剣と盾の怪奇録〜生首奇譚拾遺〜

宵待昴

第1話 居間にあった首(1、むかしばなし)


家に帰ると、居間のテーブルの真ん中に見慣れない木箱が置いてあった。叔父さんのだろうか。古く黒ずんだそれに触れる気も起きず、僕は二階の部屋に戻ろうとして、背後にがごん、という音を聞いた。振り向くと、木箱が落下している。テーブルの真ん中にあったのに。突飛なことに動けずにいると、落ちた辺りから、笑い声が聞こえた。黒いものがふわりと浮かび上がる。つやのある髪。いな、首だった。黒い長髪の男。の生首。

「おや。このあたしを見ても悲鳴一つ上げないたぁ、肝の座った兄さんだねェ」

悲鳴を上げるタイミングを完璧に見失ったので、とりあえず頷く。

「……綺麗な髪ですね」

男の顔を見れば、顔も大分整っている。同性の僕から見ても、おお、美人だなと思う。生首は途端に大笑いしだした。

「第一声が、綺麗な髪ですね、て。もうあたしに腹は無いが、腹を抱えて笑うとはこのことかね」

ゆっくりと、男は僕の目の前まで飛んで来た。つややかな黒髪が、僕を飲み込むようにふわりと広がる。

「兄さん面白いねェ。あたしの昔話聞いてくれないかい?まともに話せる相手が少なくてサ」

「えっ、」

それはそれで困るなと思った時、僕の背後から不意に手が振り下ろされた。

「なにそそのかしてやがる」

良い音がした。髪が離れ、生首がまた落ちる。振り向くと、叔父さんが極悪な目で生首をにらんでいた。



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