここはワークスペースですね。奥様のミシンとかアイロンがけとか」

「なるほどー」

 山本と康二が浴室に移るが佳苗はまだ子供とその場所にいた。


「何が、ワークスペースだ。書斎は別で一室あるのになんで私はこのちっちゃなスペースに閉じ込められなきゃ行けないの。どうせここは子供達のおもちゃ置き場になるわよ」

 と佳苗は鼻で笑った。


 浴室、トイレ、和室、一階をぐるりと回り二階に行く。


「奥は子供部屋、こちらは夫婦の寝室です」

 山本が案内した後、康二は

「すっごい広いなぁー。寝室もすぐ横にあるし。めっちゃいい……あ、会社から電話」

 と康二は慌て一階に降りて行った。


 山本は佳苗と子供を見る。

 佳苗はニコッと微笑んだ。

「ねぇ、なんで夫婦は同じ部屋で寝なきゃダメなの?」

「え? あ、もしご希望であれば別にもできます、ええ」

「書斎も無くすことはできない?」

 佳苗は山本を問い詰めた。

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